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第一部 第七章 ③

 カイとアランとサラとノアは小型宇宙船に乗って地球へと向かった。

 深夜、カイとサラはドームの前回と同じ場所に降りた。


「こんなところからじゃなきゃ入れないの?」


 サラが驚いたように言った。


「下にちゃんとした入り口があると思うが、そこから堂々と入れると思うのか?」


 カイが辛辣に言った。


「思わないわよ。ちょっと聞いただけ」


 サラはそっぽむいて投げやりな言い方をした。

 カイは屋根が収納されるところの近い場所に移動した。サラも後を追った。


「ここで屋根が開くまで待つ」


 カイがサラに言った。


「どのくらい待つの?」


「3、4時間ぐらい」


 カイが答えるとサラがため息をついた。


「サラ、さっきから不満ばかり言ってるじゃないか。この先もっと大変なんだぞ」


 カイが厳しい顔をして言った。


「言ってないわよ。ため息をついただけでしょ」


 サラはまたしてもそっぽを向いて言った。


「サラ、こどもみたいな態度や発言どうしたんだ?」


 カイが暗視スコープを外してサラの顔を覗き込んだ。


「……何でもないわ……ごめん、本当にこどもじみていたわ。もう言わないから」


 カイは頷いてから暗視スコープを装着した。


 サラはじっとカイを見つめていた。サラがカイにこどもじみた真似をしたのには理由があった。しかし個人的な感情に引きずられてはいけないとサラは今は忘れることにした。任務終了後にカイとちゃんと話をする機会を作ろうと思った。


 2人は無言のまま朝が来た。

 ドームの屋根がゆっくりと開いた。


「すごいわ、これいつ造られたのかしら?建物はかなり古そうだけど」


 サラは屋根が開くのを感心して見ていた。

 屋根が完全に開くとカイはロープを取り出した。


「この壁を登らなければならない。サラが僕の肩に乗ってこの壁をよじ登ってその先にある手すりにこのロープをくくり付けてくれ」


「了解」


 カイはしゃがんで壁に手をついて頭を低くした。サラは何とかカイの肩に足を乗せた。カイはゆっくりと壁に手をつきながら立ち上がった。サラも壁に手をついてバランスを取った。


「僕の手に足を置いてよじ登るんだ」


「わかったわ。重いわよ」


「ハハ、フラマやユートより軽いだろ」


 サラはカイの手に片足を置いた。カイがゆっくりと手を伸ばすともう片方の足もカイの手に乗せた。サラは壁をよじ登りロープを手すりにくくり付けた。

 カイはロープを使って壁を登った。

 2人は屋根の下に移動した。


「広いわね。次はどこにいくの?」


「あの窓があるところにみんな寝泊まりしていると思う。来る前に調べたんだが、あれはどうやらホテルらしい。ホテルの入り口を探すんだ。観客席を見て。所々に中に入る入り口があるだろう?この下にもあるはずだからそこから中に入る」


 カイが言うとサラは頷いた。

 2人は周りに注意を払いながら観客席に降りて素早く入り口まで行って中に入った。階段が下に続いていた。2人は階段を慎重に降りて行った。下の観客席が見えた。スタジアムでは農作業が行われているのが見えた。

 サラは建築中の小屋の方を目を凝らしてよく見た。


「兄だわ。顔が遠すぎてはっきりしないけど、あの姿は多分兄よ」


「あそこに行くのは危険だな。兵士が下で見張っているし」


「義姉は部屋でいるかもしれない。彼女は建築デザイナーなの。部屋で設計図描いてる可能性が高いわ」


 2人はホテルのロビーを探した。

 兵士の数はそんなにいないのか、出くわすことなく1階まで降りた。1階まで降りると人の話し声や物音が途切れることなく聞こえた。

 カイが壁際に覗くとそこはロビーのような場所で大勢の人がそれぞれ何かしているようだった。

 その向こうに外に出る間口の広い出入り口が見えた。その出入り口の前には兵士が立っているがかなり距離はある。


「カイはここにいて、わたしが行くわ。女性の方が警戒されにくいしあの中に混じってしまえば兵士も気がつかないと思うの」


 カイは少し考えてから答えた。


「頼んだ」


 サラは頷いて、素早くみんながいる方へ行った。

 サラがみんなのところに行くと、誰もが見かけない顔に最初は驚いた顔をした。

 

