第一部 第七章 ④
外が薄暗くなる頃にレックスが帰って来た。
レックスはサラの顔を見て驚いたと同時に笑顔が溢れ、2人は抱き合って再会を喜んだ。
サラはレックスに月での状況や今回の任務について話をした。
「そうか……おそらく月に戻りたい者はほとんどいないのじゃないか。みんな地球での生活を望んで苦労がわかってるが開拓しようと来たものばかりだからな。ここでの生活に不自由はないし、むしろ当初の計画を考えると快適ともいえるかもしれない」
レックスはそう言うとアイラの方を見てお互い頷き合った。
「何か虐げられるとか、強制させられるとかないのですか?」
カイがレックスに聞いた。
「うーん……特にないな。兵士は見張ってるだけで何も言ってこないし。このスタジアムの外には出してもらえないが、出してもらったとて何もないからな。このスタジアムで開拓がうまくいけば、ここを拠点に外の開拓をしていきたいが」
レックスの言い方は生きがいを感じているように聞こえた。
「そうですか…」
カイはそれ以上何も聞かなかった。
「ここにいる者たちはみんな目標を持っていきいきと生活しているわ。そりゃ最初は不安しかなかったわよ、突然捕まってしまって。でも日が経つうちにだんだんと楽しくて捕虜だなんて意識なくなったわ」
アイラが微笑見ながら言った。
「そう…エジプトでは大変だったから心配していたんだけど……兄さんたちの気持ちはよくわかったわ」
サラは何か吹っ切れたようだった。
「僕たちは今晩月に帰ります。最後にひとつ聞きたいことがあるのですが、女王アマヒってご存知ですか?」
カイが聞くとレックスとアイラは顔を見合わせた。
「会ったことはないが、兵士がその名はよく口にする。彼女の指示に従っているようだが」
レックスが答えた。
「ここにはアマヒはいないのですね?」
カイが聞くとレックスもアイラも頷いた。
「どこにいるかわからない?」
サラが聞いた。
「うーん……どこかはわからないが、兵士が一度だけ言っていたことがある、たしか……海の向こうの女王様…だったかな」
レックスが思い出しながら言った。
カイは東の方から飛んできた電波のことを考えた。東の海の向こうはヨーロッパだったはず、あるいはアフリカ大陸の北か。
「いろいろとありがとうございました。皆さんの意向は月に帰って伝えます」
カイが言うとレックスが頷いて言った。
「よろしく頼むよ。サラ、エミリをしばらく頼むな。父さん、母さんにも言っておいてくれ」
「わかったわ。兄さんたちも無理はしないでね。兄さんたちが早くエミリと会えるようにわたしも頑張ってみるわ」
「ありがとうサラ、お願いするわ」
サラとレックスとアイラは抱き合った。
「サラ、名残り惜しいのはわかるが、屋根が閉まっては出られない」
カイが言うとレックスが首を傾げて言った。
「どこからここに入って来たんだ?」
カイはどうやって来たかレックスに説明した。
「それなら屋根が閉まってからでもそこに行けるよ。暗くなったら案内しよう」
レックスが言うと、アイラがそれなら夕食を一緒に食べようと言った。
4人で夕食を食べながらルクススペスでのことや、地球での生活の話をした。
夜も更け、カイたちはレックスに案内をしてもらい、機械室のようなところを通りトンネルを通り抜けて屋根の外側の通路に出た。
「これでいつでも来れそうね」
サラはそう言ってレックスに抱きついた。
カイはレックスと握手を交わした。
「気をつけて帰れよ」
レックスと別れてカイたちは小型宇宙船が来るのを待った。
「カイ、今朝はごめんなさい。ちょっとイラつくことがあってカイに当たってしまったわ」
サラがカイに頭を下げた。
「ああ、もういいよ。過ぎ去ったことは気にしない」
サラはため息をついて言った。
「カイはいつもそうよね。過去を振り返えらないっていうか、過去にこだわらないっていうか……」
