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PHASE-FANAL そらに奏でる愛のうた

 密林に鳥達がさえずる鳥達の歌で夢の世界から目覚め、清々しい朝を迎える。


 その日の朝、鳥達の歌声が囀りから地鳴きの歌を唄い始め、異変の起る前兆を示す警告の歌に変わったとき、ソラはたった一人で父の開発した新型融合炉を搭載したAMRSに搭乗し宇宙へと飛び立った。




 PHASE-FANAL そらに奏でる愛のうた。




 彼は背に光の翼を持つAMRSに一人乗り込んで蒼穹の彼方に消えて行った。

 

 前日の夜、ソラは新型融合炉について説明してくれた。

 

 ――新型融合炉を搭載した機体、シュペルノヴァ。


 超新星と名づけられた新型融合炉には、名前通りの技術が用いられているようだが、その殆どは解析不能のブラックボックスであった。


 恐らくは父以外には創れない代物で、父も数機の融合炉を作ったところで、この融合炉が秘める可能性と懸念に気付いて解析不能のロックを掛けたのだろうとソラは言っていた。


 その機体に積まれた融合炉のコアはまさに超新星。


 父は融合炉の中に超新星を創り出し、極限まで圧縮し矮小な融合炉に納める事に成功したようだ。


 星が生まれる際のエネルギーは膨大だ。従来の核融合炉を遙に凌ぐ莫大なエネルギーを発生させる融合炉は、近い未来、本格的に到来するであろう宇宙航海時代の先駆者に成り得る代物だ。


 人間の英知は何処まで行くと言うのだろう。


 この新型融合炉が便利を超えて、近い未来の抑止力にならない事を、わたしは願うしかない。


 ソラ達が集め得た情報の中に、SOSLに新型融合炉を搭載したとの情報は無く、従来の核融合炉を用いてSOSL内部で核融合させ、収束器、加速器、変換器を用いプラズマ化した高出力エネルギーを発射する仕組みらしい。


 父とわたしが余り仕事の事を話すことが無かったとは言え、父の技術は他にもある事くらい、嫌でも耳に入るし情報もあった。


 新たなエネルギーを効率的、かつ有効に得るための収束器、加速器、変換器などもその内のひとつだ。


 従来の物より小型化、効率性を飛躍的に高めることにも父は成功している。


 初めて見る新型融合炉を搭載したAMRSは、融合炉起動の際に発生する熱を背中に備えられた放熱板で冷却して放出される。


 その背の放熱板は大気圏内を飛行する際の主翼とカナード(舵取り)翼の役割も担ってい様だ。


 ただ単に飛ぶだけの飛行だけなら翼などいらないが、翼がなければ低速飛行で飛ぶ事は出来ず小回りも効かない。


 元来、AMRS自体が宇宙運用に重点を置き、宇宙での運用を主に想定した仕様になっているのだとソラから聞いた。


 しかし大気圏内でも十二分に、そのスペックを発揮する事が出来たAMRSに一番驚いていたのは当の開発者だった様だ。


 新型融合炉を搭載したAMRSは膨大な熱量を放出する。


 始動直後に大気中の水分までもを気化し、白い膜が放熱板を包み丸み白い水蒸気を帯びる。


 冷却装置は瞬間的な膨大な熱量を冷やせず、放熱板に纏った水蒸気は丸みを帯びた翼となり現われ、後に太陽光との屈折で七色光の翼を纏った様に見えた。


 その様はAMRSの背部に備わった放熱板を、あたかも天使の翼を思い起こさせ、冷却装置が従来の機能を発揮すると天使の翼は消える。


 ソラが飛び立つ直前、鳥達の歌声が囀りから地鳴きの歌へと変った。

 

 ――それは異変の起る前兆を示す警告の歌。


 その時わたしは嫌な予感が過ぎった。


 もうソラとは逢えないかも知れない、と。


「ソラっ! 必ず帰って来て……お願い」


 わたしはソラの胸に縋りついた。


 肩口にヘルメットを担ぎ、ソラは苦笑いを浮かべ「帰って来るさ」と耳元で囁くとAMRSの方へと歩き始めた。


「ソラの馬鹿……地上に残されたら、わたしあなたの耳になってあげられないじゃない」


 先程までソラに纏わり付いていたアルルは目頭を擦って涙を拭っている。


「ソラぁ! きっと、きっと……戻って来なよ。ソラの好きなじゃがいものフルコース作って待ってるからね」


 ソラは振り返る事無く片手を上げて応じた。


 その背中が、もいわたしの、わたし達の手が及ばないところに行ってしまう様に感じた。



 

 AMRSの背中の翼に光が満ち、ラは蒼穹の彼方へと消えて行った。


 眩い光と白い水蒸気の糸を引いて……。


 ソラが宇宙に飛び立った後、わたし達はレジスタンスが拠点にしている、大きな街を訪れた。


 そこでは広場には大型のモニタが置かれ、宇宙での戦闘が一部始終放送されている。


 必至にSOSLを破壊しようとする地球軍と、それを阻止しようとするフロンティア軍の映像が流されていた。


 宇宙の至る所で輝きが発生しては消えて往く、その一つ一つの光の花は、生命の証が咲かせ、命の灯火を奪って消え去る瞬間だ。

 

 戦闘開始から暫らくして、光の翼を持つAMRSを先頭にSOSLに向かう地球軍とフロンティア軍の混成部隊が別方面から現われた様子をカメラがモ捉え、モニタに映し出した。


