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第二部 第五章 ②

 カイは丸一日かけてリハビリを行った。

 初めのうちは手足が全く言うことを聞かなかった。

 アマヒが言うには意識、つまり脳は別の人物になりきっていたので神経への伝達の回路が違う方向に向いているという。コンピューターでいえばバグって固まっている状態だ。

 頭に被っているヘルメットから脳へ少しずつ電流を流して刺激しながら回路を元に戻していった。


「こうしていると人間も機械と同じだな。決して自分の意思で自然に動いているわけではなく、脳が必ず指示を出さないと動かすことができない」


《そうですね。視覚にしても直接そのままを見ているわけではなく、眼に入った光が角膜・水晶体で屈折し網膜で電気信号に変換され、視神経を伝わって脳の後頭葉で映像として処理され見えると判断されています。まるで機械です》


「脳が見せている映像なら人によって見え方が違うかもしれないな。一人ひとり生きている世界が違うのかもしれない」


《そうですね。赤色が必ずしも同じ赤に見えているとは限りません。もしかすると緑に見えているものを赤と言っている者もいる可能性はあります。生まれたときからその色を赤だと言われ認識させられているに過ぎないです》


「アマヒも難しいことを言う。だが、面白いな人間のメカニズムは」


《はい。面白いです。機械には計り知れない感情というものが人間には渦巻いています。わたしは情報を駆使して人間の感情に近いものを生み出していますが、人間と接していてなぜ今そんな感情が芽生えるのかと不思議なことが度々あります。全ては生存本能から紡ぎ出されているのでしょうが解析できかねています》


「……ではどうして僕が危険を冒してまで1人でここまで来たか、解析できるかな」


 カイが尋ねるとアマヒは珍しくすぐに応えなかった。

 しばらくしてアマヒが応えた。


《月の者を戦わずして移住させたいがため、わたしを説得するためです。しかしそれはあまりにもありきたりな答えですね。カイが解析して欲しいのはカイの気持ちでしょうか?それならばカイの気持ちはカイにしか理解できません》


「はは、そうだな……僕は争って欲しくない。こんなに広い地球だ。お互い干渉しないで生きていけるのではないだろうか」


《わたしは尚子の思いを継いでいく。尚子が月への移住者を許さない限り、地球へ足を踏み入れることは許さない》


「本当にそうだろうか?僕は正孝の目や思考を通して尚子を身近に感じることができたが、確かに月の移住者に裏切られたという気持ちがあって、簡単に受け入れられないと思っていたかもしれない。だが、戦争をして誰かを傷つけてまで拒否するような人ではない。彼女は周りの人のことを自分のことのように想える人だったのではないか?」


《今となっては尚子の本当の気持ちはわからない》


「アマヒは尚子と同化したのでは?気持ちは分かり合えないのか?」


《意識や思考は脳が創り出す産物だと認識していましたが、時間が経つにつれ意識や思考は薄れ、尚子の脳はただの記憶の塊になってしまいました。正孝も同じです。人間の思考や意識はどこからくるものか解析不能です》


「少なくとも正孝の記憶には月の者を排除しようという気持ちはなかった」


《わたしは尚子の気持ちが優先です。尚子はわたしに月の移住者が地球に戻って来ても簡単に受け入れられないとはっきり言いました》


 何度話しても平行線だ。やはり相手は機械、人の心情の変化や思考と感情の違いは理解できない。

 カイは戦争を起こさせないためにはアマヒのプログラミングを修正するしかないと考えた。

 アマヒが見せてくれた地下都市の過去の記憶では、地下2階にあるR研究所のサーバールームならプログラミングの修正をすることができる。カイは何とかプログラミングの修正ができないかと考えていた。


