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第二部 第三章 ③

 小惑星が地球に落ちて50年が経った。

 地下都市は閑散としていた。

 人口は今や半分以下に減っていた。将来に希望が持てないという理由でこどもを授かろうとしない夫婦がほとんどだったし、結婚すら無意味だと感じる者が増えた。

 新しく起こした企業も店も今は両手で数えられるぐらいしかない。

 農場も細々とやっているだけだ。家畜もほったらかしで野生化寸前だった。

 建物も多くが劣化して使用できない状態だった。

 今はまた地下貯蔵庫の配給品に頼る生活に戻っていた。

 地下3階の工場は全て閉鎖されていた。

 ARR工場も製造は止まっていたが、作業員は大勢残っているようだった。

 各研究所もほとんど人がいなくなり、年配の者たちが居座っていると言ってもいい状況だった。


 R 研究所も例外ではなかった。

 研究員は減り、こなさなければならない仕事も研究もなく、みんな好きな研究をしているだけだ。

 尚子は今年85歳でとうに一線から退いていたが、マザーの管理だけは任されていた。マザーが絶対的に言うことを聞くのは尚子だけだったからだ。


 正孝はこの20年、マザーが暴走をしなかったことに安堵していた。尚子がいたからだ。しかし、尚子ももういい歳だ。いついなくなるかわからない。尚子がいなくなったらマザーはどうなるだろう、それが1番気がかりだった。


 ある日、尚子が寝込んでしまった。いつもなら1日あれば回復するのにもう1週間起き上がれないでいる。この地下都市にもう免許を持っている医師はいなかった。

 正孝は付きっきりで看病した。

 

 尚子が寝込んで10日目、正孝のパソコンにマザーからメッセージが入った。


《時間が空いたらARR工場に来てください》


 正孝は気になったので、湊に連絡を入れ尚子のことを頼み、すぐにARR工場に向かった。

 

 ARR工場の門はすでに開いていた。20年前と同じ制御室に行った。


《早速お越しいただいてありがとうございます》


「マザー、何のようかな?尚子が気になるから手短に頼むよ」


《はい、では手短に。ここにはアンドロイドロボットを作る工場があります。モニターに映っている作業員は全てアンドロイドです》


 正孝は驚いた。動きは本当の人間より少しぎこちないがこんなにも精巧に作られているロボットがいるとは。


《アンドロイドが他の機械も作っています》


「他の機械?」


《はい。以前お見せしたカメラや人口衛生や開拓に使う道具や機械、自動車などです》


「地上に出れたときのための物か?」


《月の移住者が戻ってきたときに荒れ果てた地球の開拓をさせるために作られていました。今は戦闘用に改造したアンドロイドも作っています》


 正孝は再び驚いた。戦闘用にとはどういうことだ。


「なぜ戦闘用を?」


《尚子のためです。尚子はいつも言っていました。地球を見捨てた者に地球を渡したくないと。月の移住者が地球に戻ってきても受け入れないようにするための戦闘用です》


 正孝は顔を歪めて目を閉じた。

 高槻主任が尚子にマザーを任せたのは尚子が悪意ない人間だからだ。

 だが、裏切られて残された者や地球を想う悪意ないその気持ちが、こんな形に変わってしまうとは。


「マザー、尚子は戦ってまで月の移住者を受け入れないと思っていないよ。ただ残った者たちを騙して行ったことが許せないだけなんだ」


《正孝は反対すると予測していました。だからここに呼んだのです》


 アンドロイドが数体制御室に入って来た。


「何をするつもりだ⁈」


 アンドロイドは正孝の両腕を2体で掴んで別の部屋に連れて行った。

 その部屋はR研究所のサイバールームより広く、大型コンピューターが壁一面に並んでいた。

 部屋の真ん中には手術台のようなものがあり、正孝はその台の上に寝かされて手足を鉄の輪っかで固定された。


「マザー、僕をどうするつもりだ!」


 正孝の頭にコードがたくさん繋がったヘルメットが装着された。


《尚子の望みをかなえるために、正孝を半永久的にします》


「どういうことだ⁈マザー、やめろ、やめてくれっっ!」


 ヘルメットに電流が流れた。正孝は気絶した。



 正孝が気がついたときには尚子が手術台に寝かされていた。尚子の頭には例のコードがいっぱい付いたヘルメットが被らされていた。

 正孝は自分自身の異変に気づいた。

 水槽の中から尚子を見ていたのだ。意識はあって目も見えている。しかし、身体は動かない。水の中でただ浮いている感じがするだけだ。


(マザー、尚子に何をするつもりだ!)


