第二部 第五章 ③
カイは驚いて目を見開いた。
「カイ、久しぶりだな。元気にしていたか?」
ジョージは微笑みながら言った。
「ジョージ…本当にジョージなのか?信じられない……」
カイはエジプトでのジョージの負傷した姿を思い出していた。
「おいおい、俺は幽霊でも死体でもないぞ。まあ本物かと聞かれれば俺も答えにくい部分はあるがな」
カイは恐る恐るジョージの体に触れ、実体があることを確認すると涙を流しながらジョージに抱きついた。
「ジョージ……良かった…本当に良かった……」
ジョージもカイを抱きしめた。
「心配かけたな。詳しい話をするから中に入れてくれるか?」
カイは頷き、リビングに案内してソファに向かい合って座った。
ジョージはなぜ生きているのかカイに話した。
ジョージはエジプトにいるときに意識はなかった。気がついたらこの日本の地下都市の医療研究所にいた。後か聞いた話では応急手当てを受けた後、戦闘機でここに運ばれたらしい。ジョージの意識が戻ったときには、エジプトでの戦いからすでに半年以上経っていた。
「首から上はあまり損傷をしていなかったが、胴体手足は酷かったらしい。俺の体の半分はiPS細胞で蘇らせて本物だが、後の半分はサイボーグだ」
カイはなんと言っていいかわからなかった。
ジョージはそんなカイの顔を見て言った。
「そんな顔するな。また会えて俺は嬉しいよ」
カイは涙を堪えて頷いた。
「アマヒは敵でもあるが俺の命の恩人だ。こうしてカイにも合わせてもらえた」
「だが僕はアマヒに監禁されている。ジョージは自由なのか?」
カイが聞くとジョージは首を傾げながら答えた。
「俺は地下都市内なら自由だ。地上には行けない。カイもアマヒに忠誠を誓えば自由になれるよ」
カイはジョージに違和感をおぼえた。
「月の者は今地球への移住を求めて戦っている。僕は話し合いで共存できないかアマヒに交渉に来たんだ。戦争を回避するために。自分だけの自由は求めていない」
ジョージはまた首を傾げながら言った。
「俺も月の者を地球に移住させたい気持ちがあるが、時期早々だ。考えてみろ。地球を見捨てた者が自分たちの都合で移住させろだなんて勝手すぎると思わないか?いくら祖先の話だといっても、そのDNAを受け継いだ子孫だぞ。いつまた裏切るかわかったものじゃない」
カイはジョージへの違和感がなんなのか何となくわかった。
ジョージは正義感の強い人情味あふれる男だった。自分のことよりも人のために動ける人間だったのに、今のジョージからはそれを感じられない。
アマヒは記憶の操作もできるようだから、ジョージもアマヒに変えられたのかもしれないとカイは思った。
「なあ、カイ。俺たちで月の者を選別しないか?地球に害をなさない者、地球にために働ける者だけを地球に移住させるんだ」
ジョージは微笑みながら言ったが目は笑っていなかった。
「ジョージ、人間の選別なんて僕らにできるわけがないだろう?誰が良い人で誰が悪い人なんて、それは人の価値観や嗜好の違いに過ぎない。僕たちは神でも能力者でもないんだ」
カイが言うとジョージは反論した。
「じゃあ地球を見捨てて自分たちだけが助かろうとした人間は悪くないのか?地球に残った者に何も伝えずに逃げた人間は良い人なのか?」
ジョージはアマヒの考えに侵されているとカイは思った。
「それこそ価値観の違いだ。月に移住した者は地球を再生するための苦渋の選択だったのだろう。全員が月に行けるわけではない。残された者に小惑星衝突を伝えて死ぬまで恐怖の中を生きるか、直前まで知らないで穏やかに過ごすか、どう生きたいかは人それぞれ違うのではないか?」
「残された者は選別されて残されたわけだろう?俺たちが月の者を選別して何が悪い?」
ジョージは怒り気味で言った。
「ジョージ、あなたは月の者の子孫だ。生き残っていて悪かったと思っているのか?月に逃げた者がいるから今こうして地球を再生する力になれるのではないのか?誰が悪いとか良いとかそんなことどうでもいい!今やるべきことは何なのか冷静に考えよう、ジョージ」
