第二部 第七章 ②
人工衛星から送られてくる映像は悲惨なものだった。
核ミサイルが地面に墜落した瞬間大きな傘のような雲が覆い、大型宇宙船も小型宇宙船も目に捉えられない速さでどうなったかわからなくなった。
埃や塵や灰であたり一面真っ暗でしばらくすると黒い雨のようなものが降り出した。
《なるほど、核ミサイルが落ちるとこのようになるのか。シミュレーションをしたがここまでとは》
「何を他人事のように言っている!こんなの…人の命を何だと…アマヒは簡単に人の命を奪わないと思っていたのに…」
カイは拳を握り締めて横の壁に打ちつけた。
《人の命は尊いがロボットは簡単に壊しても良いと?わたしにとって人の命もロボットの命も変わりない》
そうだった。カイはそれに気づいたからアマヒと話がしたかったのだ。
しかし今となってはもう遅い。
《30時間だ。30時間以内に残りの戦闘しにきた月の者全員が撤退しなければ、カナダのスタジアムに向けて核ミサイルを発射する。カイが伝えに行きなさい。小型宇宙船はそのままにしてある》
30時間。ここからカナダまで急いで10時間だ。十分余裕はある。
「地上への出口はどこだ!」
《ジョージに案内させよう。研究所を出たところに呼んでおく。ジョージを連れて行っても構わない》
カイは急いでサーバールームを出てR研究所の外に出た。ジョージが走ってやって来た。
「どうしたカイ。アマヒがカイを地上に案内しろって」
「行きながら話す。案内を頼む」
カイはジョージに案内をされながら、月の者が地球の軍事施設を壊滅させたこと、月の者がまだそこに残っているところにアマヒが核ミサイルを落としたこと、30時間以内にカナダの戦闘員たちを退避させないとまたそこに核ミサイルを落とすつもりでいることを伝えた。
「核ミサイルって威力凄いのか?」
ジョージが聞いた。
「月に落とされたらあっという間に全滅だ。たとえ生き残っても放射線に侵されてすぐに死んでしまうだろう。何年、いや何十年も放射線のせいで住めなくなる」
カイは怪訝そうな顔で言った。ジョージはカイの顔を見てよっぽどの物だと思った。
「それはアマヒが製造したのか?」
「いや、小惑星が地球に衝突するずっと以前から各国が保有していたらしい」
ジョージは驚いた顔をした後呆れた口調で言った。
「はぁ?そんなミサイル何のために?地球に落として地球を破壊して全人類滅亡させるためか?」
「人類だけじゃないな。あらゆる生き物が死滅する。大地も海も空も汚染されるわけだから。僕だって本を読んだとき、不可解だったよ」
2人は地下街を抜けて細く長い路地に入った。
「この先に行くと階段がある。それを昇れば地上に出られる。俺はここまでだ」
ジョージが立ち止まって言った。
アマヒは何の意図があってジョージを連れて行ってもいいと言ったのかわからないが、カイはアランたちが生きているならジョージを会わせたかった。
「ジョージ、一緒に行かないか?アマヒは連れて行っても構わないと言った」
ジョージは視線を落として言った。
「俺はこんな身体だ。半分ロボットの俺を受け入れてくれるだろうか?」
「何を言っている!アランもサラもそんな人間じゃないことはジョージがよく知っているだろう。ただし、アランたちが生きていればの話だ。核ミサイルにやられていたら僕は……お願いだ。一緒にいて欲しい」
カイは今にも泣きそうな顔をしてジョージに懇願した。
「わかった。ただし、またここに戻ってくれ。今の俺の生きる場所はここしかないんだ」
ジョージは真剣な眼差しで言った。カイは少し寂しそうな顔で答えた。
「…もちろん戻るつもりだ。僕はまだアマヒと話があるから」
2人は地上に出た。そこはカイがスタンガンでやられた近くだった。東京駅まで歩くと、アマヒが言ったように小型宇宙船はそのままにしてあった。
カイは積んであった燃料を小型宇宙船に入れ、出発した。
「カナダまでどのくらいだ?」
ジョージが聞いた。
「10時間ぐらいだ。ミサイル発射までには余裕で地球を抜けれる」
それだけ会話すると2人はずっと黙ったままだった。
