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第二部 第六章 ②

 ジョージがカイを訪ねた2日後、ジョージはアマヒの許可をもらい、カイをサーバールームに連れて行った。

 アマヒがサーバールームへのセキュリティを解除していたので、顔認証やIDカードなしで入室できた。

 ジョージはサーバールームには入れなかった。


「アマヒが俺はダメだと。二人いると何するかわからないからだってさ。アマヒから連絡を受けたらまた迎えに来る。お前の監禁が解けたらその必要はないかもだがな」


 ジョージは少し寂しそうに笑いながら去った。

 カイはサーバールームの中に入って見渡すと、脳内で見せられた記憶のままだった。


《カイは瑛人の子孫だから特別にこの部屋に入室許可する》


 アマヒはよほど瑛人のことを気に入っているらしい。瑛人が生みの親みたいなものだからかもしれない。

 カイがエンジニアということも気がついていないのだろう。知っていたらシステムを修正される恐れがあると判断してサーバールームに入れてはくれなかっただろう。

 記憶の中ではあれだけ警戒していたのだから。


《カイの話の内容は見当がついている。答えはNOです》


「はなっから話を聞く気がないのにどうして僕をサーバールームに入れた?」


《逆にわたしがカイを説得するためだ》


「僕を説得?何の?」


《ジョージからも聞いているだろう。月の者の選別だ》


 カイはため息をついた。


「ジョージにも話したが、僕にはそんな権限も知識もない」


《千年前、月に行く者、地球に残る者、選別したのはお前たち月の者の祖先だ。ならば今回も月に残る者、地球に移住する者を選別して、残った者の苦しみを知るがいい》


「だったらななおさら僕はやらない!残った者の苦しみを知っていながらそれを実行した者と同じことはやりたくない!……アマヒ、よく考えてくれ。本当にそれが尚子や正孝や地球に残った者の思いなのか?」


《そうです。尚子ははっきりと言いました》


 そうだ、何度話してもアマヒとは平行線だった。いくらアマヒが人間に近い知能を持っているとしても、心の中まで見透せない機械は実際に見て聞いた情報でしか判断しない。人のように慮ることを知らない。人間ですらできない者が多勢いるのだから。

 カイはやはりメインシステムを修正するほかないと考えた。

 カイはしっかりコンピューターの入力部分、制御部分、分電盤などの位置を目に焼き付けて頭に叩き込んだ。


「アマヒ、監禁を解いてくれないか?どうせ僕一人じゃ何もできないし、ずっとあの家にいたんでは退屈で狂ってしまいそうなんだ」


《何をするつもりですか?》


「地下都市をいろいろ見てまわりたい。これだけ広いから当分は退屈しないだろう?」


《わかりました。ただし監視員をつけます》


「監視員?それは人間?それともアンドロイド?」


《どちらがカイにとって都合がいいでしょう?》


 面白い質問をアマヒはするなとカイは思った。


「どっちでも僕は構わない」


 この答えなら何か企んでいるとは思わないだろう。

 人間なら説得して味方につけることができるかもしれない。アンドロイドならいざというときは壊してしまえばいい。


《わかりました。ではジョージをつけましょう》


 カイは少し困惑した。ジョージを味方につけるのは簡単だとアマヒは考えないのか。もしかしたらジョージはアマヒの言うことを聞くように操作されている可能性がある。味方のフリして裏切る可能性があるということだ。