カイが言うとジョージは頭を抱え込んだ。
アマヒが行った記憶の改ざんとジョージ本来の意識がせめぎ合っていた。
「……カイ……俺はどうすればいい…?」
ジョージは頭を抱え込んだまま言った。
カイは考えた。ジョージを信用してアマヒのメインシステムを修正するために協力してもらうか、ジョージはアマヒのしもべになっている可能性を考えて本当のことを言わず、利用してサーバールームに入れるようにもっていくか。
カイは後者を選んだ。
ジョージには悪いが、狡猾なアマヒにことだからジョージを盾に何を仕掛けてくるかわからない。カイがしようとしていることをアマヒに知られたら2度そのチャンスは与えられないだろう。
「ジョージ、僕と一緒に月の者が平和的に移住できるよう、アマヒの説得をして欲しい」
「……何度も言うがそれはできない。地球人の気持ちを考えると共存は難しい」
ジョージは苦悩めいた顔をして言った。
「共存を考えなくていい。今はただ月の者を地球に住まわせてくれるだけでいい。こんなに広い地球だ。顔を合わせなくても生活できる。僕たちの時代で共存できなくても何十年、何百年先にはきっと分かり合える時が来る。同じ人間なんだよ、月の者も地球人も」
カイは懇願するようにジョージに訴えた。
ジョージは困惑した顔をしていたが、何か吹っ切れたような顔をしてカイを見た。
「わかった。一緒にアマヒを説得しよう」
ジョージの言葉にカイは安堵した。
「ありがとう、ジョージ。早速だが、アマヒとゆっくり話がしたい。サーバールームに入れるだろうか?」
「サーバールームを知っているのか?」
ジョージは首を傾げながら聞いた。
カイはジョージが首を傾げながら聞く姿を以前は見かけなかった。今日は何度も傾げている。やはり元のようには治っていないのだろうとカイは不憫に感じた。
「アマヒに小惑星衝突後のこの地下都市での記憶を見せられた。アマヒのメインコンピューターはサーバールームにあるから、そこが1番話しやすいはずだ」
「…そうだな。アマヒはいつもサーバールームにいるらしいな。俺は本人を目の前にして話したことはないが、サーバールームに行けば会えるかもな」
「…え?」
カイは変だと思った。ジョージの言い方はまるでアマヒに実体があるような言い方だ。アマヒはコンピューターシステムではないのか。
「ジョージ、アマヒは何だと思っている?」
カイが質問するとジョージは困惑した顔をして首を傾げた。
「何って?質問の意図がよくわからないな?」
カイは言い直した。
「アマヒは人間なのか?」
「人間じゃなければ何なんだ?幽霊とでもいうのか?」
ジョージは笑いながら言った。
「いや、アマヒはコンピューターそのものだ。知らなかったのか?」
「何だって?まさか……あんなに流暢に話ができるコンピューターがあるのか?」
ジョージは片手を頭に置いて眉をひそめしばらく黙っていた。
「……俺はコンピューターに踊らされていたのか……?いや…そんなはずない…映像を通してしか会ったことないがあれは人間だった……」
ジョージは頭を抱え込んで俯いた。
「ジョージ、間違いないアマヒはコンピューターシステムなんだ。僕はアマヒに見せられた記憶の中でアマヒがこの地下都市を千年前から管理しているマザーと人間の女性が融合するのをこの目で見た」
カイはジョージの肩に手を置き言った。
「……カイを説得して月の者の選別をするように言ったのはアマヒだ。俺は…俺たち人間はアマヒに利用されていたのか……この地球を機械で埋め尽くすつもりなのか…」
ジョージはサイボーグの自分の身体を殴った。
「やめろ、ジョージ!アマヒはそんなつもりはない!本当に地球のことを思っているんだ。アマヒはただ、地球に置き去りにされて苦しんだ者の思いを受け継ごうとしているだけだ。だから俺たちでアマヒを説得しよう」
カイはジョージを抱えて言った。
ジョージはうなだれたまま頷いた。