お互い、カナダの様子が気がかりで会話をする気分になれなかった。
10時間近く飛行してドーム型スタジアムが見えて来た。
ドームのすぐそばに大型宇宙船が駐機していた。カイは大型宇宙船の横に小型宇宙船をつけた。
カイの小型宇宙船が着陸すると、何人か隊員が出て来た。
その中に見慣れた顔ぶれが何人かいた。
カイが降りるとアランが寄って来た。
「カイ!どうしたんだ!いや、良かった無事なんだな」
アランはカイを抱きしめた。
「アランこそ無事で良かった。顔を見るまで生きた心地がしなかった」
カイは涙を堪えてアランを抱きしめ返した。
「軍事基地に行った者の生き残りがいたのかと思ったらカイなの?」
サラが驚いた顔をして涙ぐんでいた。
カイが来たという知らせを聞いてオリバーやドユン、フラマやユートも出て来た。
みんな驚いていたが、カイを囲んで喜んだ。
「さらに驚くことがある」
カイはそう言って乗って来た小型宇宙船の方を見て手招きした。
小型宇宙船からジョージが恐る恐る出て来た。
「ジョージ!!」
ジョージを知る者が一斉に叫んだ。
「生きていたのか」
「良かった、本当に良かった…」
みんな涙ぐんで口々に言った。
大型宇宙船に乗り込んでカイたちは再会を噛み締め合った。
カイは日本での出来事をみんなに話して聞かせた。
ジョージのことも話した。
アランもカナダでの出来事を話した。
「そうか、次発隊だったのか……どちらにせよ、犠牲者が出たことには変わりない。僕がアマヒを説得できていればこんなことには…」
カイは下唇を噛んだ。
「カイはよくやったよ。あのアマヒと直接話をしたのはおそらくカイだけだ。カイ、それより早く伝えなければならないんじゃないか?」
ジョージはカイを促した。
「そうだ…あと19時間以内に戦闘隊は地球を出ないとここにも核ミサイルを落とすとアマヒが言っている。今すぐ地球を出て欲しい」
カイは申し訳なさそうに言った。
「わかった。カイ、お前の責任じゃない。そう気落ちするな」
アランがカイの肩を叩いて言った。
「全員帰る必要はないんじゃない?大型宇宙船と小型宇宙船がいなくなれば帰ったと思うでしょ。操縦士と副操縦士だけ乗せて地球外で待機させれば?」
サラが言った。
「そうだな。ドームにまたアンドロイドたちが来たときのために残っていた方がいいな」
アランも賛成した。
そうして大型宇宙船と小型宇宙船6機はそれぞれ2名だけが乗り込み地球外に向けて離陸した。
残った隊員は見つからないようにドームの中で待機した。
「じゃあ、アラン。僕は日本にもう一度行ってくる。今度こそアマヒを説得してくるよ」
カイはアランに告げた。
「ああ、期待しているよ。ジョージも」
アランは2人の手をしっかりと握り締めた。
カイとジョージは再び小型宇宙船に乗り込み日本に向かった。
行きとは違って2人とも緊張がなくなって会話も弾んだ。
思い出話に花が咲いているとき、ふとジョージが思い出したように言った。
「そういえばお前の大事にしている菩提樹のブレスレット、最初の月の移住者の祖先の物だと言っていたな」
「ああ、しかもどうやらアマヒのシステムの設計に関わった人のようだ。アマヒが親しげに瑛人と呼んでいた」
カイは笑いながら言った。
「今思い出したんだが、それを直すとき玉の皺のような模様とは別に何か文字が彫られていた。何だろうと思ってちょっとだけ調べて梵語だと思った」
カイは自動操縦に切り替えてブレスレットを外して見た。
「ほら、こことかここ」
ジョージがブレスレットを覗いて言った。
皺があるからわかりづらいが、確かに梵語のような文字が全部ではないが玉1つに1文字彫られている。
これは尚子がネパールに旅行に行ったときにお土産に買った物だと言っていた。初めから彫られていたのだろうか。
「地下都市に着いたらすぐに図書館に行って調べたい。付き合ってもらえるかな?ジョージのIDが必要だから」
「了解。俺も気になってたから一緒に調べるよ」
ジョージはウインクして言った。
「ありがとう、ジョージ」
2人は日本に着くと小型宇宙船を石垣のある広場に駐機させて、地下都市に入って行った。




