その2
――戦場とは。
それは地獄である。
それは不滅である。
それは悲劇である。
それは友情である。
それは希望である。
それは絶望である。
十人に問えば、十の回答が得られるであろうそれに、中河由美はかつて淡々と答えた。
戦場とは、武士を生み育む場であると。
初めてそれを聞いた時、この女は冷たいと思った。多くの人が死に、肉体や心で傷付き、苦しみをもたらされることになるというのに、そのような突き放した言い方はどうなのかと思ったのだ。
だが彼女という女性を、いや中河由美という現代の武士を改めて見つめ直した時、なるほどその言葉は彼女にとって日常だったのだと気付く。
高校時代にバスケットボールの選手として注目されたが、突如飛び級で大学に進学。けれどもその動向がやはり多くの人々に晒された彼女が、次に叩いた扉が防衛大学校だった。
そんな特異な経歴を持つ彼女にとって、軍は水が合ったのか、昇進が早く二〇五四年、二十七歳にして大尉となっていた。
前方四百メートル、十字路の左に隠れていた敵車両が、急速回頭する独特の駆動音が聞こえた。
由美は思わず舌打ちした。せっかくアクチュエーターのパワーをカットした、静粛モードで隠密接敵につとめていたのに、視界内に捉える前にそれは無為にされた。
敵が、車体を百八十度回頭させることで砲塔のフェーズドアレイレーダーで周囲の精密走査を実行したのだ。
レーダー波検知。視界に浮かび上がった表示に目もくれず、手足と口が動く。
「ミリタリーモード」
音声指示と同時に、右手に持った四五式対装甲自動小銃の安全装置を解除し、左側に並ぶ五階建てのビル群に向かって駆け出す。
敵はこちらを見つけたのか、角から砲口を突き出し狙い撃とうとしている。
《ミリタリーモード、レディ》
出力を最大にする準備が完了したと告げる、機体の人工知能。
敵車両が、角から姿を現した。角張った結晶体装甲に包まった、三十トンあまりの巨体。
こちらに向けられているのは九十ミリ電磁投射砲。現行実用化されている戦車砲で、最強のそれが彼女を狙う。
彼女を見つめる暗く真っ暗な砲口。背筋を冷たいものが這う感触。
竦み上がりそうな身体を叱咤し、駆ける彼女の足が、地面のアスファルトを踏み切る直前、彼女は叫んだ。
「ライズ!」
途端、彼女の全身を包むように短く高周波音が鳴り、身体を肉を押し潰す重圧が容赦なく襲い、一瞬の意識の喪失のあと彼女は、空中にいた。
入れ違いに、彼女がいた地面のアスファルトが十数メートル根こそぎ剥がされ、遅れて爆音と衝撃波が四肢をもぎ取らんとするかのように襲い来る。秒速四千メートルの初速で放たれた砲弾は、余波だけで人体を粉砕するに足る。
だが、彼女に負傷は無い。
格闘機――日本連邦国防軍が、二〇四一年に制式採用したG1武蔵と呼ばれる装備のおかげだった。関節部に炭素繊維筋肉を備え、強化炭素繊維防御と複合装甲を身に纏い、装甲車両に対抗出来る銃火器を扱い、複合センサーによる広大な視野を持ちながら、装着する者の意思に百パーセント追従する、歩兵用装甲強化兵装機構41ジャッカルという商品名を持つ現代の鎧。
由美の動きに合わせ、フルパワーで踏み切ったG1格闘機は、ビルの壁面に向かって跳躍し、砲撃を回避していた。
衝撃波でビルに叩きつけられるも、左手の四指を伸ばして突き出す。その動きに機体が反応し、手首の複合装甲が指を覆い、そのままコンクリートの壁面に突き刺さった。
だが、壁にぶら下がっていてはただの的だ。彼女は両足で壁を蹴り付けて倒立し、そこからブリッジの要領で壁面を登る。