「アイラ・クライトンを見かけなかった?」


 サラは何食わぬ顔して聞いた。

 知っている名前が出たので、警戒をしながらもアイラの居場所を教えた。


「今は2階の会議室でいると思うわ」


「そう、ありがとう」


 サラはそう言って2階に上がる階段がどこにあるのかキョロキョロして探した。


「あなた誰?」


 先程アイラの居場所を教えてくれた者がサラに聞いてきた。

 サラはにっこり笑って静かにするように口元で人差し指を立てて言った。


「レックス・クライトンの妹です」


「!…なぜ?」


 聞いてきた者は驚いた。


「兄夫婦に会いにきたのです」


「どうやって来たかまでは聞かないわ。案内するからついて来て」


 サラは頷いてカイのいる方を見た。カイはこちらの様子を伺っていたのでサラは親指を立てて見せた後、彼女について行った。

 エレベーターに乗り2階で降りた。少し歩くとドアの前で止まった。

 彼女は部屋をノックした。


「どうぞ」


 中から女性の声がした。

 彼女はサラに入るように促して戻って行った。サラはドアを開けた。

 アイラはテーブルの上の設計図を見ていた。


「アイラ……」


 サラが呟くように言った。アイラは顔を上げてサラを見た。


「サラ!どうして…?」


 アイラは驚いた顔をしたがすぐに微笑んでサラに寄って来た。

 2人は抱き合って再会を喜んだ。

 サラはアイラに事情を説明した。


「じゃあカイも連れてわたしたちの部屋にいるといいわ。兵士は個人の部屋には絶対に入って来ないのでそこの方が安全よ」


 アイラはそう言うとサラと会議室を出てカイが待っているところへ向かった。

 アイラはロビーに来るとそこにいた者にボソボソと話しかけた。するとその者は頷いて他の者たちに話しかけ、作業するふりをしながら兵士から見えないように死角を作った。

 サラは急いでカイを迎えに行き、アイラと共にエレベーターに乗りこんだ。


「わたしたちの部屋は5階なの」


 アイラは5階のボタンを押しながら言った。

 5階に着くとエレベーターから降り、アイラたちの部屋に入った。


 カイとサラは安堵のため息を大きくついた。


「よく居場所がわかったわね」


 アイラがお茶を入れながら言った。


「ここを見つけるまでに相当な苦労はしたわよ。わたしも一度は捕虜になったんだから」


 サラはアイラが手渡してくれたお茶を受け取りながら言った。


「まあ、そうなの⁈よく抜け出せたわね」


「そりゃ、壮絶な戦いがあったわよ。ねえカイ」


「ああ、僕はサラに殺されかけたしな」


「もう、いつまで言う気?」


 サラはアイラにエジプトであったことを話した。


「それは大変だったわね」


 アイラは眉をしかめて同情するように言った。

 カイがサラに目配せをした。


「あ、そうそう。本題に移るわね。ここに千人全員いるの?」


「ええ、全員ここにいるわ」


 カイが聞いた。


「ここに兵士はどれくらいいますか?」


「んー、そうね…ドームの入り口に1人。ホテルの入り口に1人。スタジアムの中に3人かな」


「5人しかいないの?」


 サラが聞くとアイラは頷いた。


「5人で千人の監視をしているのですか?」


 カイが驚いたような口調で言った。


「ドームの中なら自由なのよ。入り口は兵士がいるから抜け出せないし。たとえ誰かが抜け出したとしても連帯責任を負わされるから誰も逃げようとしないわ。だから5人で十分なのよ」


「では兵士5人を倒せばみんな一緒に逃げれるってことね」


 サラが言うとアイラは首を横に振った。


「兵士を傷つけてはダメよ。みんな親切なの。作業を手伝ってくれるときもあるわ」


「でもあいつらはヒューマノイドでしょう?」


 サラは強く言った。


「そうなの?でも兜をのけたとき見たけど普通に人だったわよ。とてもロボットには見えなかったわ」


 アイラは不思議そうに言った。


「地球人もいるのかもしれないな…」


 カイは独り言のように言った。


「それにわたしはこのままここに居たいわ。開拓するのに部屋もあって助かってるの。本来なら何ヶ月もテント暮らしの予定だったのよ。今更月に戻ってもね。まあ、あとは自由に外に出られれば言うことなしなんだけど」


 アイラはここの暮らしが気に入っているようだった。


「じゃあ誰も月には戻りたくないの?」


 サラが焦ったような口調で言った。


「さあ、それは一人ひとりに聞いてみないとわからないわ。帰りたい人もいるかもね」


「それって聞いてもらうことはできますか?何人の人が帰りたがっているか把握したいのですが」


 カイがアイラに訊ねた。


「千人全員に聞くのは難しいわね。レックスが帰って来たら相談して見ましょう」


 アイラがそう言うとカイとサラは頷いた。


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