第一話 非、日常
第一話、丁度良い長さがわからなくて困りますね……。
これは何だ? と俺は心の中で反芻する。ここは路地裏。
時代の変化についていけない犯罪者や、世間を嫌う不良達がいる場所。
今、俺の目の前にはナイフを持った大柄な男がいる。
こちらにジリジリと近づいてきている。
その男の口は、狂喜のあまり融けたように横に広がり裂けている。
そう、まるで猛獣が久しぶりの獲物を見つけた時のような……。
その顔を見た瞬間、俺は恐怖に駆られた。
(やばい……こいつはマジでヤバイ!!)
少年の本能がそう告げる。
そう思った瞬間、男はこちらに走ってきた!
身の危険を更に感じた俺は
必死になって逃げようと、男に背を向けて今までに無いスピードで駆けていく。
が、相手は予想以上に素早かった。
まるで小鹿が虎に追いかけられている様にジワジワと、
しかしここは路地裏。途端に追いつかれてしまう。
そして肩に見たこともない変なナニカが通り、激痛が走る!
「いぎぃ……ぐう…………」
今まで感じた事の無い痛みが少年を襲い、悲鳴もあげられないようだ。
そして男はおもむろにナイフを少年の首元に……
(俺は死ぬのか?)
少年はもう諦めかけていた。もういいと、心のどこかでそう思っていた。
そして言う。
「あの時の約束も守れずに……」
つい呟いたその言葉に疑問を抱く。
「なんだ?…………約束?」
少年は思い出そうとする。記憶の底にあったそれを見つけた時、何か……。
「そうだ! なぜ忘れてた? あの約束が……まだ俺は…………駄目だ!」
男は呟く少年を見て、気でも違ったのかと嘲笑する。
「まだ俺は死ねない! あの約束を守るためなら、何だってすると決めたのに………………!」
少年は覚悟を決めた。
もう迷わない。
もう諦めない。
絶対に、だ。
「死ねない……俺はまだ死ねない…………死ぬわけにはいかない。
………………………………………………その為に、お前は死んでくれ……」
少年は叫び続けた直後、何かが吹っ切れたような雰囲気で男のもとへ歩く。
他ならぬ自分の足で。
瞬間、少年は男に飛び掛っていた。男の顔が驚きに包まれる。
男は咄嗟のことに口走る。
「まさか、テメェも……」
俺は男の言葉の意味も考えず、いや、考えようとしなかった。
俺の脳が薄々感づいていたからかもしれないが、その思考を早々に切って捨てた。
そして、未だ驚いて動けない男の隙だらけの首をつかんで…………。
俺は腕にありったけの力を込めて……解き放った!!
その時、俺の頭の中で何かが弾けた…………。
脳裏に瞬間的に浮かぶのは人々の恐怖、畏怖の眼差しと、
こちらを優しく見てくれる紅い2つの瞳……。
そして……………………………………
「ぎ…ぃやあああああああああああああああああああああ!!!」
突如、悲鳴がこだまする。しかし、それは少年の悲鳴では無かった。
もっと低い、年齢を積んだ者の声。
では、誰の? 少年はただただそこに呆然と立っている。
今、自分がやった事を顧みる。
思いっきり相手に飛び掛ったあとの記憶が無い。
だが何をしてしまったかは、分かる。
前を見る。
少年の足元に何かが転がっている。いや、融けていると言った方が良いか。
最初、少年はそれが何かわからなかった。
そこには、ただただ恐怖と驚きに目を見開いたまま、
首や腹や、体のあちこちが、文字通り融けてしまっている肉塊があった。
周りには銀色に輝くナイフと、
そして肉体の一部であったはずのドロドロとした肌色の泥沼と、
さらにはそのスキマから赤黒く細長い固形物が…。
「う…お…うぐ……」
途端、俺は吐きそうになった。しかしそれを必死に我慢する。
そしてもう一度惨状を見て
初めて見るその残酷な光景に
そしてそれを見てもあまり心が揺らがない自分に恐怖し
俺はその場から逃げる様に走り去った。
それを紅い瞳に見られていることも知らず……。
俺は走りながら、まだ落ち着かない脳で考える。
なぜこんな事になってしまったのか、それは今日の朝に遡る。
「ピッピッピッピッピ……」
目覚まし時計の甲高い音が鳴る。
しかしその目覚まし時計が起こそうとする人は起きない。
だが、時間が経つと音がどんどんその音量を大きくしていく。
そしてやっと。
「うるさい……」
直後、バチンと快音が鳴ると時計は役割を果たした。
そして布団からソイツが起き上がった。
少年は眠そうに、欠伸をしながら、
「うう…ねむ……二度寝決行?」
と呟く。
(いきなりだが俺、『御神 哀』は一応言っとくけど一人暮らしだし、
女みたいな名前だけど女じゃない。
たまにこの顔と長い髪で女と間違えられるけれど。
よし、自己紹介終了。あれ? 誰に対してだっけ?)
