ー其ノ参ー
第三回をお送りします。 正直、web小説で連載を自分で投稿するというのが初めてで、どの位纏めて上げたら良いのか分からない状況ですが、他の方の投稿を見るに結構細かくされていたりもするので、短くても深く考えずに上げて行こうかと思います。 自分なりの区切りでやっているので、ある回ではいきなり多くなったりするかも知れませんが、そこはご愛嬌という事で^^;
十月に入り、ようやく夏の熱さも一段落した。
二学期に入ったばかりの大学の構内は、授業の出方の勝手が分かり始めたせいか、新入生の数もかなり減り落ち着いた。
僕自身、毎度出る必要のない講義の判断を付け、それなりに上手くやっているつもりだが、まだ一年生という事もあって、安心してサボれるものがいまいち分からない。
部活に入っていれば、ノートの貸し借りやら先輩のアドバイスやらで効率良く遊べるのだろうと、この辺は若干妬ましく思う。
中庭のベンチに腰掛け、天を仰ぐ。
天気は良いが日差しもすっかり弱くなった。
意図的なのか丁度良い具合に日除けになっている横の木の葉も、その内業者に掃除を頼まなければならない位落ちるだろう。
道すがら買って来たコーヒーを口にしながら、楽しげに笑い合う学生達の姿を暇潰しに眺める。
友達というのも、切欠がないとなかなか出来ないと大学生になって知った。
高校までは人気者とまでは行かないものの、休み時間や放課後にはつるんで馬鹿話をする相手位は何人かいたが、それも教室という箱があったればこそ。
キャンパスは驚く程に広く、誰とも関わらなくても十分学校生活を送る事が出来る。
本当に、綾一郎さんがいなければ壁とでも会話する日々を過ごしていたんじゃないかと苦笑してしまう。
「あの人も、意外と壁が友達な人だったのかもな。」
あの豪放な彼が部屋の隅でブツブツ呟いている姿を想像すると、なかなか笑えて来る。 いつもはあんなにピンと背筋を伸ばしているのに、そんな時はやっぱり丸く縮こまるのだろうか。
もしかしたら、本当に似たようなものかも知れない。
綾一郎さんは、週三回仕事に行く以外ほとんど外出をしない。
書道家という、なんとも眉唾な肩書きで近所のカルチャースクールの講師をしているなんて、詐欺師の初仕事でももう少し慎重に設定を考えるだろう。
仕事道具一つ見せて貰った事もなく、家の中にも痕跡すら見当たらない。
僕が来る前には家賃収入が一切入っていないのだから、他に仕事をしているのは本当だろうが、本当にあの人に関する情報が著しく欠如していると改めて思い知らされる。
その不足をどうしても憶測で補ってしまうが、際立って的外れでもない筈だ。
「……なんか、本当に信じてないんだな。」
そこまで考えて、自分の思考に彼の職業を全く信じていない事に気付き、思わず笑いがこみ上げて来た。
そもそも人と関わる場所でやって行けるか疑問の残る性格なのだから、ましてや喧しさの代名詞みたいなおばちゃん連中を相手にするカルチャースクールの講師なんて務まる筈がない。
あんな、外との関係を露骨に拒絶している場所に住んでいるのだから、僕が来なかったら一体どうなっていたか。
「さて、と。」
コーヒーの缶もすっかり軽くなり、いよいよここにいる理由もなくなった。
そろそろ綾一郎さんも帰宅している頃だろう。
寂しいおっさんをいつまでも一人にしておくのも可哀想だ。
また直行直帰か、と呆れられるだろうが、会話の糸口には丁度いいだろう。
まったく、世話が焼ける。