両足裏に備えられた六本のチタン製の爪――アイゼンが壁に突き刺さりながら固定する。一見、無駄な動作だが、素早く行なうことによって、相手の自動照準に若干のタイムラグを引き起こすことが出来る。
左手の関節保護機構が働き、左手を壁から引き抜き、両手で自動小銃を保持する。
由美の射撃の意志を、AIが彼女の動作から認識し、腰から下の全関節のロックを行なう。とはいえ、足裏のアイゼンだけでの姿勢保持は、それほど長くはもたない。時間は僅かだ。
地面に平行に直立したまま、由美はライフルのトリガーを引く。重く腹に響く緩慢な連射音とともに、炭素筋肉が制し切れない反動が伝わり、五ミリ×一五〇マイクロAPSDF弾が敵戦車に向かって立て続けに飛翔する。小さな直径ながら、金属の侵徹作用を利用した細長い針のような銃弾は、戦車の上面装甲を穿つことが出来るし、レーダーやセンサーに命中すればそれなりの痛手となる。
事実、再度発砲しようとしていた戦車は、八輪のタイヤを支えるアームを巧みに動かし、上面装甲を庇うように姿勢を上向きに変え、交差点からビルの陰に隠れた。
発砲した十発のうち、命中は八。四百メートルの距離でたいした精度だ。狙撃に定評のある由美とはいえ、火器管制装置の性能は申し分ない。
「ロックオフ」
下半身の関節のロックを解除して、壁面にしゃがみ込み、屋上に向かって蹴り登る。左手と両足のアイゼンを使って、まさにジャッカルのように壁面を駆け上がる。
それはまるで、前方に広がる青空に飛び込むかのような勢いだった。
水平の屋上に辿り着いたが、敵の攻撃を避けるため三点姿勢を維持したまま、深い溜息を吐いた由美。
格闘機には生命維持と継戦能力向上のため、高G機動時に低酸素状態を防止するために増血剤を注入したり、身体を締め付けて血流を操作する機能がある。しかし、主力戦車との戦闘時や、トップエースにして最高の格闘兵である中河由美の操作では、ジャッカルの処理は追い付かなかった。
今の彼女は、全身の中身を激しく掻き回されたような状態で、重石のような気だるさは半端無い。
だが、まだ敵を撃破していない。その事実が、彼女を溜息たった一つから即座に戦闘に復帰させた。
彼女は、ビルの屋上からすぐ隣りの屋上に跳んだ。最高速度、毎時六十八キロの高速移動能力を持つ格闘機にとって、この程度の距離はたいした問題ではない。
「どうしようかな……」
ジャッカルを跳躍させながら、由美はいかに敵を撃破するか考えていた。
現代戦車。
殊に日本製戦車は、最新テクノロジーを満載していることで世界的に有名だ――奇妙なのは、国内よりも海外の方が有名だったりすることだろうか。
結晶体装甲は、単一金属でありながら分子間力を操作することで、材質の特性を変化させ積層化されているため装甲の厚みは従来の三分の一となっており、電磁投射砲は無反動かつ百二十ミリ口径砲を上回る威力と射程を誇り、アームで懸架された四基八輪の装輪ユニットは自在に動かすことが出来、自由自在の姿勢変更、装輪車両としては類を見ない不整地での圧倒的踏破性を手に入れた。さらに近接要撃兵装として、対空対人結晶体レーザー砲を有している。センサーには赤外線、光学はもちろん二基のフェーズドアレイレーダーを備えている。
以上をひっくるめ、三六式戦車は、高い対空対人防御能力も有する小型高機動要塞と化している。
二十一世紀に入ってから、自衛隊の戦車はイカれているという評価は付き纏っていたが、今、由美が戦っている、日本連邦国防軍の三六式電動戦車はその性能ゆえに戦車を名乗っていることを疑問視され、機動兵器を名乗れと揶揄されている。
