02
無事に攻略キャラ&その子ども達と接触せずに入学式を終えた。
終えた私は明日からの学校なんてあるわけないといった感じでテンションが高かった。
「やったね、入学式終わったよ。これで幸せな生活が戻ってくるよ」
「それはよかったな」
家の中でお父さんに抱き付き、爽やかな匂いに包まれる。私はお父さんのこの匂いが好きだったりする。なにせ、いい匂いなのだから。
時々、自分は匂いフェチなんかじゃないのかと思ってしまうがそうではないだろう。きっとこの匂いだけ好きなんだ。
「お父さんまじ幸せー、今が一番幸せだー」
「あぁ、そうか。よかったな」
ギュウギュウと抱き付いてくる私に嫌な顔一つもせずに頭を撫でてくれるお父さんさえいれば幸せだ。お父さんが私をイケない道にいかないようにしてくれる。
友達の父親と不倫なんか絶対嫌なんだからね。そんな道から私を救ってくれるのはお父さんだけだ。
「私は攻略キャラなんかに近付くわけない!」
「またゲームの話か?」
「違うもん。現実の話だもん」
そう言ってもお父さんは分かるわけもなく、ただ私の頭を撫でながら首を傾げるだけだった。
だけど、そろそろお父さんから離れないといけない。お父さんには優しい美人な恋人がいるのだ。姪だと言っても恋人に引っ付く女というのは気に食わないだろう。
私はそっとお父さんから離れようとしたが、離れられなかった。
「お父さん?」
腰に回していた手を離した瞬間にお父さんの方が私の腰に手を回して抱き締める。意味が分からずに上を見上げたら、クスッと微笑まれた。
その笑みは子どもに見せる笑みなんかじゃない。お父さんは寝ぼけて私と恋人を間違えているのだろうか。
「紫陽花はまだ小さいな」
「いや、だってまだ梅雨じゃないし。季節じゃないよ」
「……そうか」
お父さんはなぜか呆れた顔をして、ため息を思いっきり吐いた。
それよりも「紫陽花」という名は紛らわしいな。花の名前でもあるのだし、こんな名前付けてるんじゃないよ。乙女ゲームメーカーめ!
「お父さんって意外に花のこととか知らないんだね。四月に紫陽花が咲くわけないじゃん!」
「じゃあ、いつになったら咲くんだ?」
「梅雨の時期だから六、七月だと思うよー」
「ふーん。梅雨の時期に、か」
未だに私を抱き締めたまま、お父さんはまたクスッと笑う。さっきの笑みは甘い笑みだったのに、今の笑みは妖しい笑みだと思った。
「六月はお前の誕生日でもあるな」
「いや、だって私の名前の由来って紫陽花が咲き誇ってたからなんでしょ?」
そう言ったのはお父さん本人のはずなのだが、言ったことを忘れたのだろうか。それとも何か企みがあるのだろうか。
まさか、まさかだがお父さんは恋人と結婚を考えているんじゃないのか!
「お、お父さんの嘘つきぃぃ!」
「いきなりどうかしたのか?」
「私がまだ学生の間は結婚しないって言ったじゃん。私だけのお父さんでいてくれるって言ったのにー!」
お父さんには恋人がいる。それはいいことなのだが、私のお父さんでいてくれる間は誰のお父さんにもなって欲しくなかった。それが私の正直な気持ちだったりする。
子どもが妹か弟が出来て両親がそちらにばっかり構っていると嫉妬するようと同じように私もそうなってしまう。
私は実の両親から愛情を貰えず、置いていかれた。そんな私に愛情を注いでくれたのがお父さんだ。そんなお父さんが私以外のお父さんになったら、子どものままの私は泣き叫びそうだ。
「いやいや、結婚しないから。まだ早いだろ」
「あう、ごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだ?」
私が謝るのは普通のことだと思う。私がいたからお父さんは自由に生きてこれなかった。
私がいけなければ、早々に結婚して自分の子どもがいてもおかしくないんだ。
それに私が友達のお父さんを攻略しちゃったら更に迷惑がかかってしまう。お父さんの印象まで悪くなるんだ。
「絶対、私は攻略なんかしないんだから!」
「今日のお前は本当に大丈夫か?」
「大丈夫じゃないって何度言わせればいいんだよぉお!」
うぇぇん、と私を抱き締めているお父さんに抱き付き、慰めてもらうことにした。
私はわがままな子どもでお父さんにたくさん迷惑をかけている。それでも甘えてしまうのはお父さんに頼りたいという気持ちがあるから。お父さんに話を聞いてほしいと思っているからだ。
それにお父さんが優しすぎる所為だ。
「それに私は友達なんか作らないんだからなぁぁ。見てろよ、お父さん!」
「はいはい、ちゃんと見てるからな」
頑張りなさい、とお父さんが言い終えるのと同時に私は立ち上がる。そのままダッシュで自分の部屋に行き、宣言文を書いた。
「私は友達なんか作らない。そして、攻略キャラなんか攻略しない。目指すはお父さんに迷惑がかからない日常で私も幸せになること」
これでいいだろうと一人で満足するのが馬鹿な私だ。
少女が自分の部屋にダッシュで何をしに行ってので、居間には一人の男性だけが残った。その男性はさっきまでの父親ぽい表情を崩し、微笑を浮かべる。
「あの子はまだ分かってないみたいだな。俺がなんでいらないはずの恋人を作ったのか。あの子は知らないんだよなぁ」
クスクスという笑い声が静寂な居間に響いた。それを知る者は、そこにいる男性ーー少女の父親役を演じている人物だけだった。
「奪略愛って燃えるよな。まぁ、奪略されるのは俺だけど……」
そこにいるのは少女が知っている優しい父親なんかじゃない。あくまでも、父親役を演じている人物なのだ。