PHASE-14 疑惑
アルルの村から八キロ程離れた村の見える場所まで撤退したわたし達は、そこから敵軍の様子を窺っている。
村に向かっていた敵軍の一分隊は村の入り口で進行を停止している。
『隊長どうしますか? アルル達の村に敵軍が入る事があれば……、接近して村に入られる前に仕掛けますか、それともここから狙撃しますか?』
「無闇にこちらから仕掛ける事もないでしょう。それに村に入られれば戦闘は避けなければなりません。アルルの村を戦場にしたくはありませんから、ここから監視をして様子を見ます。アルル達なら上手くやり過ごすかも知れませんしね」
有線通信から流れるローズ曹長の声に応答を返す。
アルル達の村はレジスタンスの活動に参戦しているとはいえ、その多くは通常の村を装っている。一見しただけではレジスタンス活動を行なっている村と判断するには難しい。
強いて言えば働き盛りである男達の姿が少なかった様に思えたくらいで、恐らく男達はレジスタンスが構える前線基地のある本拠地に出向いているのだろうが、それも出稼ぎに出ていると言われれば疑うことはしないだろう。
『隊長、北北東から展開していた敵部隊の動向は?』
「扇状に展開を始めました。敵の目的は分かりませんが、恐らくは索敵範囲を広げているのでしょう。今は息を顰めて様子を見るしかありません。下手に動いて発見されれば、こちらに勝ち目はありませんから」
『隊長らしくなってきたねぇ。この短い間にさ。しかも初陣でね』
「ありがとうキャシィー。でもわたしにはまだ実戦の経験がありません。戦闘になるようであれば状況判断のサポートお願いします」
『了解。隊長、北北東からの部隊の、恐らく敵の目的は恐らく何時もの哨戒任務の交代に出たと考えて良いかと』
「ならばIFFを作動させず、密林に潜んでいる敵軍がいると言う事ですね」
『アンダーソン、ジェイジェイ。村の様子はどうだい?』
『村に大きな変化は見られませんよぉー。……んん? あっ、待ってください。村人が外に向かっています。その中にアルルらしき姿も見えます』
『らしき? なんだいっそれは、しっかり捉えな』
『無理ですよぉ……最大望遠で見ているんですから、ピントを合せるだけでも難しいんですからぁ』
『泣き言は聞かないよ。しっかり見てるんだよ』
『そんなぁー』
『アンダーソン聞こえるかい』
『はい』
『もしもに備えてあんたとわたしは遠距離射撃の準備。照準はわたしが隊長機及び、その他AMRS、アンダーソンは指揮車及び、わたしのバックアップいいね。ケイン、指揮車をこっちに120ミリ狙撃ライフルを貰う』
「あいよ」
『曹長……この距離からの射撃ですか? 最大望遠での狙撃ですよ無茶を言わないでください。それに指揮車は小さ過ぎて狙いが定まりません。曹長は的が大きくていいですが……それでも融合炉に当てずに狙撃するのは難しいでしょう』
『泣き言は聞かないって言ったろ。しかし歯がゆいねぇ! 最大望遠でこれかいっ』
『曹長、泣き言は――』
『うるさい男は嫌いだよ。わたしはイライラしてるだけ泣き言は言ってない』
『隊長、敵軍に動きが……。トラックからなにかを降ろしてます。ジェラルミンケース? の様に見えますが……中身はいったいなんなのでしょう……、まさか地球軍の武器弾薬だったりして』
ジェイジェイの報告は、わたしの脳裏に疑念をもたらした。恐らく第百一分隊の皆にも……。
〔もしかして……アルルは〕わたしは、そんな思いを打ち消す様に首を振った。信じられない、いや信じたくない。
――アルルがわたし達の情報を流している。
人懐っこいアルルの笑顔が脳裏を過ぎる。
『隊長……わたし達は、はめられたのでしょうか? あの子を疑いたくはないのですが……』
『アンダーソン……わたしも、皆も同じ思いでしょう。それにまだ、そうだとは言い切れません』
『でもアルルは僕達が付近にいる事を知ってますよぉ……もし、他の誰かに追尾させていていたら、この場所も知っているかも』