 光の天使で戦闘に、戦いに加わるソラの様子は痛々しく見えた。


 戦争と戦う為にソラは戦っている。


 わたしはその様子を見ていることしか出来ない歯がゆい気持ちに駆られる。


 兵器なんて使わなくても言葉で分かり合えるのに……それが出来ない。憎しみが止まらない悲しみが消えない、だから戦争は終わらない。


 歯がゆいね? ソラ。


 ――本当はあなただって戦闘になんか加わりたくないだろうに……。


 誰かがやらなければ、誰かが戦わなければ、皆が戦争と戦わなければ戦争は無くならない。だからソラが戦ってくれているのね。


 光の天使は見事なまでにフロンティア軍の防衛線の間隙を縫って、軽やかに舞い踊る様に突破して行く。


 モニタ内に映るSOSLの発射口に光が収束し始め、SOSLがプラズマレーザーを発射しようとしている様子が窺えた。


 光の天使はSOSLの発射口の前に踊り出た。


 オールウエポンズフリー。


 ソラの駆るAMRSが全武装をSOSLの発射口に向け一斉射する。


 SOSLがプラズマレーザーを発射するより一瞬、早く光の天使が全武装を発射した。


 薄暗い宇宙に一際大きな光の花が咲き、SOSLはプラズマレーザーの残光を発射しながら崩壊していく。


 プラズマレーザーは赤い光を弱めながら、光の天使を呑み込む様が窺え、

戦闘の状況を伝えるモニタの背後に映り込んだ地球は青く、美しかった。


 「ソラ――っ」


 「ソラ――!」


 わたしとアルルは同時にソラの名を叫んでいた。


 辺りには作戦成功を喜ぶ歓喜の声とソラの栄誉を称え、空に向け銃声が喜びの歌を響かせている。


 モニタを見ながら歓喜の涙する者もいる。


 プラズマレーザーの赤い光の中に、光の天使が呑み込まれた瞬間、ソラは英雄となった。


 その英雄の名を知る者は少ない。


 地上に残ったソラの部下や有志達は静かに泣いていた。


 わたしとアルルも……涙が枯れ果てるまで頬を伝う事を止めなかった。



 

 草木は揺らめき音を奏で、鳥達は囀り平和の歌を唄う。


 森の木々がざわめき、鳥達の歌声が囀りから地鳴きの歌を唄う時、異変の起る前兆を示す警告の歌。


 そらに奏でる愛のうた。


 ソラまで届けと――願いよ届け、想いよ届けと――英雄ソラまで届けと……。

 



 ――宇宙暦、百二十三年。


 あの戦闘から三年の歳月が流れている。


 わたしは軍を退役した後、医師の資格を得て、かつてレジスタンスの拠点だった街に戻った。


 当時、SOSLを失ったフロンティア軍と月基地を失った地球軍は、SOSL損失後に終戦協定に入り、調印式はメディアで大々的に放映された。


 停戦ではなく戦争に終わりを告げる終戦だ。


 ――ねぇ? ソラ、あなたも何処かで見ていたのかしら? あなたが戦った結果が終戦に導いた、戦争を終わらせたのよ。




 両政府が発表した当の戦闘はあれだけの戦闘であったにもかかわらず、その死傷者は驚く程少なかった。


 ソラが戦闘に加わった時期が早かったからだと、わたしは思う。


 公式に発表された死傷者リストにソラの名前は無かが、憎むべき戦争と戦ったソラが地球軍に復隊しているとは考えられない。


 また復隊したソラの有志達からも、その様な情報も聞いてない。


 鳥達の歌の様に現実はやさしくない。


 SOSLの放ったプラズマレーザーを浴び、爆発に巻き込まれたソラが無事である事の方が奇跡なのかも知れない。


 三年の月日はソラがいない事実を思い知らせてくれる。


 ――昼も夜も……心の空白が埋まらない日々が続く。


 ソラ……あなたは今、なにをしているの? それとも……もう……。


 考えたくもない思考が脳裏を過ぎる。


 わたしは振り払う様に首を振る。


 しかし事実ソラの行方は分からないまま。


 『必ず帰る』って約束したのに……涙が自然に零れ落ちる。


 わたしは涙を拭い脇に立て掛けてあるバイオリンを手に首をもたげ、宇宙そらに向かい曲を奏でる。


 ――ねぇ? 聞こえてるソラ。あなたを失って初めて気付いたわたしの気持ち……あなたに届くかしら? 聞いていてね。


 わたしは待っているわ。あなたが帰って来てくれるその時まで、何時までも、何時までも……。


 おばあさんになるまで、いえわたしの命が尽きるまで、永遠に……。


 宇宙ソラに向かって奏で続けるわ。


 わたしがあなたに奏でる愛のうた。


 だってあの時、あなたを失って気付いてしまったのだもの……わたしの気持ちに……最初で最後の恋に気付いてしまったから。




 永遠……。


 そんなものなんて存在しないのかも知れない。


 始まりがあれば終わりがあり、形あるものは何時かは無に帰す。


 それは抗えない道理。


 永遠を感じさせてくれる夜空を彩どる星達の輝きがこの目に届く頃、その輝きを放った星は、もう存在していないのかも知れない。


 だけどわたしは信じたい。


 永遠という言葉は人の想いの中で存在し続けるのだ、と。


 死して尚、人の想いは永遠に存在する。


 人に生が与えられ、その瞬間から始まる人生の中で生れた様々な想いは、その人が存在した証。


 存在がある、あった以上、個々の想いは確かに存在し、その想いは朽ちる事無く永遠に失われる事はない、と。


 シェラ=カギザキ。

 



 星達は夜空で賛美歌を歌う。

 

 わたしの奏でる曲に合わせて。


 星達は輝きを放ち夜空に踊る。


 英雄ソラを称え。


 

 わたしは奏で続ける。


 ソラに届けと――。


 そらに奏でる愛のうた、を。

 

 FIN



  

 PHASE-AFTER SCENE 願いへ。





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