理由も見つからないし、すぐめんどくさくなり、二度寝を実行に移す。
結果……は言うまでも無いが、一応言っておこう。
二度寝をしたのは
昨日決めた「明日からは遅刻しないよう目覚ましを超早く仕掛ける!」
という、いかにも浅はかな案をけしかけたのが理由である。
ちなみに目覚めた時間は……
ながいはりが4を、みじかいはりが8と9の間を彷徨っていた。
「遅刻だ……」
俺は急いでどこぞの2次元女子よろしく、食パンを咥えて家を出た。
ちなみに俺は中校生なので最速移動方法は……ずばり、自転車。
中学生だがバイクが欲しいくらいだよ。
と、呟いても空しさが増すだけなので、叫んでみよう。
心の中でだけど……。
(おらああああああああああああーーーー)
そんなことを思いながら全速力で自転車を漕ぐ。
何分か経過……
(学校に到着。さあ問題の判定写真を見てみましょう。)
もちろん写真などないが。
ちなみに言うとHRは8時30分に始まる。今の時間は……8時40分……
俺は冷や汗をたらしながら誰にも出くわさないことを祈った。
俺は急ぎ足で教室に向かうと、途中の廊下で人に軽くぶつかった。
「おい……思いっきり遅刻だぞ御神! 中二にもなって10分遅れか!」
げっ……今まん前にいるのは担任だ。時間にうるさいやつ……。
俺は説教に付き合わされる前に謝罪の意を表明し、教室へ逃げ込んだ。
教室はもちろんHRが終わっていてザワザワしていた。俺は普通に自分の席についた。
だが誰も気にかけない。
(ヒドッ)
と思いながらも仕方のない事だと思う。
昔から思ったことは、ムカつくことだけ直ぐ相手にいったり、なのに褒め言葉とかは言えないし。
自分の心に逃げ込みがちな性格で、友達はいない。もう中2なのに。
女と間違えられると無言で相手を潰すし、やっぱ嫌われてるな。
そう思っていると、1限目のチャイムがなる。
授業が始まっても暇過ぎるし、いつも寝るけど先生方はもうこれを諦めてらっしゃる。
しかしやっぱ今日も寝た。
そしてやっと昼のチャイムが鳴り響く……。
俺は適当に学食で買ったパンを食いながら、
誰も来ない屋上で近頃のことについて考えた。
(なんか近頃物騒だよなー。なんだっけ? あの世界が認知してる……能力…………だっけか?
あれの犯罪者がこっち側にいるって言うけど、実感わかねーな。
…………あーいうのがあれば俺も変われるのかな?
まっ、馬鹿なこと考えないほうがいーよな。どうせ俺には関係無いし。)
そう、この時少年自身も知る由が無かった。
まさか自分がそんな非日常に首を突っ込む事になろうとは……。
午後の授業が終わり、俺は早々に帰る。もちろん独り一人で。
独りとか言うな! 空しさ100倍だから。
途中、なぜか俺を女と勘違いしてきてナンパしてきた不良。
ムカつくから潰したら、路地裏からワラワラと湧いてくるよ。
お仲間が、その数ざっと、12人。……575か・ん・せ・い!
(めんどくさっ)
もちろん、1人ならともかく12人とやり合う根性は俺には無い。
1対12とか、どんな羞恥プレイだよ!
「逃げるが勝ち!」
俺は、律儀にも他人を巻き込まないように、路地裏に逃げ込んだ。偉いだろ。
しばらく走りまくった。
路地裏は多少入り組んでいるので逃げ切れるだろうと
鷹をくくっていたのが間違いだった。
よく考えれば相手はここ一帯をしきる不良達だ。
特に路地裏などに逃げ込めば相手の思う壷ではないか。
すぐ考えつかなかった自分に苛立ちを覚える。
今、俺の前と後ろにはさっきの奴らがいる。そう、ご丁寧にも遠回りしてきた奴らと
後ろから走ってくる奴らに挟まれたのだ。
(クソッ、俺は男に犯される趣味はねえっつうの!)
