第二部 第四章 ②
ドームを占領するための準備が整った。
指揮官アラン率いる先発隊は副指揮のサラを含めて50名。この1年戦闘訓練を受けてきた精鋭部隊だ。
オリバーをはじめ地球に一度降り立ったことがある者は全員隊員の中にいた。
待機用の大型宇宙船にレーザー砲が装備され、戦闘機用に改造された小型宇宙船10機が搭載された。
隊員1人ひとり、拳銃ぐらいなら弾をはじく防弾スーツと帽子を着用し、レーザーガンとレーザーソードを身につけていた。
大型宇宙船はルクススペスの住人の期待の中、大勢に見送られて月を出発した。
大型宇宙船はカナダ上空の大気圏外につくと夜になるのを待ち、まず偵察隊のサラ、オリバー、ドユンが小型宇宙船に乗り込み大気圏を抜け、ドームを目指した。
サラは1年前にカイと行動したようにドームの屋根の周りに1人で降り、兄のレックスが教えてくれた通路を通って中に入った。
周りに注意を払いながらホテルロビーまで移動し、エレベーターに乗って5階で降り、サラは兄夫婦の部屋を訪ねた。
1年ぶりの再会に三人は抱き合って喜んだ。
サラは兄夫婦にドームを占領をして、ここを拠点に地球への移住計画が実行されることを話した。
「そうか……そうだよな。戦争はして欲しくないが、月の住民の悲願だものな。ここにいる者は月の者が移住できるようにと先立って来た開拓者だからな。できることは協力する」
レックスは少し戸惑いを見せたが全面的に協力するつもりだ。しかしアイラは様子が違っていた。
「……どんな理由があってもわたしは戦争は反対。わたしたちの祖先がいくら地球人だと言っても地球人から見たらわたしたちは月の人間よ。いくらこっちが正当な理由を並べ立てようが、地球人からしたら正当性のない侵略だわ」
アイラの言葉にサラはカイの言葉を思い出した。カイもアイラと同じ考えだ。サラもわからなくはないが、このままだといつまで経っても地球移住への道が開けない。
「アイラの言うことはもっともだと思う。でもこのままだといつまで経っても地球への移住は実現できないわ。エミリはどうするの?会えない間に彼女はどんどん大きくなるし、エミリがどれだけ親を恋しがっているか……このままだと一生会えないかもしれないじゃない。今ここの住人は不自由があまりなくて快適だと思っているかもしれないけど、捕虜なのよ」
サラは気持ちをぶつけるように言った。
アイラはエミリのことを思い涙を流した。レックスはアイラを優しく抱きしめて背中をポンポンと叩いた。
「サラ、アイラは大丈夫だ。お前たちの計画通り進めてくれ。そのための協力は惜しまない。必要があればここの住人にも協力を仰ぐよ」
レックスがサラに決意を固めたように言った。
「ありがとう、兄さん。アイラもお願いね」
サラが言うとアイラは黙って頷いた。
サラはレックスとアイラに占領のための詳細を話した。
まずはドームにサラと同じルートで10人侵入し、前回来たとき聞いた中にいる兵士5人を全員捕らえてドーム自体を外から入れないように閉鎖する。
外からの攻撃に備えて小型宇宙船をドーム内に1機、外に3機、屋根周りに20名の隊員で攻撃態勢で監視をする。
決行は明後日の夜明け前。その日は誰も部屋から出ないように通達して欲しいとサラはレックスに頼んだ。
サラは兵士がどこで寝泊まりしているのかを聞いた。
ドームの正面入り口に24時間態勢で2人交代しながらいる。後の3人は日中はスタジアムで監視しているが、夜はどこにいるかわからないとの答えだった。
「じゃ、明後日の明け方にまた来る。よろしくお願いします」
サラはレックスとアイラに真剣な眼差しを向けて言った。
「気をつけて。成功を祈っている」
レックスが言うとサラは頷いて部屋を出た。
サラは来た通路を通って屋根の外に出て、近くで待機していたオリバーに連絡を取った。
しばらくして小型宇宙船が来てサラは乗り込み、大気圏外で待機している大型宇宙船に戻った。
