終焉
隣りを歩いている。私よりも少し早い速度、もともと大きな歩幅。これだけで私には分かることがある。
『この恋はそろそろ破局する。』
ということだ。
2週間ぶりに会った彼の歩く速度は速い。今まで、この1年程の間でほとんど感じてこなかったのにも関わらず。先月の彼の家からの帰り道もそうだった。袖を軽く引いかれた彼は、その事実にその瞬間だけ気がつき、私に合わせてゆるりと歩いた。
私は彼の袖も手も腕も裾も引かない。これは私の決別だからだ。そして長いようでそうでもない交際の終焉だ。たった2週間の間に私の中でなされた葛藤も苦悩も、それに伴う睡眠不足も彼は知らない。関係もないこと・・・いや、関係のなくなることだ。
「最近どう?仕事は順調??」
なんでもないように話す。
「ああ、ちょっと落ち着きそう。でも昨日も休日出勤でやになる。」
彼も何でもないように返す。
「相変わらず忙しいね、大変だ。」
「そっちはどうなの?」
「んー。ちょっと残業したくらいでいつも通りだよ。」
「そっか、いいね。」
二人の中の曖昧な距離が微妙さに拍車をかける。
お互いに知っているのだ。「さよなら」「さよなら」
未だに彼の歩みは少し早い。中途半端な二人の間の距離。これまでなら、1か月ぶりでも手を繋いで指を絡めて歩いていたのに。もう、歩幅も速度も手も指も合わない。それでも笑顔で平静に歩く。半年前に別れ話をされた時は、まだ同じ速度で歩けていたことを思い出す。でも、これからは私の速度で歩く。
言葉に変えよう。
この距離を、咬み合わなくなった二人の関係の終末をきちんと。この先の一生と比べると短くて、これまでの日々と比べると少しだけ長い時間の二人へ「ありがとう」を込めて。
「さよなら」
今度はずっとずーっと同じ速度で歩ける相手を見つけるね。だから、あなたも見つけてね。




