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第二部 第二章 ②

 尚子と正孝は男子高校生が1人で暮らしているらしいマンションに行った。

 男子高校生の名前は佐藤湊と言った。

 マンションの玄関で部屋番号を入力してチャイムを鳴らすと「はい」と言う返事があった。


「わたしたちはR研究所の者で、この地下都市で18歳以下のお子様だけで暮らしているお宅の様子を伺っています。何か困ったことはありませんか?」


 尚子がインターホンに向かって話すと、しばらくしてオートロックのドアが開いた。

 尚子と正孝は部屋の前まで行き、チャイムを鳴らすとすぐにドアが開いた。

 湊は顔色も良く身なりも整っていたので尚子はホッとした。


「配給には行かれてますか?」


「…はい。隣のおばさんが教えてくれて、一緒に取りに行っています」


 湊は小声だがはっきりと答えた。


「何か困ったことはありませんか?」


「…今のところは特に……いつまでこんな生活が続きますか?」


 尚子は返答に困った。嘘は言いたくないが、本当のことを言えば生きる気力を失わないだろうか。


「悪いがそれは僕たちにもわからない。首相のメッセージは聞いた?数年から数十年と言っていただろう?それまでは頑張って生き抜くしかない」


 正孝が言うと湊は俯いて肩を震わせた。


「……僕は受験生だったんです……東大目指して地上の有名高校に入り……頑張っていたんです……でももう…それも無駄だったということ…ですよ…ね……」


 玄関の土間に涙がポタポタと落ちた。

 尚子は目頭が熱くなった。涙を流すのはわたしじゃないと必死で堪えた。

 正孝が湊の肩を抱いた。


「まだ無駄じゃない。頑張ったことを無駄にするのは全てを諦めたときだけだ。自分の思うようにならなくても違う目標を持てばいい。R研究所は人材不足だ。君にやる気があるならいつでも歓迎するよ」


 正孝の言葉に湊は黙って頷いた。


「困ったことがあったらいつでも相談に乗るから連絡して欲しい」


 正孝はじぶんの名刺を渡しながら言った。


「ありがとうございます。お願いします」


 湊は涙を拭いながら名刺を受け取った。

 尚子は正孝を呼んで良かったとつくづく感じた。


 2人は次の家に向かった。

 次の家は女子中学生と男子高校生の2人暮らしのようだ。

 尚子はマンションの入り口で部屋番号を入力してチャイムを鳴らしたが返答がない。何度か鳴らしたが同じだった。

 尚子は中で倒れていないだろうかと心配になった。

 そのときマンションに女性が入って来て指認証でドアを開けた。

 尚子はその女性に声をかけた。


「すみません。わたしR研究所の天野と申します。308号室の竹田さんをご存知ですか?」


 女性は少し怪訝そうな顔をしたが答えてくれた。


「ええ、知っています」


「その…ご両親はいらっしゃらなくてこどもだけで暮らしていると思うのですが…」


 女性は益々怪訝そうな顔つきになった。


「僕たちはこどもだけで暮らしているお宅で困ったことがないか警察と手分けして訪問しているんです」


 正孝が言うと、警察というワードが出てきたためか女性は顔を緩めた。


「竹田さんちのお子さんたちはこのマンションに住んでいるおじいちゃんの家でいるわ。いっぺんに両親を亡くして可哀想に、おじいちゃんが同じマンションに住んでいたことが不幸中の幸いね」


「そうですか。よくわかりました。ありがとうございました」


 尚子たちは礼を言ってマンションを出ようとすると、女性に祖父宅を訪ねなくてもいいのかと聞かれた。尚子は大人に保護されているならかまいませんと答えてマンションを出た。


 次の家のこどもは女子高校生だ。

 尚子たちはが向かっていると尚子のスマホが振動した。成美からだ。

 尚子は時間を見た。10時を過ぎていた。尚子は慌てて通話ボタンを押した。


「尚子?どこでいるの?大丈夫なの?」


 成美が慌てているような声で言った。


「ごめん、成美。今朝早く問題が起きて、今1階の住宅区域にいる。詳しい話は帰ってからするね。鈴木君も一緒だから」


「大丈夫なのね?」


「うん、大丈夫。心配かけてごめんね」


「わかった。みんなにもそう伝えとくね。じゃあ、気をつけて」


 尚子はありがとうと言って通話を切った。


「林先輩からですか?」


「そう。朝早く出たものだからうっかり連絡するのを忘れていたわ」


 2人は女子高校生のマンションに着いた。部屋番号を入れるとすぐに返事があった。尚子は自己紹介をして様子を伺うと上がって来るように言われ、オートロックのドアが開いた。

