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第二部 第四章 ①

 カイたちがスイスのジュネーブから月に戻って1年が経った。


 ジュネーブでのアマヒとの話は決裂したので、地球帰還対策本部長はカイに宣言した通りカナダのドームを占領し、そこを拠点にした地球への移住計画を進めていた。


 カイは日本にいるであろうアマヒと再び話し合いをするためにこの1年、日本に関するあらゆる本を読み、東京の地下都市の存在にたどり着いた。

 地下都市は地球に小惑星が衝突する50年ぐらい前に完成して多くの産業や企業、商業施設や農業施設、研究所や学校などあるらしい。もちろん住居区域も存在している。

 カイは地下都市で多くの人が命を繋げて存在しているに違いないと思った。

 きっとアマヒもそこにいるのだろう。

 カイは単独日本に行く決意を固め、本部長に掛け合うために地球帰還対策本部に出向いた。



 地球帰還対策本部はいつになく慌ただしかった。

 カイはバタバタと動き回る職員らを横目で見ながら本部長室のドアをノックした。


「どうぞ」


 中から本部長の声がした。


「失礼します」


 カイが部屋の中に入ると本部長は地図らしきものを広げて数人の要人と何やら対策を立てていた。


「おお、カイ。久しぶりだな」


 本部長がカイを見て嬉しそうに言った。


「お忙しいようなら出直します」


 カイは要人の方を見ながら言った。


「少しの時間なら構わんよ。人に聞かれたくない話か?」


 本部長も要人の方を見ながら言った。


「…できれば」


 カイが言うと本部長は壁掛け時計を見た。


「この後会議があるから夕方からならゆっくり聞けるが?」


「それで構いません。では夕方6時でいいですか?」


 カイは腕時計を見ながら言った。


「ああ、じゃあ6時に待っている」


 本部長が言うと、カイは頷き、本部長と要人に頭を下げて本部長室を出た。

 カイが地球帰還対策本部の玄関を出たところでアランに会った。


「よう、カイ。久しぶりだな。いつぶりだっけ?」


 カイは少し考えてから言った。


「……1ヶ月前に飲みに行ってから会ってないな」


「1ヶ月?もうそんなに経つのか。相変わらず日本のことを調べているのか?」


「ああ、アマヒの居どころの目処がついた」


「本当か⁈」


 アランはカイにその話を聞きたいからお茶でも飲みに行こうと誘った。

 2人は地球帰還対策本部の中にある喫茶室に行った。


 カイはドリンクサーバーからコーヒーを注ぎながら聞いた。


「アランは何か用があってここにきたんじゃないのか?」


「俺は本部長に用があってきたんだが、特に約束をしていたわけじゃないからな」


 アランもサーバーからコーヒーを注ぎながら言った。


「本部長は今から会議があって、夕方僕と会う約束をしている」


「そうなのか?それ俺も同席してかまわないか?」


「ああ、構わない」


 二人は椅子に座り、コーヒーを飲んだ。


「それで?アマヒの居どころの目処が立ったんだろ?どこにいるんだ?」


 アランは身を乗り出して聞いた。


「日本の首都だった東京の地下に小惑星衝突以前に都市が建設されていた」


「地下都市か?」


 アランは興味深々の顔で聞いた。


「地球は小惑星の衝突と月が離れたことで自転が速くなり、おそらく地上では生きていけなかったと思う。地球で探索したとき、動物を全く見かけなかっただろう?」


 アランは頷いた。

 カイはこれまで地球のことや日本のことを調べてわかったことをアランに話し、地下都市のことが書かれていた本の内容を話した。


「つまり生存率は高いわけだな。月との生活とほぼ変わらないわけだから」


 アランは空になったカップを指で弾きながら言った。

 カイは頷きながら言った。


「調べた結果、防災用の地下室はどの国のどの家庭も当たり前のように造られていたらしいが、一千年も持つとは思えない。食糧も尽きるだろうし、家族だけの生活しかできないなら子孫は生まれていないだろう」


「日本の地下都市なら可能なわけだ。それでアマヒがそこにいると?」


 カイは頷いた。


「そこでしか生きていけなかったはずだから。居住者数は約1万人で地下都市に勤めに行っている者が約5万人いたそうだ。月に移住した者の10倍以上だ。ルクススペスよりかなり規模が大きいと思う」