今まで、二回の対外派遣を経験している由美は、各国の戦車をある程度目にしているが、三六式は確かに常識はずれの性能を有していた。
先ほどの、装甲の薄い砲塔上面を狙った由美の銃撃も、三六式は瞬時に高仰角姿勢を取って、正面と側面の装甲で受け止めたのだ。おそるべき柔軟性と即応性である。
高熱源飛翔体感知。ヘルメット内に映し出された、外界の映像に着弾予測範囲が表示される。敵は、上方に向けた間接照準に切り替えたようだ。ぴったり由美の進路上のビルとビルの隙間を狙っている。おそらく榴弾。着弾まで二秒。
とっさにしゃがみ込み、足裏のアイゼンと左手の装甲を床に打ち込み急制動。さらに直角に飛び退ける。内臓が捩れるような重圧に意識が遠のきかける。
直後、真っ赤な火の玉が目の前で膨れ上がる。火の玉の中から無数の金属片が飛び散り、いくつかが複合装甲に当たりくぐもった騒音が由美の耳朶を震わせる。やはり榴弾だった。
眼前には何もかもを吹き飛ばし、焼き尽くす業火。
しかし、由美はそこに勝機を見出した。
敵は、格闘機を理解し切っていない。榴弾は対人兵器としては有効だが、完全ではないにしろ複合装甲を備えた格闘機にとっては、直撃を除けば脅威にはなりにくい。
そして、立て続けに表示される着弾予測。どうやら敵は、榴弾の連続砲撃で由美を仕留めるつもりのようだ。同時にそれは、敵のコンディションが悪化していることをも示していた。
榴弾は、集団を一網打尽にするか、精確な照準が出来ない移動標的に対して使用する物だ。フェーズドアレイレーダーを備える三六式戦車なら、レーダーで狙いを付け、電磁投射砲の徹甲弾や搭載の対戦車ミサイルで撃ち抜けばいい。
それを即座にしないというのは、由美が先ほどの攻撃でレーダーに傷を負わせたか、あるいは止めは刺すために温存して、誘い出されたところを撃ち抜くつもりか。
なら、試すしかない。
走る。立て続けに落下してくる爆炎を潜り抜け、最大速度でG1は駆け抜ける。
炭素繊維筋肉によって、数十倍に増幅された彼女の筋力は、一ストロークで二十メートルほども跳躍させ、次々とビルを走り超えていく。
数発の榴弾を避け、三六式が潜む大通りを形作るビルの列に辿り着いた彼女は、敵を光学で捉えた。
瞬間、直接照準で放たれたEM砲から放たれた砲弾が、コンクリートの構造体を直径数メートルの円状に抉り取っていく。二十一世紀の日本製戦車が得意とする、光学捕捉自動要撃能力だ。相変わらず桁違いの反応の速さと、人外の威力だ。
事前に予測して、一瞬だけ姿を晒した由美は回避し、さらに衝撃波に弾き飛ばされるようにビルの反対側に飛び降り、地上五メートルほどの位置に取り付いた。
着弾警告。光学照準なら徹甲弾なのに、見えなくなったら榴弾に切り替える。敵はレーダーを失った可能性が高い。
「格闘機の本当の使い方、教えてあげる」
そのまま壁面を駆け抜けながら彼女は独り呟いた。
まるで少年マンガかVFX映画のような光景だが、足裏のアイゼンが壁面を捕えている僅かな時間に、次の歩を進める彼女だからこそ出来る離れ業だった。
敵の榴弾攻撃は続く。
しかし、地上五メートルを走る彼女の上――屋上で炸裂する砲弾からはビルの構造そのものが守りとなり、地上で燃え盛るものは、ほとんど彼女に届かない。
もし自分が戦車兵なら、構造体の要所要所をEM砲で破壊しビルを倒壊させる、と彼女は言う。格闘機は足場があって、初めてその力を発揮するからだ。