 2人はエレベーターに乗り、5階で降りて部屋の前まで行った。チャイムを鳴らすとしばらくしてドアが開いた。

 女子高校生の名前は川上真奈美。痩せこけて、顔色が悪かった。


「はは、人間を見るのは何日ぶりだろう」


 真奈美はそう言って2人を中に入れた。

 家の中は荒れていた。


「配給は受けとっていますか?」


 尚子はゴミを拾いながら聞いた。


「ハイキュウ?…何それ?」


 真奈美は言いながらダイニングテーブルの椅子に座った。


「配給なしに今までどうしていたの?」


 尚子は心配そうに聞いた。


「…冷食があったから10日ぐらいはそれ食べてた…その後はコンビニ行っても閉まってるし…水やお菓子や家にあるものなんでも食べてた…それも2日前に何にもなくなって水だけ飲んでた……そんなことより親を探してよ。1ヶ月もこどもをほったらかしなんてあり得ないでしょ…」

 

 真奈美はテーブルに顔を乗せて弱々しく言った。

 尚子は正孝に研究所の医師を呼ぶのと真奈美の配給分を取りに行って欲しいと頼んだ。


「真奈美さん、1ヶ月前、佐伯首相のメッセージ聞いていない?」


「さえき…?さあ…知らない…」


 尚子はこういう人が他にもいるかもしれないと思った。

 この子が医師に見てもらってお腹が満たされたら、話をしようと尚子は考えた。


「仲間が帰って来るまで真奈美さんは座っててね。わたしはちょっと掃除するから」


 そう言って尚子はゴミを拾い、クリーナーを探してかけた。洗い物をして雑巾がけもした。

 ひと通り掃除を終えると尚子は真奈美の前に座り話しかけた。


「1人でよく頑張ったわね。さっきのお兄さんが食べ物を持って戻って来るから待っててね」


「…パパやママは……?わたし…捨てられたの…?」


「そんなことないわ!……今地上と地下の出入りができなくなっているの……真奈美さんのご両親も帰ってこれないだけなの……」


 尚子は心苦しかった。嘘は言っていないつもりだが、永遠に帰っては来ないかもしれないのに期待を持たせることを言ってしまったと後悔した。


 正孝が医師を連れて戻ってきた。

 真奈美は診察を受けた。血液検査をしないと細かいことはわからないが、栄養失調気味だということだった。栄養あるものをしっかりと食べなさいと言われた。

 真奈美は正孝が持ってきた食料でレンジで温めてすぐ食べられるものを食べた。

 調理が必要な食材は尚子が簡単な料理をして保存容器に入れて2日分は冷蔵庫に、残りは冷凍庫に入れた。


 玄関チャイムが鳴った。真奈美が出ると警察官がモニターに映っていた。

 真奈美は尚子の方を向いた。尚子は入れるように言った。


 警察官が来ると尚子が事情を説明した。

 警察官は森隼人、健人兄弟も親が帰って来ず、食料も尽きたので地下3階まで降り、たまたまARR工場に侵入しようとしたらしい。警察官が行った他の3軒は隣人や同じマンションの住人が世話をしていたらしい。

 尚子は尚子たちが行った別の2軒のことも警察官に話した。

 警察官は後で家に伺って話を聞くと言った。保護者がいないこどもは学校で見てもうことになるとも言っていた。


 尚子と正孝は警察官に任せてオフィスに戻った。

 戻った途端、正孝は仕事に引っ張られて行った。

 尚子は何があったかみんなに説明して、まだ気になることがあるから仕事に戻るのは少し待って欲しいとお願いした。

 こどもに限らず、何も知らず家にこもっている人がいるかもしれないと考えた尚子は、ハンズリーイヤホンを装着してマザーにこの1ヶ月配給を取りに来ていない人を名簿にあげて欲しいと頼んだ。

 マザーはすぐに配給用管理ソフトをチェックして1度もマイナンバーカードがタッチされていない者をリストアップした。

 尚子はモニターに表示された合計人数を見て愕然とした。

 378人。とても警察官だけで回れる人数じゃない。

 尚子は直哉に相談した。


「することなくて暇してる企業の人に手伝ってもらうしかないな。警察と連携して手分けして訪問してもらおう。ただし、天野君は研究所に残ってくれ。君がいないとマザーが言うことを聞いてくれないらしい。あとのことは俺が引き受けるから」


 尚子は直哉に任せて仕事に戻った。みんな待ち侘びていたかのように尚子にマザーを動かしてくれと頼んできた。


「マザー、みんな仕事が滞って困っているわ。手伝ってあげて」


《みなさんわたしを頼りすぎです。電卓でできる簡単な計算すらもやらせようとするのでストを起こしました。全てはみなさんの意欲、向上心のためです》


「………とマザーは言っていますが、誰かしら自分の頭をフル活動させようとしない人は?」


「申し訳ありませんでした!」


 ほぼ全員が謝っていた。


「みんなも謝っていることだし、マザーじゃなければできないことは手伝ってね」


《承知しました》


「…‥…だそうなので、みんな頭をフル回転させて働くわよ!」


「承知しました!」


 みんな一斉に返事をした。


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