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10 最終話

 お父さん「月下香」ルートに入りました。

 そんな言葉をふと思い付いてしまう。頷いたらルートに入るアレか。きっとそうなんだろう。

 それでも、ゲームにノーマルエンドがないのなら私はお父さんルートに入りたい。


「とか思わないんだからねぇぇぇえ!」

「……どうかしたのか?」

「どうもしてないです!」


 どうして、乙女ゲームにノーマルエンドがないんだ。やっている時は「どうやったら個別ルートに入るんだぁあ」とか言うのに、それが現実になると駄目だ。

 私の荒れた心を察知したのか、お父さんは優しく私の頭を撫でる。

 今はお父さんに押し倒された状態ではない。ソファの上に座っているお父さんの膝の上に私が座っている状態だ。


「よしよし、可哀想な紫陽花」

「可哀想だと思っているなら離せぇぇえ!」

「可哀想だとは思うが、離すことは出来ない。それにしても、言葉遣いが悪いな」


 確かに言葉遣いは悪いが、それもこれも全てお父さんの所為だ。お父さんが離してくれれば、今すぐにでも言葉遣いを改めよう。

 なにせ、お父さんは私が逃げれないように片手で私を抱きしめているのだから。それさえ離してくれたらいいのに。


「もう、離してよ……」


 さっきから涙腺が緩くなっている気がする。ちょっとのことで涙が出てくる。

 溢れる涙を自分ではどうも出来ない。拭うこともせずに涙を流すだけで何もしなかった。

 私が泣いていることに気付いたお父さんは小さく「虐め過ぎたか。でも、泣いてる紫陽花も可愛いな」と呟いた気がした。それは気の所為だ、私の聞き間違いだ。そう思うことにした。


「泣くな、俺の可愛い紫陽花。俺が愛情をたっぷりと注いで育ててやるから」


 いろいろと危ない言葉が聞こえたようだが、私はそれを聞かなかったふりをした。

 お父さんはこんなキャラじゃなかったはずなのに。どうして、こんなキャラになったのだろうか。

 いいや、最初からお父さんは「月下香」はこんなキャラだったんだ。ただ、お父さん役を演じている時だけは優しいお父さんだっただけなんだ。


「私お父さんなんか嫌い。嫌いなんだからぁぁぁあ!」


 ジタバタとお父さんの腕から逃げようと体を動かしてみるが、すぐに私はピタリと動きを止めた。

 背中から冷気が感じている気がするからだ。私は恐ろしくなり、背筋にスッと汗が流れ落ちた。俗に言う冷や汗だ。


「……俺が嫌い?」


 いつもより格段に低い声に私は自分が言った言葉を呪いたくなる。そして自分を殴りたくなった。

 昼間に学校でなぜか会った時もその言葉でお父さんは怒ったのだ。私はなんでもう一度同じことで怒らせているんだ。学習能力が無さすぎるだろ、自分!


「ふぅん、そうか。紫陽花は俺が嫌いなんだ」


 恐ろしくて後ろを振り返れない。振り返ったら最後、私はどうなってしまうのだろう。振り返らなくても恐ろしいので結局は一緒なのだが。

 お腹に回された手が怪しく動く。何度か、お腹を撫でられる。


「ん、お父さんっ」


 お腹が弱いことを知っていて触るお父さんは性格が悪い。優しくて甘やかしてくれるお父さんは一体どこに行ったんだ。

 止めて、というように撫で回している手に自分の手を添える。そうすれば、その手を絡み取られた。


「俺のことが嫌いなのに積極的だなぁ」


 気付かない内にお父さんの顔は私の顔のすぐ近くにまできている。クスクスと笑うお父さんの目は笑っていなかった。

 本当でお父さんは怒っている。私がお父さんに嫌いと言ったことを怒っている。

 少し考えれば当たり前だと気付く。今まで育ててきた子から嫌いと言われたら誰だって怒るだろう。

 私だって本当はお父さんのことは好きなんだ。


「嫌いじゃない。お父さんのこと好きだよ」

「……どういう意味で?」

「えっ?」


 涙が溢れそうなほど溜め込んだ瞳でお父さんを見つめる。その涙を拭うために、そっと目元に触れるお父さんの指は優しい。


「俺はさっきからお前を女として見ていると言っている気がするのだが……お前は俺の愛をただの家族愛だとまだ思っているのか?」


 唇にキスする時点で家族愛は通り過ぎていると思う。だけどお父さんはきっと外人さんなんだ。キスぐらいするのだろうと思いたかった。

 私の馬鹿な考えを悟ったのか、お父さんは呆れた顔をしてため息を吐き出した。


「大丈夫だ、お前が分かるまで俺がちゃんと分からせてやるよ。時間はたっぷりとあるんだからな」


 それは私が本日からお父さん個別ルートに入ったからエンディングまで時間があるということですか?

 というか、ここって乙女ゲームの世界だけど現実ですよね。エンディングっていつになったら迎えることが出来るのでしょうか。

 混乱状態の私は頭で考えていたことを口に出して全部言っていた。

 私の言葉にお父さんは優しく微笑む。その笑みは優しいお父さんの笑みだ。


「エンディングはないだろ、強いて言うなら死ぬ時がエンディングじゃないのか?」

「うそだぁぁぁ」

「嘘じゃない。ここは現実なんだから、俺がずっと永遠にお前を愛してやるよ。その愛が家族愛なんてもう言わせないぐらいに、な?」


 コテッと可愛らしく首を傾げるお父さん。格好いい人がすると人一倍似合うのは不平等だ。私も可愛く首を傾げてみたい。

 取り敢えず、現実逃避をするためにそんなことを考えてみたが役には立たなかった。

 そっと私が動かないように顔を固定して、お父さんは顔を近付けてくる。それはもう何度も経験したけど慣れないものだ。

 合わさる唇は酷く甘い。そしてそれと同じくらいお父さんは誘われてしまうぐらいの甘い匂いがした。


「俺をお前は攻略したんだ。責任持って、ちゃんと愛せよ?」


 どうやら、私は『友達の父親に恋~火が付くほど危険な遊びという名の浮気の快楽に溺れて~』という名の乙女ゲームの主人公として転生して、隠しキャラであるお父さん役を演じている叔父さんを攻略したみたいだ。

 いいや、違う。私は攻略キャラが全員が友達のお父さんだと思って逃げたら、隠しキャラに捕まったんだ。その隠しキャラがお父さんなだけだったんだ。


「いい加減、認めれば楽なのになぁ。紫陽花は俺が好きって」

「好きじゃないんだぁぁぁ」

「じゃあ、嫌いなのか?」


 ゾクッと体が反応する低い声でそう問い掛けてくるお父さんは反則だ。そう問われると口に出してしまいそうだ。


「うっ、もうお父さんのばかぁぁぁ!」

「素直じゃない紫陽花も可愛いよ。だけど、ちゃんと俺が素直になるように調教してやろうか?」

「い、いらないよ。そんなのいるわけないじゃんかぁぁぁあ!」


 うぇぇんと泣き出す私の頭を撫でるのは、やっぱり優しい手付きのお父さんだった。

 私は攻略キャラから逃げたはずなのに、隠しキャラのお父さんに捕まったらしい。もう逃げられないと言うようにお父さんは艶やかに微笑んだ。

タイトルまたの名を「攻略キャラの全員が友達のお父さんだったので逃げたら隠しキャラに捕まりました。その隠しキャラが私のお父さんってどういうことですか⁉︎」

これで完結しましたが、番外編を何か書こうかなと予定してます。お時間がある時にでもサクッと読んでくださると嬉しいです。

ここまでありがとうございました!

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