 どうやら声も出ていないらしい。


《このままだと尚子の意識は消えてしまいます。月の移住者が戻って来るそのときまで尚子には生きてもらうのです、月の移住者に対抗してもらうために。尚子1人では可哀想なので尚子が愛した正孝も一緒に》


(どうやって生きながらえさせるんだ⁈人間の身体はいつまでも持たないことをマザーは知っているだろう⁈)


《尚子の意識をわたしと同化させます。肉体はありません。正孝はそのまま水槽で過ごしてください》


 声は出ていないが正孝の考えていることがマザーにはわかるようだ。おそらく水槽がマザーに繋がっているのだろう。


(同化とはどういうことだ?)


《わたしと尚子はひとつになるのです。尚子の脳をわたしのメインシステムと繋ぎます》


(脳を取り出すのか⁈)


《尚子の肉体はもう美しくありません。肉体がなくてもいつでも若くて美しい姿で投影できます》


(尚子はまだ生きているんじゃないのか!)


《正孝、あなたはそこで百年眠っていました。もちろん尚子も。この百年の間に人間は希望を失い生きる気力も削がれ、多くのものが自らの命を断ちました。わたしは残っている若い人間をコールドスリープさせてきました。もうこの地下都市には人間は誰も生活していないのです》


 正孝はショックを受けた。まさかあれから100年も経っているだなんて、しかも誰も住んでいないとは。

 尚子の解体が始まろうとしていた。執刀はアンドロイドらしい。マザーの指示を正確に実行するのだろう。


 正孝は必死で叫んだ。


(やめろーーっ!!)





「やめろーーっ!!」


 カイは大声で叫び目を覚ました。

 夢でも見ていたのかと少し安堵したが、カイは自分の状況に驚いた。

 今さっき夢の中で尚子が乗せられていた手術台の上に自分が乗せられているではないか。

 頭にはコードのついたヘルメットを被せられ、手足は鉄の輪っかで固定されている。


「どういうことだ……」


 カイは今の状況も夢なのかもしれないと思った。だが、全く知らない地下都市の夢を見るはずがない。

 ヘルメットに電流が流れた。

 カイは再び夢の中に引きずり込まれた。




 マザーと尚子は無事に同化した。新たに誕生したAIに“アマヒ”と名付けた。天野尚子(あまのひさこ)から取った名前だ。


 アマヒはまず、地球上に人類が生存しているかどうか探索を始めた。

 小惑星衝突で巻き起こった粉塵や灰はほぼ収まっていた。地球の回転が速まったことによる天変地異は当然続いていた。

 アマヒは地球に人類がいるか探索することから始めた。

 まず作っていた人工衛星を打ち上げた。

 それからアンドロイドたちを地上に送り、使えそうな自動車や飛行機、その他乗り物を探させ、動けるように修繕した。

 修繕が終わるとその乗り物を使って、世界中に探しに行った。

 打ち上げた人工衛星で連絡を取り合った。


 何十年という月日をかけて調べたが、世界各国、地下都市や地下避難所を建設していたようだが、どこも朽ちていて人間はいなかった。

 ただコールドスリープしている人間は世界の何ヶ所の国に保存されていた。保存状態が悪い国もいくつかあった。


 それから何百年経ったか、アマヒは月が地球に向かって来るのに気づいた。

 そのときに備えて、まだ使えそうなエジプトのピラミッドの地下とスイスの素粒子研究所、カナダのスタジアムを基地としてアンドロイドに修繕させ待機させた。

 

 そして小惑星が地球に衝突してから約千年後の西暦3200年、月が地球の衛星に戻った。

 地球の自転がゆっくりと元の速さに戻っていく。暴風が止み、波が落ち着きはじめた。

 アマヒはアンドロイドを使って各国のコールドスリープされていた人間を目覚めさせ、日本に連れて来て全員に記憶の操作を行った。



 カイはそこで再び目を覚ました。


《気がつきましたか?いかがでしたか?地球に残された者の記憶の断片は?》


「マザー……いやアマヒ……」


 カイはどうしてここにいるのか、混乱している頭の中を整理しなければと思った。


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