第二十二話 暗闇
俺は、結局何も出来ずに皆と控え室に行った。
そこには、先に行くと言っていた不知火が1人、椅子に座っていた。
「あ、皆来たんだな!」
不知火が、さっきの事を気にしていないという素振りで俺達に気付く。
だけど俺は気付いていた。
不知火の目が、心なしか赤く充血している。
(まったく……1人で無理しやがって……)
いつも元気な不知火だが、今はそれが偽りだとすぐに分かる。
俺は何を言って良いのか迷う。
すると、急に不知火の眼光がきつくなる。
その視線は、俺達の後ろにある。
俺達は後ろを見る。
そこには、1人の茶髪の痩せ細った男が立っていた。
不知火が、心なしか何かを押し殺した声で言う。
「何で、お前がここに来てんだ……」
俺達の後ろにいる男は、俺達にはまるで興味が無い、といった感じで
間を通って不知火の前に出る。
そして口を開く。
「よう、不知火の妹。なあに、唯の挨拶だよ」
「ふざけるな!本当に何をしに来た!死にたいのか!」
いきなり不知火が怒鳴りだす。
男の口調からして知り合いらしいが、それに不知火の事をわざわざ『不知火の妹』と言った。
まさか、とは思うが、俺は皆に聞く。
「おい……まさか、あいつは……」
すると聊爾が答える。
「ああ、あいつが……」
聊爾の顔が苦虫を噛み潰したかのような苦しい表情になる。
「あいつが、総哉が死ぬきっかけを作った雷使い、一条 裕だ」
…やはり俺の予想は正しかった。
この状況で来るということは、精神的に不知火を掻き乱すつもりか?
それとも……
「ああ、俺が来た理由は別にあるよ。ちょっとお前に謝る事があってな」
「なんだ? 1年前の謝罪なら必要無い。私はお前を許さないから」
すると一条はクックックと薄ら笑いを浮かべて言う。
「そうじゃない。俺が謝りたいのは、俺が嘘を吐いていたからさ」
「嘘?」
不知火が呟き、不知火や皆は訝しげな表情を浮かべる。
その表情を見て、満足したように一条は馬鹿にしたような笑みを浮かべ、言う。
そこから発せられた言葉は、俺を含めて皆を愕然とさせるにはお釣りがくるぐらいだった。
「実はあの暴走事件、俺は別に暴走してねーんだよ。ぜぇーんぶ、でっち上げの嘘なんだよ!」
その瞬間、皆は驚愕し、不知火はショックでフラフラと目を見開き揺れている。
そして更に一条は言葉を紡ぐ。不知火への素敵なプレゼントとして。
「俺は、あの時、どうにかして大会一位、そして同年代の中で一番強い能力者、という
『栄光』を手に入れたかった。だから、調べたのさ!
あの忌まわしい能力、『血液循環』の場合、その能力によって出した血は
高熱によって、人体に有毒な成分が発生するという事を!
だから俺は暴走に見せかけ、大会では禁止されている殺傷レベルの能力開放をした。
そしたら俺の予想通り、あいつ、不知火は自分の血を一瞬だけ致死量分取り出したよ!
その後アイツが倒れた時はスーっとしたよ!
はははははっ!」
「もう、やめろ……止めろおおおっ!」
そして瞬間、不知火は一条に殴りかかった、が、一条がその瞬間不知火に言った。
「良いのか? 俺を殴って?」
「……どういう事だ?」
不知火は、どうにかして自分の怒りを抑えているようだが、すぐにでも殴りかかる様子だ。
一条は不適に笑う。
「こんな時、試合前に相手チームのリーダーを負傷させたなんていったら、後ろにいる
お前らのチームメンバーにも迷惑掛かるんじゃねえの?」
不知火の体がビクッと震える。
そうだ、こんな試合の一ヶ月前でも怪我させまいとピリピリしていたのだ。
今、相手チームのメンバーを、しかもリーダーと言っていた一条を負傷させれば、
理由なんて聞かれず、今回の大会の出場不能はもちろん、もしかしたら学園
に多大な責任と迷惑を押し付ける事となって停学、最悪の場合退学になるだろう。
しかも、そんな理由で退学になれば、入学させてくれる中学なんてないだろう。
別に『HEAVEN』内は義務教育なんて無いのだ。
……悔しいが、一条がそれまで計算しているとなると、不知火の性格からして引き下がるを得ない。
しかし俺の中には、大切な友達とその兄が、たった一人の本当にちっぽけな自尊心のために馬鹿にされ、
挙句の果てに屈辱的に殺されるという事実に対する悔恨と憤怒の他に、何かどす黒いモノがあった。
ソレは、以前にも何度か感じた気持ち。
全てを壊そうとする破壊的な衝動。
俺は、またそれに耐えられず、意識を闇に落とした。
……暗い、真っ暗な中に浮かんでいる感覚。
それは、いつに無くはっきりと、俺の意識は感じ取っていた。
何かが見える。
…………あれは、俺?
小さい子供がいる。それは見間違うはずも無く、昔の俺だった。
まだ5歳になるかならないかの頃。
ここは、どこだ?
俺の記憶には無い場所。
どこかの山村のようだ。俺はそこで女の子と遊んでいる。
同年代ぐらいの女の子。顔はもやがかかった様に見えない。
声が聞こえる。
「ねえねえ! *#%ちゃんは、おおきくなったらなにになるの?」
聞き取れない。俺が言っている言葉。
名前が入るだろう場所にノイズがかかっていて、名前の長さすら分からない。
分かるのは、相手の女の子に言っているであろう言葉だという事だけ。
「わたしはね、おおきくなったら、アイくんのおよめさんになってあげる!」
その女の子は笑顔で言う。顔が見えないのに笑顔が分かるという、矛盾。
俺は嬉しそうに答える。
「ほんと? やったあ!」
すると急に視界がぼやける。
その場所が一変、違う場所に移り変わる。
そこは、炎で赤く染まっていた。
その中にいる、俺と女の子。
今はなぜか10歳前後に見える。
俺泣いている。
「どうして、どうしてこんな事になっちゃったんだよっ!」
それを女の子が優しく包み込む。
「大丈夫だから、アイくん。ずっと、私達、一緒だもんね?
神様、どうかアイくんだけでも助けてくれますように……」
そして、記憶は途切れた。
なんだ?記憶?
だが俺の記憶にはあんなの……無い。
すると急に暗い中に光が戻る。
……ここは、どこだ?
俺はあたりを見回す。あの記憶?も気になったが、今ここは現実らしい。
すると、気付く。
この部屋は、血なまぐさかった。
俺は恐る恐る前を見る。
……そこには、
バラバラの、『一条』があった。
しかし、なぜか俺の心はスッキリしていた。
だが、気になる事がある。皆はどこだ?
あらためて部屋内を見渡す。
そして俺は驚愕した。
崩れた壁の下敷きになっている聊爾。
窓が割れて、そのガラスで血まみれになっているハイト。
壁に寄り座り、だらりと死んだように力が抜けている琴雪。
俺の足元にうつ伏せに倒れている不知火。
そして、俺を止めるように俺の腰を掴んだまま、顔を蒼白にしている紫。
その光景に、俺は、俺の精神は、耐え切れなくなった……。
「あ、ああ、あああああああああああああ!!!!!!」
……いきなり超シリアスです……。
私は作品に過剰に感情移入する性質なので、
こういうの書いてると、心が暗くなります。
みなさんは、どうですかね?