そんな事を考えていると、不意に不良達の目線が空に釘付けになる。
何事かと俺も空を見ると、いきなり隣のビルの屋上から、
そこら辺のヘタな格闘家よりでかい大男が飛び降りてきた。
凄い砂埃が舞って視界が狭まる。
(おいおい! 何が起こった? あいつ人間かよ!)
4階建てのビルの屋上から地面にダイブしてきた男を見てそう思った。
しかし、砂埃が無くなってくると、異変に気づいた。
音がしない。不良達が1人残らずこの場を立ち去っていた。
そして男がおもむろにこちらを向く。
その顔は………………狂喜に歪んでいた。
今、少年の目の前にはナイフを持った大柄な男がいる。こちらにジリジリと近づいてくる。
その男の口は、狂喜のあまり融けたように横に広がり裂けている。
「くくくくっくけかかっ!」
そう、まるで猛獣が久しぶりの獲物を見つけた時のような……。
(やばい……こいつはマジでヤバイ!!)
少年の本能がそう告げる。
そう思った瞬間、男は少年めがけて走ってきた!
(絶対に捕まっちゃいけない! あれはそういうモノだ! 考えるな!)
身の危険を更に感じた少年は
必死になって逃げようと、男に背を向けて今までに無いスピードで駆けていく。
が、相手は予想以上に素早かった。
まるで小鹿が虎に追いかけられている様にジワジワと追いつかれてしまう。
そして肩に見たこともない変なナニカが少年の肩に通った。
「いぎぃ……ぐう…………」
今まで感じた事の無い痛みが少年を襲い、悲鳴もあげられないようだ。
そして男はおもむろにナイフを少年の首元に……
(俺は死ぬのか?)
少年はもう諦めかけていた。もういいと、心のどこかでそう思っていた。
そして言う。
「あの時の約束も守れずに……」
「なんだ?…………約束?」
少年は思い出そうとする。記憶の底にあったそれを見つけた時、何か……。
「そうだ! なぜ忘れてた? あの約束が……まだ俺は…………駄目だ!」
男は呟く少年を見て、気でも違ったのかと嘲笑する。
「まだ俺は死ねない! あの約束を守るためなら、何だってすると決めたのに………………!」
「死ねない……俺はまだ死ねない…………死ぬわけにはいかない。
………………………………………………その為に、お前は死んでくれ……」
少年は叫び続けた直後、何かが吹っ切れたような雰囲気で男のもとへ歩く。
他ならぬ自分の足で。
瞬間、少年は男に飛び掛っていた。男の顔が驚きに包まれる。
男は咄嗟のことに口走る。
「まさか、テメェも追放s……」
俺は腕にありったけの力を込めて……解き放った!!
その時、俺の頭の中で何かが弾けた…………。
脳裏に瞬間的に浮かぶのは人々の恐怖、畏怖の眼差しと、
こちらを優しく見てくれる紅い2つの瞳……。
「ぎ…ぃやあああああああああああああああああああああ!!!」
突如、悲鳴がこだまする。しかし、それは少年の悲鳴では無かった。
もっと低い、年齢を積んだ者の声。
では、誰の? 少年はただただそこに呆然と立っている。
少年の足元に何かが転がっている。いや、融けていると言った方が良いか。
最初、少年はそれが何かわからなかった。
そこには、ただただ恐怖と驚きに目を見開いたまま、
首や腹や、体のあちこちが、文字通り融けてしまっている肉塊があった。
周りには銀色に輝くナイフと、
そして肉体の一部であったはずのドロドロとした肌色の泥沼と、
さらにはそのスキマから赤黒く細長い固形物が…。
少年はその場から逃げる様に走り去った。
所変わって、ここは屋上。
御神 哀のやった事が全部見えてる場所。
私は携帯をとって総隊長に報告する。
「見つけました。久々の保護対象です。」
総隊長と呼ばれた電話の相手は言う。
「? 紫、たのしそうだね。何かあったの?」
紫と呼ばれた少女は答える。
「いえ、何も。それでは、一時帰還します。」
「ああ、分かった。」
私は携帯をしまう。
今、私は笑っているのだろう。だって……
「久しぶりだね……アイ。」
更新は不定期ですが、なるべく早くしたいと思います。