「起きたことをあれこれ考えても、そこに感情をぶつけても過去は変わらない。だから今だけを見るんだよ。こどもみたいなサラは今いない。反省してる殊勝なサラがここにいるのに過去に戻ってまで感情をぶつける必要はないだろう?」
「いいわね、カイ。わたしもそう考えられたら楽なんだけど。わたしはどうしても過去のことあれこれ考えちゃって感情に振り回されてしまうわ」
カイはサラをじっと見てから言った。
「何?サラは過去の僕に腹が立つようなことがあった?」
「それは……ごめん、わたしの問題だからカイに当たるのは間違ってた。カイは何も悪くないし、何もしてない」
サラは月を出る前日、恋人と会っていたが地球の任務で忙しくて会えないのを理由に喧嘩別れしていた。しかも会って話すのは地球のことがほとんどだったのでそこに出てくるカイたちに嫉妬をして、「そんなに奴らがいいなら奴らと付き合えば!」と捨て台詞を吐かれたのだった。
小型宇宙船が迎えに来てカイとサラは乗り込み、そのまま月に向かった。
ルクススペスに戻った4人はすぐに地球帰還対策本部に足を運び報告した。
「千人皆無事でした。ドーム内で開拓しながら生活しているようです。捕虜という立場は感じられないほど快適に過ごしていて、月には戻らないと言っていました」
カイが伝えると本部長が目を閉じて何か考えているようだった。
本部長は目を閉じたまま腕を組んで言った。
「全員救出した後の構想しかしていなかった。さて、この先どうするべきか……」
「全員救出した後にどうするつもりだったのですか?」
アランが聞いた。
「……移住準備と戦闘準備をして地球に向かい、移住者が開拓を進めながら地球人が攻めて来たら戦闘員が戦って移住者を守りながら領土を広げていくという計画だった。捕虜がいたんではそっちの命を危険に晒す可能性があるからこの計画は無理だ」
本部長はため息ををついた。
「それならドームをこちらで占領すればいいんじゃない?ドームにいる兵士は通常5人ぐらいらしいし、ドームを拠点に開拓を広げていけば?」
サラが言った。
「それは可能かね、カイ?君はどう思う?」
本部長がカイに聞いた。
「僕は前から言っていますが、戦争は反対です。あくまでも話し合いを重視します。戦わずに共存できる方法なら考えます」
「ではカイ、その話し合いはできるのかね?」
本部長が険しい顔をして聞いた。
「アマヒを探します。アマヒはヨーロッパ周辺にいるようです。カナダと同じ方法で電波を拾ってアマヒの居場所を確定できればと考えています」
カイが言うと本部長は少し考えてから言った。
「わかった。ではアマヒを探して話し合いを設けてくれ。それが失敗に終わったら、ドームを拠点に変更して計画通りに地球に移住して戦いながら領土を広げていく。それでいいな」
「はい。アマヒを探すのはやります。失敗したら僕は一切のことから手を引きます。あとは好きにしてください。そもそも失敗したら僕は生きていないかもしれないし」
カイは真剣な顔で言った。
「では、カイ。アマヒを探す任務を君に与える。計画も人員も全て君に任せる。頼んだぞ」
「了解しました」
カイはそう言うと本部長に頭を下げて本部長室を出た。
他の3人も本部長室を出た。
「カイ、人員はどうするんだ?」
アランがカイに聞いた。
「この間のメンバーだと細かい説明しなくていいから聞いてみようと思っている」
「わたしは大丈夫です。マナにも声かけて見ます」
ノアが言った。
「俺も行くぜ。俺もこの間のメンバーに声をかけておく」
アランが言った。
サラは考えていた。今度行けば確実に恋人と破局だと思った。
サラはふと思った。自分が今やりたいことは何なのか。この先も恋人の言葉に振り回されて自分がやりたいことを制限するのか。それで恋人とうまくいっても自分は満足できるのか。
「…わたしも行くわ。オリバーや他のメンバーにも声をかけるわ」
サラは決意して言った。
「みんなありがとう。頼んだよ」
カイが言うと3人は親指を立てて笑った。




