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04

 お父さんは何と言ったのだろうか。私にはよく聞こえなかったみたいだ。

 そんな私の心情を読み取ったのか、ただ単にもう一度言おうと思ったのか、お父さんは口を開いた。


「俺って隠し攻略キャラらしいぞ」

「マジですか!」

「マジだな」


 私が思い出した乙女ゲームの中に果たしてお父さんの存在はいたのか。思い出すんだ、私よ。

 うーんと頭を捻るがどうにも思い出せない。それに攻略キャラは分かるのだがストーリーの最後がどうだったのかなどは思い出せない。

 私がこの乙女ゲームの記憶を思い出したのはほんの少しだけみたいだった。ということは、私は最後までこのゲームをする前に死んだということなのか。それともあまり面白くなくて途中で止めたのか。後者の方であってほしいと私は切実に願うのだった。


「お父さんが攻略キャラとしても、私が攻略キャラを攻略しないって言った時にもう遅いってことになるんですかね?」

「お前はそんなことも分からないのか?」


 問いかけに逆に質問され、私はよくわからなくなった。

 もう遅いということは私は攻略キャラを攻略してしまったのだろうか。でも、私が出会った攻略キャラというのはゲームの知識がある奥さんラブの人だ。他の攻略キャラには会ってない。

 首を傾げる私をさっきよりも強い力で抱き締めた。


「いい加減、分かれ。俺がいるだろ、攻略された攻略キャラってのは俺のことだ」

「はい?」


 私を抱き締めているお父さんは何を言っているのだろうか。

 お父さんが隠し攻略キャラだということは理解出来る。私の叔父さんで一緒に住んでいて恋人がいる美味しいキャラだ。この「不倫、浮気」が特徴の乙女ゲームでは、だ。

 だけど、乙女ゲームの開始地点である入学式は数日前にあったばかったりだ。そんなに早く攻略出来るというのだろうか。

 答えは否だ。前から好意を寄せてないと攻略出来ない。


「お父さんってまた冗談言ってるの?」

「冗談だったら冗談と言うって言ってるだろ」

「いや、だってお父さんって恋人いるじゃんね」


 そう、お父さんは恋人がいるんだ。この乙女ゲームは悪く言えばヒロインが攻略キャラを奥さんから奪い取るものだ。

 だから、最初は皆さんは奥さんのことを好きだというもの。好きだけど何か物足りなさを感じていた。そんなストーリーなはずなんだ。

 恋人をすっぽかして私にそんなことを言う攻略キャラなんかいない。いないはずなのに私を抱き締めているお父さんはどうなるんだろうか。


「恋人がいなかったらいいのか?」

「えっ、え、お父さん?」


 私を離したお父さんは何を思ったのか、携帯を取り出してどこかにかけ始めようとする。だが、困った顔の私を視界に映すと携帯を直した。

 にっこりと微笑むお父さんにどこかゾッとくるものを感じる。これ以上、お父さんの側にいてはいけないと本能的に察した。


「せっかくこのゲームは浮気をテーマにしたんだから、俺も浮気しようかな。もちろん、浮気相手はお前だけどな」

「お、お父さんっ、浮気はだめなんだからねぇぇぇええ!」


 本当はもっと別のことを言おうと思っていたのにパニクってる私はそんなことを叫んでいた。それはまるで浮気じゃなかったら私に手を出していいというような言葉だと思った。


 自分で言った言葉に恥ずかしくなり、私はお父さんに捕まる前にダッシュで逃げる。今度こそ、部屋で籠城するんだ。


「もう恥ずかしいわー!」


 バタンッと勢いよく部屋のドアを閉め、鍵を忘れずに閉める。

 これでひとまずはお父さんが入ってくることはない。落ち着いて考え事が出来るということだ。

 ドキドキとしている心臓を深呼吸して落ち着かせる。これで大分は冷静に考えられるだろう。

 だが、そんな冷静になれる時間もすぐに終わりを告げたのだった。


「紫陽花、ここから出ておいで。浮気はしないから、昔から俺は紫陽花だけが好きなんだ」

「じゃあ、なんで恋人なんかつくったのですかぁぁ!」


 ドア越しでお父さんが息を飲んだのが分かった。

 お父さんの話が本当なら、もしかしたらお父さんは葛藤したのかもしれない。好きになってはいけない人を好きになって、それを諦めるために違う人を好きになろうと努力したのかもしれない。だって、年の離れた姪を好きになるなんて駄目だろうと思ったんだろう。

 私は向こう側にいるお父さんのことを想い、そっとドアに触れる。だけど、次のお父さんの言葉で私はドアの前から全速力で逃げるのだった。


「略奪をされてみたかったんだ。お前が俺を好きになって、だけど俺には恋人がいて、お前が俺をどうやって略奪するのか楽しみだったんだ」

「うぁぁぁ、お父さん最低だよぉお」


 わざわざ私に略奪させたいとかイケない大人じゃないか。

 お父さんは私をイケない道から助けてくれると思っていた人物だったのに、これではお父さんが一番のイケない人物じゃないか!

 危険だ、お父さんがこんなにも危険な人物だったなんて知りたくもなかった。


「紫陽花、聞いてくれ。だけど、俺はそうしてまでお前の愛を確かめたかったんだ。恋人から俺を略奪してくれるまで俺を愛して欲しかったんだ」

「お、お父さん……」


 ドア越しに聞こえるお父さんの声が切なげに揺れる。その声に胸がキュッと引き締まるように苦しい。


「紫陽花、出ておいで」


 お父さんの切なさの中にある甘さに誘われて私は部屋のドアノブを捻った。

 ドアが開いたのと同時に腕を掴まれ、引き寄せられる。そのままポスッとお父さんの胸の中に私は収まってしまった。


「お、お、お父さん、これは立派な浮気ですよ!」

「俺達は親子だろ。抱き締めるのも家族の愛情表現だ」


 パニクってる状態の私が口に出した言葉はそんなもので、その言葉に対するお父さんの返答に胸が痛くなる。

 さっきは好きだと言ってくれたのに今度は家族愛と言うのか、と。じゃあ、さっき言った好きだという言葉も家族愛ということなのか。


「って、私は何を考えてるのぉぉ!」


 これじゃあ、まるで私がお父さんのことを好きだと言っているものじゃないか。


「私は絶対に攻略キャラなんか好きにならないんだからねぇぇぇえ!」


 お父さんの胸の中で叫んだ言葉に彼はクスッと笑みを浮かべた。

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