次の日サラの情報を元にドームでの細かい作戦を練った。
サラの案内で10人ドーム内に侵入し、まず正面入り口にいる見張りの兵士を捕らえる。実行者は5人。後の5人はホテルの入り口前に机や棚が置かれていたのでそこで身を隠して待機する。
見張りの兵士を捕えるとき、なるべく大騒ぎになるように仕向ける。残りの兵士3人をおびき寄せるためだ。
残りの兵士はどこから来るかわからないから、待機中の者はよく周りに注意をはらい、兵士が出て来たら不意をついて攻撃して捕える。
ここまでできたら、ドーム内は占領成功だ。
後は外からどれだけの兵士や武装車両がやって来るかはわからないが、屋根周りにいる隊員のレーザーガンと小型宇宙船のレーザー砲で応戦する。
空からの地球の戦闘機に備えて、残りの5機の小型宇宙船は大気圏に近い上空で待機して、戦闘機が現れたら攻撃をする。
誰がどの役割を果たすか決め、ホログラム上で何度もシミュレーションを繰り返して明日に備えた。
夜が明ける前に実行するので隊員たちは午後から睡眠をとるために大型宇宙船内の仮眠ベッドで眠った。
アランとサラが、ドーム全面占領後の大まかな作戦を話し合っているとオリバーがやって来た。
「どうしたオリバー、眠れないのか?」
アランが聞くとオリバーは頷いた。
「ああ、いよいよ明日かと思うと気分が高揚して眠れなくってな」
「そうか……じゃあ、ドーム全面占領後の動きを一緒に考えてくれるか?」
アランが言うとサラも頷いて言った。
「ドームを拠点に土地の開発を進めなければならないんだけど、どの範囲まで広げていいのか、敵がまた攻め込んで来たときに攻防できる範囲がどこまでか、攻防するための配置とか考えていたの」
オリバーは広げている地図を見ながら頭を捻った。
「悪い、俺はこういうのは苦手だわ。カイがいればいい案が出るんだろうけどな」
「まあ、そうだな。あいつはこんな風にちょっと考え込んでからサササッと提案して来るだろうな」
アランはカイの真似をしながら言った。
「そういえばカイはどうしてるんだ?」
カイが単独日本に行くことは要人たちに知られないように本部長とアランとサラしか知らなかった。
アランとサラは顔を見合わせた。
「言ってもいいんじゃない?ここなら要人に知られることはないでしょうから」
サラが言うとアランは少し考えてから頷いた。
カイは単独で日本へアマヒを探しに行くこと、要人たちの許可を得ていないので内緒にしていることをオリバーに話した。
「日本って…1年前スイスのジュネーブに行ったときにカイが見つけた通信機のJapanの文字か?あれで本当に日本に行くつもりなのか?」
オリバーは驚いた。
「この1年カイなりに色々調べて、日本に地下都市があることを見つけたんだよ。地上では生存できなくても地下なら生存者がいてもおかしくない」
アランはカイから聞いた話をした。
「それで、カイはもう日本に向かったのか?」
「わたしたちのドーム占領成功の報告を受けてから立つそうよ。アマヒの気がこっちに逸れている方が動きやすいからって」
オリバーの質問にサラが答えた。
「そうなのか……複雑な気分だな。単独なんて危険だから行って欲しくないが、こっちが成功すれば出発するだなんて……」
オリバーは視線を下に向けて下唇を噛んだ。
「カイは戦いに行くわけじゃない。アマヒに交渉に行くんだ。大きな戦争が起きないようにな。お互い戦争は起こしたくないだろう」
アランはオリバーの肩を叩いて微笑んだ。
「アマヒがどこまで譲歩してくれるかよね。無駄な殺しはしない人だからその点では少し安心しているわ」
サラもオリバーが少しでも安心できるように言った。
「とにかく我々は明日の作戦を成功させることだけを今は考えよう。さあ、もう明日に備えて寝るぞ」
アランはそう言ってサラとオリバーの背中を押した。