 カイは気持ちが少し重く感じた。


 そのとき警報音が鳴った。


《面白いものを見せてあげよう》


 アマヒがそう言うと数十台のモニターが一斉についた。地上から空に向かって撮影されている映像だ。

 そこに飛行している一機の小型宇宙船が映っていた。


「これは?」


《アメリカにある軍事施設の上空を映したものです。どうやら月の小型宇宙船が上空に侵入したようだ》


 軍事施設から戦闘機が1機飛び立ち、小型宇宙船を追いかけた。


「危ない!」


 カイは思わず叫んだ。


 小型宇宙船は戦闘機に気づき、上昇して何とか戦闘機を交わした。

 カイはホッと胸を撫で下ろした。


《軍事施設がバレてしまいましたね。仕方がありません。今夜攻撃を仕掛けよう》


「待ってくれ、アマヒ!」


 カイは焦って言った。


《待てばこちらが攻撃されるでしょう。唯一残された軍事施設です。破壊されるわけにはいきません》


 カイは心配になった。アランのことだから24時間体制で攻撃に備えているだろうが、急にしかも暗闇の中攻撃されたら混乱を招く場合もある。


《気になるのなら戦いの様子を見るか?衛星からの映像をモニターに映しましょう》


 アマヒの気遣いはやはり感覚が人とは違うとカイは思った。

 しかし、それを口実にサーバールームに居座り、多少なりともシステム修正の糸口を掴めればとカイは考えた。


「攻撃しに行くまであとどれくらい?それまでここにいても構わないのか?」


《7時間後に軍事施設から戦闘機を送り出す。それまでここにいても構いません。奥のソファベッドで休んでいても構いません。時間が来たら起こしてさしあげます》


「お言葉に甘えさせてもらうよ。そうだ、ジョージが待っているかもしれないから今日はここに泊まることを伝えて欲しい」

 

《承知しました》


 カイは少し可笑しくなった。アマヒの今の言葉敵に対する言葉じゃない。記憶を見せられていたときにマザーが尚子によく言っていたと思った。

 カイはずっとアマヒに何か違和感を感じていたが、今その違和感が何かわかった。

 アマヒと初めてエジプトで話したときは威圧感ある話し方をしていた。だが本当は丁寧な喋り方をするのだ。今日は少し混合している。

 カイはアマヒなりの女王を演じているのだと思うと、あの酔っ払いを演じていたマザーを思い出し、吹き出しそうになった。

 カイはアマヒが愛おしく感じた。システムの修正は尚子が月の者を憎んではいなかった、戻ったら迎入れようとしていたとだけ情報として入力できればいいと思った。

 入力するためにはパスワードが必要だろう。見せられた記憶の断片にはそれらしきことは出てこなかった。

 唯一瑛人がシステムの変更を加えた話が出ていた。当然瑛人はパスワードを知っていたわけだ。アマヒの言うように本当に祖先なら月のホームに何らかの資料が残されているかもしれないとカイは考えたが、今すぐ月には戻れない。

 カイはソファベッドに横になって眠ったふりをしながら部屋を見回して、ここのコンピューターに関する資料を置いていそうなところを探した。

 机の引き出し、ロッカー、本棚。アマヒが監視しているだろうから物色するのは難しい。


《カイ、起きてください》


 カイはいつの間にか眠っていたらしい。アマヒの声で目が覚めた。

 カイはモニターの近くに行き、側にあった椅子に腰掛けた。

 モニターには軍事施設から撮影されているだろう戦闘機が10機飛んで行くのが映っていた。

 見えなくなると衛星に切り替わったのだろう、上から戦闘機を追っている映像が映った。

 暗闇の中戦闘機のポジションライトが見える。

 1時間ほど飛行をするとポジションライトが消えた。

 小型宇宙船が戦闘機に近づいたのがわかった。

 戦闘機と小型宇宙船の攻防が始まった。

 カイは手に汗を握りしめながら瞬きをせずにモニターを見ていた。

 はじめに戦闘機にが1機墜落した。


「アマヒ、戦闘機には誰が乗っている?」


《ヒューマノイドです》


「…そうか…」


 カイは少しだけ気が楽になった。

 続いて3機の戦闘機が墜落。そしてまた3機戦闘機が墜落した。


「あっ!」


 小型宇宙船が1機ミサイルに当たった。カイは心臓が波打った。小型宇宙船は墜落したが、中から射出座席が飛び出したのが見えた。

 カイは無事に着陸できたか心配になった。

 残りの3機の戦闘機が墜落したと同時に小型宇宙船も2機ミサイルに当たって爆破した。

 爆発の衝撃で射出座席が飛び出したかどうかわからなかった。

 カイは手で顔を覆った。

 

「……誰だろう…誰が乗っていたんだ……誰でもいい…無事でいてくれ…」


《カイは優しいのですね。爆破した2機の小型宇宙船から脱出した乗組員を別の小型宇宙船が回収していました。怪我をしているようですが、死んではいません》


 アマヒの言葉を聞いてカイは大きく息を吐いた。

 カイは映像を見ているだけで心臓が止まる思いがした。絶対に戦争は起こしてないけないと思った。


「アマヒは今の映像を見ていて何も感じないのか?」


《何をどう感じるのですか?戦闘機と小型宇宙船が戦っているだけの映像です。戦闘機が全滅したことは戦闘能力の低下になるので今後の作戦を考え直さなければなりませんが》


 カイは聞くだけ無駄だったと自分を戒めた。


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