白き人
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
ときに、自分のみがのけものにされているように感じる経験、君にはないだろうか?
話しかけても、すげない反応を返されて終わる。じっとしていると、誰にも話しかけられない。
ひとりでもくもく作業が進められるなら、たいして問題にしないかもだ。しかし、いったん気にしはじめてしまうと、どこまでも心に引っかかってしまう。
相手の機嫌が悪いだけなのか? その原因は本当に自分にはないのか?
考えれば考えるほどドツボだし、自分が原因と分からずに振る舞い続けるのなら、とんだピエロだ。かといって、答えもまた明らかになるとは限らない……。ゲームと異なり、リアルのままならないところといえよう。
その答えに出会うこと。それもまた幸か不幸かはわからないのが、やっかいだ。
私が昔に出会ったことなのだけど、聞いてみないか?
当時、まだ学生だった私は某カードゲームにはまっていた。
カードも今に比べるとだいぶ安値でね。子供の小遣いをやりくりすれば定期的な購入もできるし、大会に出ることも難しくもなかった。
プレイしてみた人は分かるだろうが、対面でカードゲームを遊ぶときに大事なのはコミュニケーションだ。別にだべることが必須とはいわないが、展開を進めるうえで宣言や処理の確認をしないと、滞ってしまう。
お互い、間違った処理をしたときの判断もつかないといかないし、ジャッジも呼ばないといけないこともある。同意を得るうえでも、言葉を交わさないわけにはいかないのだが。
この日、私はことごとく対戦相手とまともなコミュニケーションをとれなかった。
私なりに丁寧に進行をしていても、黙ってカードを出したり、捨て場へうつしたり、点数を数えたり……それがゲームの終わるまで続く。
最低限の発声はしてくれるものの、それはいずれも私へ同意を求めない、ひとりごとめいたものだ。そうしてケリがつくと、相手は淡々と処理をして席を立ってしまう。
まるで、私は壁のようだった。手を出し、勝敗を競う相手であるのは確かだが、向こうが淡々と作業を続けているのみで、はね返ってきたものに対処するばかり。
大会そのものは勝ち進むことができ、優勝にまで至れたものの、私に当たった全員がほぼ変わらない対応で、ちょいとしょげちゃったんだよね。
「優勝おめでとう! こちらが商品です」
その中で、まともに声をかけてくれたのがショップの店員さんで、ちょっと安心はできた。
そうして商品を受け取った直後だけど、店員さんはちょっとの間を置いて、すぐ近くの棚の中からスリーブに入った一枚のカードを渡してくれた。
「サービスだ。こいつも持っていくといい」
白き護符、とカード名には振られている。
同名のカードはゲーム中にはあった。確か、自分を対象とする呪文や能力から身を守るという効果。
しかし、本来イラストが描かれている部分は真っ白なまま。エラーカードだろうか。
他の大会参加者は、すでに荷物をまとめて速やかにここを立ち去っている。怪訝そうな表情の私に対し、店員さんは言葉をついだ。
あれは、人よけがされている、と。
このような試合、大会のたぐいのときは、まれに現れることがあるとのこと。ターゲッティングした相手を帰り際に襲う。
標的をむだに汚されるのを嫌い、そいつと他の有象無象が必要以上に接して汚れないよう、何気なく遠ざける……その影響だ。悪く思わないでくれと。
ただ、このカードを身に着けている限りは大丈夫だ、とも教えてくれた。
なぜそのようなことが分かるのかというと、「経験者だからだ」との一点張りで、それ以上は詳しく教えてくれなかったよ。
獲物のための人よけ。本当だろうか、それは?
疑う間もなく、私はその効果を実感することになった。
お店を出て、いくらも歩かないうちに私は背後から強く頭を叩かれた……感じがしたんだ。
音は私の頭のすぐ上、それこそ紙一重のところから響いたんだ。じかに叩かれたんじゃないかと思うほど揺れがあった。痛みはなかったけれどね。
そして店員さんにいわれて、握りしめていた白い護符のカード。それの白紙のイラスト部分がひとりでにしわくちゃになっていってしまったんだ。
カードは破ったりするには、それなりに力を入れなくてはいけない。それをただ触れているのみの状態で、こうも渦を巻くようにくしゃくしゃになるとは考えがたかった。
何が狙ってきたかは分からないが、店員さんのいう通りに普通じゃない何かがターゲッティングしてきたのは確かっぽかったよ。