だが、配備されてまだ日の浅い格闘機は未だ開発途上であり、その特性を理解している兵士は決して多くは無い。最大数の格闘機を扱う第一空挺団ですら、普通科部隊の延長線だと思っている者が大勢いる。また、本領を理解していても、それを実行できるだけの技術もソフトウェアも、まだまだ発展途上だ。
だが、中河由美は違った。高い知性と抜群の運動能力を持つ彼女は、この柔軟な兵器の有用性は戦車はもちろん、ゆくゆくは最強の戦闘機、最大の軍艦を上回る脅威となりうる可能性を秘めていると確信していた。格闘機開発計画を『当世具足』と名付けた者達は、それを目指していたのだと。
“現代の武士が身に纏う甲冑”――格闘機。
陸軍の装備でありながら、戦闘機と同様の兵科名、戦闘機と同じ形式名を採用したのも、その遠大な将来性を見越したものだと由美は思っている。
駆け抜ける彼女に対する、榴弾の着弾がずれ始めた。敵は立て続けの爆発で、由美の位置を見失いつつある。おそらく現在敵が用いている音響探査では、当然の限界だったが、由美は逆に敵の位置をほぼ把握していた。榴弾の描く曲射弾道の放物線は、重要なヒントだ。
狙いが逸れた榴弾が、二十メートルほど後方で炸裂したのを確認した彼女は、屋上に向かって一気に駆け上った。一瞬と言っても差し支えの無い速さで、五階建相当のビルを乗り越え、大通りに向かってさらに加速する。
「ナイフ1」
《ナイフ1、レディ》
左手で左腰に提げられた短刀を、疾走しながら手に取る。ただの刃物ではない。毎秒千回の高速振動によって、軽装甲を紙のように切り裂く高周波切断兵装だ。
まだ起動のコマンドを入力していないそれを、由美は逆手に持ち、大通りに向かって全力で踏み切った。
「ナイフ1、ライズ」
開ける視界。幅二十メートル、高さ二十メートルの人工の谷間に敵戦車が、犬の立ち座りのような格好で砲を最大仰角にしている姿が、彼女の直下にあった。
そのとき、左手で高鳴る耳障りな高周波音。ナイフ1が起動し、周囲の大気と夥しい干渉を起こしている騒音は敵に感知されやすく、ギリギリまで起動できなかったのだ。
由美はそれを手放した。いくら類稀な切断能力を持つとはいえ、それは格闘機のバイオジェネレーターがもたらす膨大なエネルギー供給があってこそであり、機体から手放されたそれは、僅か二秒ほどしか機能を維持できない。それでは、上面装甲を切り裂くには時間が足りない。
だが、彼女の狙いは違った。回転式光学探査装置。光学捕捉自動要撃能力の要は、そこにある。
バスケットボールで培った、ソフトで充分な力を伴なったスローイングは、大気と反応して光り輝くナイフ1を確実に直下のゴールに送り出していた。
三六式の砲塔上部に備えられた箱状の物体を真っ二つに切り裂き、その使命を果たし電源が切れる。
それを確認もせず、由美は空中で身体を捻り振り返り、飛び越した敵戦車を視界に捕えながら、大通りの地面に強行着地を決行。両足と左手の三点着地の衝撃でアスファルトが盛大に捲れ上がり、破片を撒き散らし、間接部の衝撃吸収剤が圧力と熱に変換され、盛大な蒸気とともに蒸散され、炭素筋肉が限界まで弛緩し衝撃を殺す。
右手だけがライフルを構える。距離は僅かに五メートル。敵の音響探査は生きているが、一瞬の動揺があるはずだ。
相殺し切れなかったGに翻弄された肉体が、激しく悲鳴を上げているが、彼女はこの一瞬に賭けていた。機体が銃と右腕を支えてくれている。彼女は引き金を引くだけだ。
初弾は、後部バイオジェネレーター吸気部。ブドウ糖を分子的に分解することで膨大なエネルギーを生み出す新しい動力は、低温で膨大なエネルギーを生み出すまったく新しい安全で清潔なエネルギーだが、大量の酸素を必要とし二酸化炭素を吐き出すため給排気部はどうしても脆弱になる。
