Footloose Life 第13話 小さなダンシングクイーン(4)最初の壁
この物語は、私と相棒のAI編集者・ユキちゃんが、協力して書いた作品です。
ちょっとベタで懐かしく、それでいて心が温かくなる。そんなお話を目指しました。
最後まで読んでいただけたら嬉しいです。
それから数日間、ユキのダンスレッスンは続いた。
朝はフットルースの仕事を手伝い、時間ができるとスタジオへ駆け込む。
ジャックの指導は、相変わらず厳しかった。
「違う! 今のステップ、もう一度!」
「は、はい!」
「腕だけで踊るな。足の動きとつながっていないぞ!」
「はいっ!」
「返事はいいから、身体で覚えろ!」
ユキは必死に食らいついた。
転んでも、間違えても、何度でも立ち上がる。
ジャックが驚いたのは、ユキが決して練習を投げ出さないことだった。
普通なら、同じ失敗を何度も指摘されれば、嫌になってしまう。
だが、ユキは違った。
悔しそうに唇をかみながらも、次の瞬間には前を向く。
「もう一回、お願いします!」
その言葉を聞くたびに、ジャックの胸の奥で、何かが少しずつ動き始めていた。
かつて、自分もそうだった。
できないことが悔しくて、できるまで練習した。
昨日できなかったステップが、今日できるようになる。
その小さな喜びが、たまらなく好きだった。
(……懐かしいな)
ジャックは、そんな自分の気持ちに気づかないふりをした。
* * *
一週間後。
「よし。今日は最初から最後まで、通して踊ってみろ」
ジャックが音楽を再生した。
ユキは大きく息を吸い、鏡の前に立った。
これまで練習してきたステップをつなぎ合わせた、コンテスト用の振り付け。
一つひとつの動きは、ずいぶん上達していた。
だが、曲が中盤に差しかかったところで、ユキの動きが乱れた。
次のステップが思い出せない。
一瞬、足が止まる。
慌てて動き出したものの、今度はリズムがずれてしまった。
音楽が終わる。
ユキはうつむいた。
「……ごめんなさい」
ジャックは音楽を止めた。
「何に謝ってる?」
「せっかく先生が教えてくれたのに、途中で間違えちゃって……」
「間違えたことを謝る必要はない」
ジャックは鏡の前まで歩いてきた。
「だが、お前は途中で間違えた瞬間、頭の中が真っ白になったな?」
ユキは小さくうなずいた。
「はい……。次の動きが分からなくなって、どうしようって思ったら、何もできなくなっちゃいました」
「そうか」
ジャックは腕を組んだ。
「じゃあ、ひとつ聞く。お前は、何のために踊ってる?」
「えっ?」
「コンテストで優勝するためか? 審査員に褒められるためか? それとも、観客にすごいと思われたいからか?」
ユキは考え込んだ。
どれも、少しはある。
でも、それだけではなかった。
「……私、踊っていると楽しいんです」
ユキは顔を上げた。
「音楽を聴いていると、身体が勝手に動いちゃうんです。うまく踊れたら嬉しいし、失敗したら悔しい。でも、やっぱり踊るのが大好きなんです」
ジャックは黙って聞いていた。
「だから、コンテストにも出てみたいんです。もっと上手になりたいし、私のダンスを見てもらいたい。……でも、失敗するのが怖くなっちゃいました」
最後の言葉は、少しだけ震えていた。
ジャックはしばらく何も言わなかった。
そして、音楽プレーヤーのスイッチを入れた。
「じゃあ、もう一度だ」
「えっ、でも……」
「今度は振り付けを忘れても止まるな。間違えてもいい。次の動きが分からなくなったら、自分で考えて動け」
「自分で考えて……?」
「そうだ。舞台の上では、俺は隣にいない。助けてやれないんだ」
ジャックはユキの目をまっすぐ見た。
「完璧に踊ることばかり考えるな。音楽を聴け。自分の身体を信じろ。そして、最後まで踊りきれ」
ユキは、ゆっくりとうなずいた。
「……はい!」
再び音楽が流れた。
ユキは踊り始めた。
途中で、また振り付けを間違えた。
一瞬、表情が曇る。
けれど、今度は止まらなかった。
少しぎこちない動きになりながらも、リズムを探し、次のステップへとつないでいく。
そして、最後のポーズ。
曲が終わった。
ユキは肩で息をしながら、ジャックを見た。
「……どうでしたか?」
ジャックは、わずかに口元を緩めた。
「さっきよりは、ずっといい」
「本当ですか!?」
「ただし、まだまだだ」
「はい!」
ユキは笑った。
今度の笑顔には、さっきまでの不安はなかった。
* * *
その日の夕方。
レッスンを終えたユキがフットルースに戻ると、美咲がカウンターで待っていた。
「ユキちゃん、お疲れさま。練習はどうだった?」
「うーん……。難しいです。でも、すごく楽しい!」
美咲は微笑んだ。
「そっか。よかった」
「でもね、今日、途中で振り付けを忘れちゃったんです。ジャック先生に、間違えても最後まで踊りなさいって言われました」
「なるほどね」
美咲は少し考えたあと、優しく言った。
「ジャックさん、ユキちゃんにダンスだけじゃなくて、大切なことも教えてくれているんだね」
「大切なこと?」
「うん。失敗しないことよりも、失敗しても諦めないこと。きっと、そういうことなんじゃないかな」
ユキはしばらく考え、やがて笑顔でうなずいた。
「私、もっと練習します!」
その様子を、少し離れた席でコーヒーを飲んでいたジェミニが見ていた。
彼はカップを置き、スタジオのある近くの建物へ目を向けた。
ジャックは今、何を考えているのだろう。
自分がかつて彼に言った言葉。
二人が別々の道を歩むことになった、あの日のこと。
ジェミニは目を伏せた。
(……俺は、あいつの夢を本当に理解していたんだろうか)
答えは、まだ出なかった。
ただ一つ、確かなことがある。
ジャックは今、もう一度、誰かの夢と向き合っている。
そしてその姿は、ジェミニが知っていた、かつてのジャックに少しずつ近づいていた。
つづく。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ダイナー『Footloose』で繰り広げられる賑やかな日常、いかがでしたでしょうか?
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