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病院

 久しぶりの病院はなんだか懐かしい感じがする。

このすえたような薬品の匂いも冷たい白いシーツも

以前よりは嫌いでないように思えた。


日曜日。

わたしは仕事中にそのまま倒れてしまった。

忙しいさなかに倒れたのだから、会社の人にはとても

迷惑をかけてしまっただろう。現場責任者の木村さん

には悪いことをしてしまった。


日曜日から火曜日まで病院で過ごすことになる。

入院は本当に久しぶりだ。気が重いし検査しても

どうにもならない、といつも敬遠していたからだが

自分の知らないところで病院に担ぎ込まれたのだから

仕方がない。

当たり障りのない自覚症状だけ伝える。

何かに問題があったとしてもそれはそれで受け入れる

しかないと頭の片隅で思っていた。


 

月曜日。

真理からメールがきた。病院にいることを言おうか

どうしようか迷ったが後で怒られるのも嫌だったから

そのまま本当のことを伝える。

そしたら血相を変えて飛んできてしまった。


「またどこか悪くなっちゃったの?」

いや、そんな感じはしないんだけど・・・

「じゃあ、どうして病院にいるの?」

わたしもわからないです。

「寝てなくて大丈夫なの?」

あ、それは大丈夫。もうだいぶ体調いいし。

「ならいいんだけど・・明日はお休みよね?」

だから明日まで病院にいます。

「そういえば、達也から連絡あったんだけど、

 メールの返事がこないってまた言ってたよ」

あ、ほんとだ。メールきてるし。

「あなたたち、最近仲悪いの?」

いえ、そんなことはないです。

「じゃあメールくらい返してあげなさい」

・・・気が向いたら。


 最後の気が向いたら、というのは言うのはやめておいた。

適当に相槌をうって、適当に流してしまう。


「そういえば・・達也、結婚したけどお嫁さんと

 あまりうまくいってないみたい」

・・・・・・。

「なんだか思い詰めてるみたいね。何かあったのかな」

・・・それをわたしに聞かないで欲しい。


わたしが原因でないことを心底祈る。結婚したのだから

家庭のことを第一に考えるべきだろうのに。


それから、もう大丈夫を連呼して真理には帰ってもらい

そそくさとベッドの布団に包まれていた。


火曜日の朝に検診だけ受けて帰宅。

なんだか久しぶりに帰った気がする。

会社に連絡をしなくてはいけないだろうが

原因不明では木村さんに悪いので、貧血とでも

言っておこう。


 それから達也のメールを見た。

「元気?ちょっと話があるから連絡くれ」

元気じゃないし、わたしには話すことがない。

などと思ってみる。

どうせこの時間は仕事だろうから、わざとこの時間に

電話してみる。出なかったら、それはそれで言い訳に

なるだろう、と思っていたら、期待が裏切られた。


「もしもし」

「あ、もしもし」

「体調大丈夫か?」

「あ、うん」

「まだ病院?」

「いや。さっき家に帰ってきた」

「そっか。今日は会えないよな?」

・・・会うつもりでいるのか。

「そだね」

「じゃあまた連絡する」

「ほい」

仕事中だからだろう、思ったより手短かだった。

あまり長く会話しないのはありがたい。

 けれども夕方には連絡が来そうな気がするし、

それは確実だろう。


 気が重くなる。

人恋しい気がするが、誰でもいいわけじゃない。

少なくとも達也ではない。

気が弱ってるのだろう、と思いながら小説の続きを

書いて夕方まで眠ろうと思っていた。


 夢を見る。

あの夢だ・・・夢の中で自覚する。

音の無い駅のホーム。

わたしはホームの真ん中で佇んでいる。

灰色の景色の中、誰もいないホームで佇んでいるのだ。


ホームに停まっている列車。

その列車の扉がしまる。

その扉のむこうにはあの人がいて

寂しそうに微笑んでいる。


「わかってる・・・」

夢の中で呟くわたし。

目の前の列車が静かに、静寂の中を動き出す。

わたしはその列車を静かに見送って

誰もいないホームに佇んでいる。


 まただ・・

何回見ただろう、この夢を。

もう夢の中でも夢と自覚できるくらい

何回も見た夢。

起きなければ。

そう思って目を覚ます。

時間はまだ3,40分しかたっていなかった。



 




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