第一部 第二章 ①
カイは戦闘員の志願をしなかった。
ジョージとアランはパイロットとして要請を受け宇宙船に乗り込んだ。唯一地球に足を踏み入れた者として。
カイにも要請はあったが、戦争に参戦してしまったら自分を許せなくなるのがわかっていたので断った。
フラマは臆病な性格なので鼻から戦闘員になる意思はなかった。
宇宙船に乗り込んだ150名の志願者たちは、小惑星を破壊するほどの威力を持つ武器を所持しているので皆恐れていなかった。地球側が簡単に降伏するだろうと考えている者がほとんどだった。
ジョージとアランは移住のために地球に向かった大型宇宙船が壊滅しているのを知っているので、気を抜いてはいなかった。
戦闘員は10人1班で15班で構成されていて、各班にリーダーがいた。
ジョージとアランはメインの操縦士として別々の宇宙船の乗り、それぞれ副操縦士がついていた。
2隻の宇宙船が出立した後、フラマがカイのハウスを訪れた。
「カイは志願するかと思ったけど、しなかったんだね」
「戦争なんてただの人殺しだ。どんな正論を並べ立てようが、結局は自分の利になることのために戦っているだけだ」
「そうなんだけど……でも僕は地球に住みたい。今まではそれほど思わなかったけど、地球に行ってみて月よりよっぽどいいって思った。臆病で戦闘員に志願しなかった僕が言うことじゃないけどね」
フラマは肩を上げて苦笑いしながら言った。
「それは僕も同じだ。地球に初めて降り立ったとき感動で足が震えた。美しい草原、澄んだ空気、気持ちいい風。本でしか知らなかったが、これが楽園というところだと思ったよ」
カイは目を閉じて地球の光景を思い出していた。だがすぐに目を開けて険しい表情で言った。
「そのために人を殺めることは違う。隣のハウスの方が住みごごちいいからって隣人を殺すことはしない。でもそれをやろうとしているんだ、月の者は!」
「でも地球側が恐れをなして早々に降参してくれたら悲惨なことにならなくて済むんじゃない?」
「フラマはこっちが勝てると思っているのか?戦争経験もない、付け焼き刃の戦闘員。相手の司令本部がどこにあるかもわからない行き当たりばったりの戦略でか?相手は地球を知り尽くしている。僕に軍事能力を聞いてきたぐらいだ。こちらよりは慣れている」
カイは地球のことをいろいろと思い出していた。
「相手はレーザー砲を所持している。戦車もだ。おそらく戦闘機もあるだろう。いくら改造したとはいえこちらは客船に武器を搭載しただけに過ぎない。それにフラマも見ただろう、地球の兵士を」
「ああ、なんか鉄の服着てたね。鉄の帽子も被ってた」
「服は鎧、帽子は兜といって、兵士の制服みたいなもんだ。つまり地球には戦いに熟練された兵士がいるということだ」
フラマは目を大きく開けて両手を握り締めた。
「カイの話しを聞いているとこどもと大人のケンカぐらい違いそう。怖くなってきた」
「無謀な戦争だ。上層部の連中は優れた者だけが月に移住したからその傲りがあって地球人を見下しているんだろう」
2隻の宇宙船は地球の大気圏を抜けた。2隻はアフリカ大陸上空を周りに注意をはらいながら何度か旋回した。
敵に備えていつでもレーザー砲と高速ミサイルが発射できるように構えていた。
地球人からの攻撃がないのを確認して高速ミサイルを積んだ宇宙船は地上に降りた。もう一隻は上空で待機した。
ジョージが操縦する宇宙船は囮のような存在で、地球人が攻めてくるのを待った。
するといつのまにか宇宙船を凌ぐ巨大な戦車が何処からともなく現れた。
高速ミサイルを撃つ役目の戦闘員が慌てて戦車に向けて砲弾した。ところが戦車はびくともしない。
上空に待機していた宇宙船からもレーザー砲を戦車に向けて撃つがものともしていない様子だ。
戦車は宇宙船を押しつぶすつもりなのか真っ直ぐに進んできた。
「うわーっ!」
戦闘員たちは宇宙船から降りて四方八方逃げ出した。
ジョージは上空にいるアランに一度退却するように無線で連絡した。
「俺らだけ逃げ出すなんてできない」
アランはそう答えた。
「今見ただろう!俺たちの武器は効かないんだ!全員壊滅させるわけにはいかない。早く月に戻って対策を立て直すんだ!」
ジョージは叱咤するようにアランに言った。
「わかった…」
アランは渋々月に向かって宇宙船を飛ばした。
地球帰還対策本部は大騒ぎになっていた。
地球から戻ったアランに報告を受けた対策本部長は急いで要人を招集して、アランから聞いた状況を要人たちに話したからだ。
誰もが絶望感を味わっていたとき、カイが対策本部に現れた。
カイは報告を終えたアランから状況を聞いた。
近距離で撃った高速ミサイルもレーザー砲もびくともしないなんておかしいと思ったカイはもっと詳しく聞いてみた。
「高速ミサイルを何かの方法で避けたのか?それとも車体にあたったが爆発したが戦車はなんともなかったのか?」
アランは思い出すように眉を寄せて上を見た。
「一瞬の出来事だったからはっきりはしないが、戦車にあたって爆発したと思う」
「でも戦車はなんともなかったと?レーザー砲はどうだ?」
「レーザー光線はまるで戦車が吸い込んでいるように見えた」
カイは考えた。
そもそも宇宙船より大きい戦車を造ることができるだろうか。戦車は3D映像だったのではないか。だからレーザー光線が吸い込まれるように見えたのでは。高速ミサイルは3D映像の戦車の下の大地にあたって爆発したと考えれば辻褄が合う。
カイは急いで地球帰還対策本部に向かった。