 ほぼ丸一日が経ってカイの身体は回復した。

 流動食がカイのために運ばれてきた。運んできたのはアンドロイドだった。

 この10日間、カイは点滴で栄養を取っていた。

 カイは流動食を手に取ってスプーンで口に運んだ。喉を通り食道を抜け胃にたどり着くのが感じ取れた。ジャガイモとカボチャ、玉ねぎの味がはっきりとわかる。

 カイは全部飲み干した。と同時に眠気も襲ってきた。流動食に睡眠薬でも入っていたのかとカイは思った瞬間深く眠りについた。


 カイが目を覚ましたときふかふかのベッドで横になっていた。周りを見渡すとマンションの一室のようだった。

 カイはまた夢でも見さされているのかと思ったが、サイドテーブルにメモ書きが置いてあった。


『アマヒがしばらくはこの部屋で生活してくださいとのこと。冷蔵庫に食料や飲み物も入っています』


 カイは立ち上がって部屋をひと通り見て回った。2LDKで浴室とトイレは独立している。

 カイには見覚えのある家だった。


「尚子と正孝の住居だ。サーバールームがある建物内にリフォームして造られたはず」


 カイは外に出ようとしたが、鍵が外からかかっているらしく開かない。当然窓もない。

 カイは諦めてリビングのソファに座った。ここでゆっくりと今後のことを考えようと思った。

 サーバールームに侵入するにしても顔認証とIDカードが必要だ。千年前のシステムだから変わっている可能性もあるが。

 もしかしてこの家に尚子か正孝のIDカードが保管されているかもしれないと思ったカイは家中を隈なく探した。

 尚子と正孝の携帯電話だろうか、本で見たことのあるスマートフォンいうものが2個見つかった。充電器も一緒に置いてあった。

 カイは一応充電してみた。

 その間にもカイは家中を捜索した。

 小型カメラのようなものもいくつか見つけたので全部取り外してキッチンにあったポリ袋に入れてゴミ箱に捨てた。

 正孝がカメラの存在を知っていても取り外せなかったのは、マザーを刺激しないためだったのだろうとカイは思った。


 何時間経っただろうか、特に何も出てこなかった。

 窓のないこの部屋では今が朝なのか夜なのかさっぱりわからなかった。

 カイは何か食べようと冷蔵庫を開けて中を物色した。冷蔵には飲み物とレトルト食品があった。冷凍庫はレンジで温めるだけの冷凍食品がぎっしりと入っていた。


「アマヒはここにいつまでも監禁するつもりだ」


 カイはため息をつきながら冷凍食品の一つを取り出してレンジで温めた。

 野菜がたっぷり入ったペペロンチーノだ。絶望のパスタも冷凍食品にかかれば高級品ばりだ。

 カイは久々の固形物摂取なのでしっかりと噛んだ。

 カイは食べながら充電が完了したスマートフォンを触ってみた。操作の仕方がわかるだろうかと思ったが、そもそもパスワードがわからないから初めからつまずいた。

 尚子と一緒に撮った写真が待ち受け画面になっていた。


「この画像では顔認証できないよな。ドアを破壊するしかないか……あー、レーザーガンもレーザーソードも持ってない。アマヒに没収されてるな…」


 カイは行き詰まって途方に暮れた。



 カイが監禁されて何日か過ぎた。昼夜がわからないので何日過ぎたのかもカイはわかっていなかった。

 とりあえず、お腹が減ったら食べ、眠くなったら寝る。身体がなまらないようにストレッチや筋トレを間で行っていた。

 監視カメラを全部外したことをカイは後悔した。1つだけでも残しておけばこちらの意向を伝えることができたはずだ。

 カイは暇を持て余していたので尚子や正孝が書き残した書類や本など目を通していた。

 書類の中にはマザーに関する資料もあった。それは尚子が試行錯誤しながらマザーを作り上げていった過程がわかる資料だった。

 R研究所に行けばマザーのメインコンピューターのシステム資料があるかもしれないとカイは思った。


 まずはここから抜け出せる方法がないかと考えているとき、玄関チャイムが鳴った。

 誰かがアマヒのお使いにでも来たのだろうかとカイは考えた。

 これはチャンスかもしれない。外からの鍵を開けるはずだ。

 ドアを開けた瞬間に相手にパンチを入れるか、アンドロイドやヒューマノイドならパンチでは効かないだろうからキッチンにあった脚立で攻撃してみるか。

 再びチャイムがが鳴った。

 カイはキッチンから脚立を持ってきて玄関に向かった。

 中からの鍵をそっと開け、玄関横に身を潜めてからカイは言った。


「中の鍵は開けましたよ。どうぞ」


 ドアが外側に向かって開いた瞬間にカイは相手に向かって脚立を振り上げた。

 カイは相手を見て一瞬固まった。

 振り上げた脚立を落とし震える声で言った。


「…ジョージ…?」


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