着弾により、バイオジェネレーターは一発で発火した。
それでもまだ、敵は沈黙していない。車体は停止したが砲塔が旋回する。膨大ながら瞬発的な出力変更が苦手なバイオジェネレーターには、緊急出力用の予備電力を貯めるキャパシタがある。G1にも搭載されているが、敵のそれには、EM砲の一撃を放つくらいは残されているはずだ。
由美はすかさず移動、砲を避け、敵後方に回り込みながら引き金を立て続けに引いた。轟音とともに銃弾が放たれ、車輪を吹き飛ばし、車輪を支えるアームを粉砕する。
ぽんと音を立てながら、地面に崩れ落ちる敵に容赦することなく、燃え盛るジェネレーターの奥にいる搭乗員を抹殺するためにさらに叩き込む。装甲を貫徹した銃弾が内部に金属片を乱反射させ、搭乗員を血祭りに上げ、最新鋭戦車を単価八億円の棺に仕立てあげたところで、残弾が尽きてマガジンが自動排出される。
「オペレーション・ダウン」
耳に届いたのは、部下である相楽絵理香准尉の声。
「シェンロン32大破判定。動力停止、戦闘続行不能。戦死判定三。グラム4、健在。残弾四十」
戦闘結果が告げられる間に、視界にノイズが走り、撃破されて傾いていた戦車から噴き出していた炎がかき消され、脱落した装輪もアームも元通りになる。さらには気持ちよく晴れ渡っていたはずの青空も、地下施設の無機質なコンクリート面と点在する照明の群に変わってしまう。
そして、上部ハッチから破片効果でズタズタに引き裂かれたはずの戦車長がピンピンして身を乗り出し、こちらに向かって人差し指を突き付け、何事か叫んでいる。
これまでの戦闘は、全てシミュレーションだった。より実戦を意識するため、ダメージの少ない訓練用弾頭が使用されているが、当たり所が悪ければ命が危ぶまれるほどには“実弾”には変わりない。
しかし、この広大な地下演習場では、施設各所のレーダー、各種センサーが演習に参加する全兵士の行動を計測しており、命中の判定が成されると実際には訓練弾が発射されない信号が発せられる一方、モニターやスクリーンの類には破損あるいは死傷が表示され、姿勢制御装置等を用いて運動能力などにバイアスがかかるようになっている、そんな虚構の戦闘だった。
その証拠に、彼女のライフルが排出したマガジンには、二十発中十八発が残されていた。
由美は、喚き声を上げているであろう戦車長の様子をおかしく思いながら、ヘルメットのロックを解除し首の後ろの固定位置に回す。
複合装甲とカメラ、暗視装置などが組み込まれ、裏側にはモニター、とぎっしり詰め込まれたそれを脱ぐと、汗と体温、電子装置の熱でムッとしていた空気が拡散し、完璧に空調された演習場の心地よい風が肌を柔らかく撫でる。
しかも、史上初格闘機による三六式撃破のシミュレーション結果つきで、その爽快感は半端なかったと彼女は語る。
呆気に取られている戦車長。階級は由美と同じ大尉。所属中隊の最先任の小隊長らしいが、まさか第一空挺団第一格闘機連隊のエースと言われている対戦相手が、女だとは思わなかったのだろう。
「おっ。スゲェ美人」
運転席から身を乗り出した、操縦士の曹長の一言で分かるように、短く切り揃えた赤く輝く髪に、猫を思わせるつり気味の大きな目、すっきりと通った鼻筋に、薄いが魅力的な弧を描く唇――現代最高レベルの戦車を撃破したのは、美貌でもエース級の格闘機使いだった。
その反応に慣れていた由美は、ライフルを背面右側の格納位置に収め、姿勢を正すと、右手を挙げ敬礼した。
「見事な操縦技能でした。ありがとうございました」