第二十九話 身代わり
……タイトルどおりの内容。
琴雪SIDE
私達訓練組は今、哀くん達が偵察任務に行った所へ急行している。
勿論、皆と明くんがいる。
訓練中に、偵察任務のあった地下が崩れたらしい。
最新の構造で、ビル自体はどうにか支えられているらしいが、いつ倒れるか分からない。
そして、崩れた地下からの連絡も一切途絶えているらしい。
急いで走っていた車が止まる感じがする。
私はいてもたってもいられなくなり、車からいそいで出て、部隊が集まっている所にいった。
そこは、ビルが見た目少し傾いて、地下は完全に地上から丸見え、といった、
素人目から見てもとても危険な状態になっていた。
私はそこにいる、部隊の小隊の隊長らしき人に詰め寄る。
「あのっ! 哀くんと紫ちゃんは?
無事なんですかっ? 今どこにいるんですかっ?」
「なんで君みたいな女の子がここに「僕が連れてきました」……佐屋隊長!?」
隊長が驚く。
明くんは私達が思っている以上に立場が上らしい。
「僕達は姉と御神さんと面識がありますので。
因みにこの人たちは近日新しく部隊配属になった子たちです」
「そうでしたか。
……現状は、芳しくありません」
目の前の人が俯く。
「どういうことですか!?」
「……何らかの原因で地下崩壊後、無線は一切繋がりませんし、瓦礫も複雑に組み合わさっていて、
取るに取れない状況です。もし下敷きになっているなら、そろそろ危ないでしょう」
その言葉を聞いてハッとする。
でも、きっと大丈夫。
哀くんは、強いし、あの能力もある。瓦礫なんかに負けるはずない。
……けど、それじゃあ何で出てこないんだろう?
もしかしたら、敵との戦闘で……
私は最悪の場合は極力考えないように、哀くんの無事を祈った。
できることが何も無くて、歯痒かった。
琴雪SIDE END
御神SIDE
「紫……大丈夫か?」
俺は暗闇の中、声を出す。
どうやら俺達がいた場所は瓦礫が上手く組み合わさり、無事だった。
しかし、それで外にまったく出られないようだ。
ビルは幸い崩れていなさそうだが、無理に瓦礫を消すと大惨事を招くかもしれないので、
まずは紫を見つけることにした。
俺は、能力を使い、光を灯す。
掌の酸素を真空放電させ、淡い光を作る。
すると、見えた。
手術台がまだあり、その向こう側に倒れている。
「紫! 大丈夫か?」
紫に駆け寄る。
しかし、その瞬間見えたものに驚愕した。
紫は気絶していて、その右肩から先は、なくなっていた。
そこからは今だに血が零れ出ている。
「紫!」
俺は駆け寄り、抱きかかえる。
その体は青白くなって、やけに軽かった。
しかし、耳をすますと小さい息遣いがきこえる。
どうやら最悪のパターンは避けれたようだ。
だが、紫は右手を失い、周りには目を背けたくなるような血溜まりがある。
右腕はとっくに瓦礫の下敷きだろう。
このままでは死んでしまう。
……俺は守りたい、紫の笑顔を。
そのためなら、何だってする。
「ごめんな、紫。お前が起きてたらきっと止めようとするんだろうけど……」
決めた。
紫は俺が治す。
紫を静かに寝かせて、傷口が見えるように服を千切る。
そして露出する無残な傷跡。
肩に穴があき、そのまま無理矢理千切られた粗いもの。
俺はその傷口の入り口付近にある血を調べる。
「能力発動……紫との血液相性率67%。
これより右腕を移植する」
内臓移植などは聞いた事があるが、右腕そのままは聞いたことが無い。
だが、俺の能力ならやれるはずだ!
「……能力発動、細胞レベルでの右腕の『切り離し』。対象、自分」
その瞬間、焼け付くような痛みが右腕を襲う。
「ぐっ、あああぐ……」
そのまま俺の右腕は、細胞レベルで、綺麗に俺の胴体から引き離された。
俺はそれを左手で取る。
そして、それを予め、粗い細胞を取り除いた紫の右肩の断面に合わせる。
「……紫、ちょっとの間我慢してくれ……。
能力発動、細胞レベルでの、右腕、右肩の『接合』。対象、紫」
そう言った瞬間、俺の持っている自分の右腕から能力が流れ込むのを感じる。
そして、合わせた部分が淡く、オレンジに光り輝く。
「あああああ! うああああ!」
紫が反射で飛び起きようとするが、それを抑える。
「大丈夫だから、紫、もうすぐ終わるから……」
そういって抱きしめる。
「接合、終了」
やっと終わった。
俺の肩の綺麗な傷はとっくに血を止めた。
接合部分は、何分も、何時間も経ったか分からない程集中して、直した。
最後に点検をしたが、神経、血管、筋肉などを、俺のほうを変化させて繋げた。
これで、紫は右腕を取り戻した。
後は……血か。
自分の指を噛んだ。
そこからあふれてくる血。
それが固まらないように、血のなかの血小板だけを排除する。
そして、俺の指を紫の傷口にあてる。
「能力、発……動、血液を限りなく新鮮なまま『操作』させ、対象の体内に循環させる。対象、紫」
ヤバイ、くらくらしてきた。能力の使い過ぎだろうか?
それとも血を与えすぎているのだろうか?
まあ、どっちにしても問題は無い。
これしきの事で紫を助けられるなら……。
「血を、紫の一定値まで送る。俺の血は気にしない。循環速度、倍とする」
その瞬間、猛烈な目眩を覚えた。
血を多く与えすぎたのだ。それも俺の致死量を軽く超える勢いで。
「これで……紫は…………大丈……」
そして俺は、意識を再び暗闇に落とした。
そんなことできるの?という
質問。
主人公は全てが規格外なんです。
因みに次の話は過去話です。