 月の移住者でさえ5千人が50万人になったのだから、日本の地下都市には相当な人間が住んでいるだろうと二人は思った。


「その地下都市探しにいくのか?」


 アランがワクワクするような声で聞いた。


「アマヒと話し合いをするためだから当然探しに行く」


 カイは真剣な目でアランを見ながら言った。


「俺も混ぜてくれ。地下都市を見てみたい。本当は今日本部長に地球のドーム占領指揮官の返事をする予定だったが、予定変更だ」


 アランは目をキラキラ輝かせて言った。


「それは本部長に聞かないと。元々僕1人のつもりだった。本部長から許可が降りるかどうかもわからないからな」


 カイはため息混じりで最後の一口のコーヒーを飲んだ。


「夕方の話がそれなのか?俺も一緒に頼んでみるよ」


「ありがとう、心強い味方だ」


 カイが微笑むとアランはウインクして親指を立てた。


 午後6時になりカイとアランは本部長室を訪ねた。


「なんだ、アランも一緒か?」


 本部長が2人揃ってなんの話があるのかというような顔で言った。


「俺はカイの付き添いでーす、っていうのは冗談ですけど、俺も本部長に話があって来ました」


「ああ、どっちの話から聞こうか?」


 本部長がカイを見ながら言った。


「僕の話は長くなりそうなのでアランからで」


 カイが言うとアランがカイに向かってニヤリとしてから本部長の方を向いた。


「本部長、前から打診があった地球のドーム占領指揮官の話ですが、長いこと返事を先延ばしにしてすみません。この話、お断りします」


「なんだって⁈……それは……うーん……強制したくはないが、カイもアランもいないとなると……困った」


 本部長は本当に困った様子だった。


「その代わりと言ってはなんですが、安心して地球移住ができるように俺も努力する所存です。つきましてはカイと一緒にアマヒに会いに行こうと思います」


 アランはわざと姿勢を伸ばして丁寧な物言いをした。


「なんだって⁈」


 本部長は椅子から立ち上がり机に両手をついた。


「詳しくはカイからどうぞ」


 アランはカイの背中を押し、本部長の前に立たせた。カイはアランを怪訝そうな顔で見た。


「どういうことだ、カイ」


 本部長に聞かれてカイはこれまで調べたことや、そこからアマヒがいそうな場所を割り出した事を話した。


「ふむ……まあ、話を聞いただけでは本当に日本の地下都市にいるかはっきりとは言えないようだが……それでカイは地下都市を調べたいのか?」


「はい」


 カイが答えるとアランも手を上げて言った。


「俺も一緒に行きますから」


 本部長はしばらく黙って考え込んだ。


「言ってもいいが条件がある」


 本部長は少し険しい顔つきで言った。


「アランがドーム占領指揮官になるならカイは1人で日本に行かせてもいい」


「本部長!そんな交換条件……」


 カイが言いかけてアランが止めた。


「カイ、もともと指揮官の話受けるつもりだったんだ。俺の心配はいらない。カイはカイの思うように動け」


 アランはじっとカイを見つめた。カイは頷いた。


「わかりました、指揮官やります。カイの日本行きはOKということでいいですね?」


 アランは本部長に詰め寄って言った。


「ああ、了承した。カイ、計画書は提出するように」


 本部長が言うとカイは頭を下げた。アランはカイの頭を掻き回して言った。


「良かったな、カイ。でも1人だから気をつけるんだぞ」


「ありがとう、アラン。本当に心強い味方だ」


 カイはアランの胸を拳で軽く叩いた。



 家に戻るとカイは早速日本に行くための準備を始めた。

 計画書はほぼできていた。後は実行する日を打ち込むだけだ。

 実行はドームを占領した後と決めていた。きっとそっちに気が入ってまさか日本に月の者が現れるとは思わないだろうと考えたからだ。実行日は“ドーム占領日”と打ち込んだ。

 カイは地球対策本部に借りるものを打ち出し計画書に添付して、本部長のパソコン宛に送信した。


 カイが私物で持っていく物をカバンに詰め込んでいると、パソコンの着信音が鳴った。パソコンの前に座り画面を見るとサラからの通話の許可を求めるタブが表示されていた。

 カイはタブを開いて許可をクイックした。


「はい、サラ。どうした?」


「カイ、久しぶりね。ちょっと文句を言おうと思って」


「いきなり?」


 カイはサラに文句を言われる覚えなどないと思った。


「日本に1人で行くんですって?アランから聞いたわ、酷いじゃない黙っていたなんて」


「アランにも今日話したばかりなのに、もう知ったのか?」


「アランが地球ドーム占領の指揮官になったからって報告してきたの。わたしが副指揮だから。そのとき聞いたのよ。1人で大丈夫なの?」


「心配してくれてありがとう。大丈夫かどうかは行ってみないとわからないが、1人の方が動き易いから」


「そう……いつ立つの?」


「サラたちがドームを占領したらすぐ立つよ」


「そうなの?じゃあ頑張って早く占領するわ。気をつけてね」


「ああ、頼んだよ」


 カイは通話を切った後、サラも気をつけろつぶやいた。

 本格的な戦争になる前に何としてでもアマヒと交渉をしなければとカイは決意した。


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