始まり 片想い
初めて隣りを歩いたのはいつだろう。
恐らく春の日だ。それまでずっと何故か、よく通路で道を譲る合う場面が多かった私達は帰路につくときにたまたまエレベーターで出会った。中途入社のあなたは在籍期間の長い私に逆らえなかったのか、良い関係を築こうとしたのか、駅までの十分ちょっとをお喋りに付き合ってくれた。
秋になり、あなたに恋をして気がついたことがある。あなたの横を歩く心地良さ。それはあなたの私への配慮、気遣いである。ただの同僚である私に対しても心配りを欠かさないのがあなたの素敵なところだと思う。惚れた弱みでもあることは否めないが。
一度だけ、サクサク歩くあなたの横を歩いた。結局、数十メートルも歩かずにあなたは速度を緩めた。そういう人だ。優しい人、そして私はたぶん身勝て・・・自由だ。
夏の終わり、秋の初めころから2週間に一度ほどのペースでなんとなくに見せかけて、飲みに誘っても嫌な顔一つせずあなたは付き合ってくれた。その時だけ、私はあなたの横を歩くことが出来る。
あなたの横はいつも私のペースで歩める場所だ。雨の日にくるくると傘を回しながら公園への寄り道につき合ってくれた時も、一つの傘に入れてくれた時も、寒いとストールに顔を埋める日も。いつもどんな時も一緒にいてくれる時、あなたは私をベースに動いてくれる。おおらかに私のダメなところも受け入れて笑う。
手を繋ぎたいと思った。歩く速さと歩幅、だけではなくて指も手も合わせたいと。同じ速度、同じ歩幅であなたと歩いていきたい。これから、この先の人生を。
「あなたが好きです。」
答えはまだもらえていない。それでも、あなたの気持ちの速度が私と同じになるまで、のんびり私はあなたを待っているつもりだ。噛み合わない距離感になってしまわないように、あなたにばかり無理をさせないように。思い上がりでも構わない。
あなたは、私が出会った同じ速度で同じ歩幅でずっとずーっと歩いていきたい人だから。
素敵な夜景の見えるレストラン、テーマパークのクリスマスなんてなくていい、あなたとなら日常も特別だ。一緒に週末、お散歩をしよう。手を繋いで同じ速度と歩幅で。