「そうね。……しかし今は動けない。動けば他の部隊も……いえ、もう遅いかも知れませんねごめんなさい。不甲斐ない隊長です。……わたし」
『隊長……』
気落ちした皆の声が通信機から流れる。
わたしが下したあの時の判断が皆を危機に陥れたのだとそう思った。
『隊長、迷いは捨てちまいな。戦場で迷えば死ぬのは自分だよ。わたしは信じるねぇ。アルルと隊長の判断を、ね』
「キャシィー……」
『あの子の笑顔は本物だった、だろ? 美味い飯を運んでくれた』
『そうですよぉ。敵に情報を与えるつもりなら、監視ポイントにいた時に知らせれば良かったんだし食べ物に毒を盛って僕らからAMRSや指揮車を奪う事も出来たんじゃ……』
「そうだぜ隊長。あの子は両軍を嫌っていたし、とても恩を仇で返す奴には見えなかったぜ」
『なにより笑顔をくれました』
わたし……、一瞬でもあなたを疑ってしまった。ごめんねアルル。わたし……あなたを信じるわ。
「……待ってください! グラウンドソナーに感? これは……この波形……友軍のAMRS。不味い、このままじゃ敵軍に気付かれる」
グラウンドソナーを監視していたケインが哨戒中の友軍を補足した。
『まったくっっどこの間抜け部隊だい! こんなところをうろうろと』
『どこ部隊って、哨戒任務にあたっている友軍でしょ?』
『うるさいねぇそんなことは分かってるよ。わたしが言いたいのは、このタイミングでって事だ』
「そんなに怒こらなくても……更に悪い事に北北東から扇状に展開していた敵軍が集結しつつあります。両軍がアルルの村に向かっている」
『気付いているねぇ。両軍共に。来るよ』
〝カーン〟
友軍の接近で距離を測るために放たれた超音波の金属音に似た音の反響が、指揮車内に響き渡る。
『ピンガーだねぇ。発信源はアルルの村にいる部隊からだ。隊長、これで……こっちの位置も知られたねぇ。隊長撤退しますか? 今回の任務、我々が戦闘に加わる必要はないと考えますが』
「確かに第一の任務は情報を持ち帰る事です……しかし、なにか敵軍に動きがあった時、アルルの村をこのまま放ってはおけません」
『……美味しい食い物の礼はしなきゃねぇ。それに折角助けた命を見捨てると目覚めが割るそうですからまぁ相手も一分隊。AMRSの数が一機多いけどねぇ……ケイン、敵の動きは?』
「まだ動いてませんよ」
『アンダーソン、ジェイジェイ、そっちはどうだい? 敵兵の動きはあるかい』
『敵軍のパイロットがAMRSに向かっています』
『いいかい皆、村から敵を引き離す。隊長、ご命令を』
「皆……。ケイン、哨戒中の部隊に打電。北北東からの部隊を北に上り、防衛線付近まで誘導する様にと、こちらの敵軍はこちらが引きつけると伝えてください」
「あいよ」
「他に哨戒中の友軍は?」
「今のところ探知出来てないですよ」
『隊長っ。アルルの村の敵部隊動きます』
「グラウンドソナーでも感知した。さてと鬼ごっこといきますか! 追いつかない程度に追って来てねっと……」
わたし達は一時、南下し友軍の防衛線に向かい西に向かう。思わぬ事態はその直後起こった。
皮肉にも、この事態が後にわたしとソラを再会させることになる。
「新たにソナーに感! 西に哨戒中の友軍AMRS部隊です。これで有利に戦えるって……えっ? 敵軍二手に分かれます。西の部隊に三機、指揮車はそのまま……こちらに一機来ます。おいおい敵軍は間抜か? 戦力の分散はセオリーじゃないだろ? 現状数的に有利なのはこっちだぜ」
『それだけ腕に自信があるのさ。あの分隊にはエースがいると見ていいねぇ』
「敵軍のエース……」
わたしの背筋に冷たいものが流れている事を感じる。
恐らく他の隊員達も感じているに違いない。
「合流を急ぎましょう。友軍に打電」
「了解」
この戦闘でわたしは信じられない光景を目の当たりにする事になる。
真のエースと呼ばれるパイロットの力を……。
PHASE-15 再会へつづく。




