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第一部 第七章 ②

 カイは本部長に呼ばれて地球帰還対策本部長室に向かっていた。

 本部長室の前まで行くとアランがいた。


「よう、カイ。お前も呼ばれたのか?」


「ああ、アランもか」


「いよいよ地球にいる者たちをどうするか決まって任務に呼ばれたかな」


 アランは頭の後ろを掻きながら言った。

 そこにサラも現れた。


「あら、お揃いで。本部長に呼ばれたの?」


 サラが言うと二人は頷いた。

 3人は一緒に本部長室に入った。

 本部長が会議室につながるドアの前で立っていた。


「ああ、君たち待っていたよ。さあ入りたまえ」


 本部長はそう言うと会議室のドアを開けた。

 会議室には要人たちが会議用長テーブルを囲って座っていた。


「何よこれ」


 サラは小さい声でカイに耳打ちした。カイは黙って肩を上げて首を傾げた。

 本部長が上座の席に座り、その隣に座るようカイたちを促した。カイたちは渋々座った。

 要人の一人が話し始めた。


「君たちを呼んだのは他でもない。地球の様子を詳しく聞くためだ」


 カイとアランとサラは顔を見合わせた。サラがカイに顎で合図した。カイは眉をしかめてサラを睨んだが、アランもカイの腕を肘で突ついた。

 カイはため息をついて言った。


「様子とは?具体的に何を知りたいのか言っていただかないと困りますね。地球は広いとか、空気が美味しいとかそんなことでいいならいくらでも述べます」


 要人たちはムッとした表情になった。最初に喋った要人が他の要人が文句を言いそうになったのを遮るようにを言った。


「そうだね。こちらの言い方が悪かった。わたしたちが知りたいのは地球で捕らえられている者たちの詳しい様子と地球がどのくらいの兵力があるかってことだ」


 カイは険しい顔つきになった。


「この間地球で撮った映像をご覧になっていないのですか?」


「いや、それは見たが、あれだけでは無理を強いられていないか、食事は取れているか全くわからない」


 カイは机を叩いて立ち上がった。


「あれがわかっていることの全てです!危険を冒してやっと撮った映像です!それ以上のことは僕らにもわかりません!それになぜ地球の兵力を知りたがるのですか?戦争を仕掛けるつもりですか⁈何にしてもそんなことまで把握してません!」


「まあ、まあ、カイ。座りなさい」


 本部長が横でカイの腕を引っ張った。カイは本部長をチラリと見て座った。


「聞いた通りです。わたしが報告を受けてあなた方に言ったことと変わりないでしょう?とにかく戦争を起こすには情報が足りなすぎますし、こちらには兵士などと言うものは存在しないのですから、起こしようがない、そうでしょう?」


 本部長はきっぱりと言ったが、納得のいかない要人たちは口々に反論した。


「しかし、このままでは我々は地球に移住することができないではないか」


「今のままではルクススペスは人が溢れかえって崩壊するのが目にみえている。地球側が受け入れないと言うのなら戦って得るしかないだろう」


 カイは怒りが沸点に達して言葉を吐き出そうとしたとき、先にサラが行動に出た。


「そんなに戦争がしたいなら自分たちが地球に行って戦ってくれば!!」


 サラは机を両手で思いっきり叩いて言った。


 要人たちは皆俯いた。カイが追い討ちをかけるように言った。


「自分たちができないことを軽々しく口にしないでください。地球に残った人類は小惑星衝突後の環境と壮絶な闘いを強いられながら今日まで生きながらえてきたんです。その地球を捨てて月に逃げた者の子孫が無理矢理奪おうと言うのですか⁈」


 要人たちはぐうの音も出なかった。


「先頭きって地球に行けない方々はどうぞ御隠居していただいて、ここから先は我々に任せていただけますかな?もちろん作戦に加わって行動していただける方は残っていただいて結構ですよ」


 本部長が要人に向かってにこやかに言った。


「君が全責任を負うと言うのかね?」


 要人のひとりが言った。


「もちろんその覚悟があっての発言です!わたしはあなたたちのように無責任に言葉を発するだけの人間じゃないつもりですよ!」


 本部長が今度は険しい顔つきではっきりと言った。

 要人たちは1人、2人と席をたち会議室を出て行った。

 最後に残った要人が本部長に近寄り、本部長の肩に手を乗せて言った。


「我々も戦争がしたいと思っているわけではない。だが我々も生きているうちに地球に帰りたいと思いが強すぎてね。つい無理な事を言ってしまった。君には苦労をかける、すまないね」


 要人はカイたちの方を向いた。


「君たちも今回も前回も大変な苦労させてしまったが、無事に任務を遂行してくれて感謝する。ありがとう。これからも年寄りがいらぬことを言うかもしれんが、気にせず自分の信念で行動してくれることを強く願っている」


 要人は頭を下げた。

 カイたちも立ち上がり要人に頭を下げた。

 要人は会議室を出て行った。


「へえ、要人の中にもあんな人もいるのね」


 サラが物珍しそうに言った。


「あの方はジョージの母方の祖父だ」


 本部長が要人が出て行ったドアを見ながら言った。


「ジョージの……」


 カイも言いながらドアを見た。


「あの方も初めは戦争賛成派だったんだが、ジョージが地球で命を落として以来反対派にまわったよ。身近な者が亡くなって初めて気づいたんだろう、命の重さに」


 本部長は腕を組んで目を閉じて言った。


「本部長、これからどうしますか?」


 アランが聞いた。


「まずはカナダの捕虜を救出することが先決だろう。生きているとわかった以上このまま放置するわけにはいかない」


 みんな頷いた。


「ドームの中に潜入することは可能なんだな?」


 本部長が聞いた。


「はい、可能です。あの映像も中で撮りました」


「生死の把握が先だっての任務だったが、今回は救出に向けてドームの中の詳しい状況が知りたい。全員無事なのか、救出するならどういうルートが使えるか、ドームでの兵力はどうなのか。そういう情報がなければ作戦の立てようがない」


 本部長はそう言って大きくため息をついた。


「潜入するしかないですね。捕虜になりすまして潜入するか、兵士を倒すか…」


 カイが考えているとサラが言った。


「捕虜全員の名前を把握しているのよ。なりすましは無理じゃないかしら?」


「千人いるなら顔までは全員把握できないだろう」


 アランが言った。


「いや、兵士はおそらくヒューマノイドだ。記憶容量が優れていれば全員の顔と名前をインプットしているかもしれない」


 カイは言ってから再び考えた。そしておもむろに言葉を発した。


「……確か個室の部屋のような窓がたくさんあった…そこで生活しているのであれば、兵士に見つからないように月の者と接触して…その人の部屋に匿ってもらって話が聞けるかもしれない」


「それ、わたしがやるわ。知らない者が行っても警戒されるでしょ。兄夫婦を見つければ色々話が聞けると思うわ」


 サラが真剣な顔をして言った。


「それなら僕も一緒に行くよ。1人では危険だし、僕の方がドームに詳しい」


 カイが言うと本部長が頷いた。


「宇宙船の操縦をアランとノアに。ノアは前回ドームに行っているのでよくわかっていると思う」


 カイはアランを見た。アランは親指を立ててウインクした。


「ノアにはわたしから連絡を入れて聞いてみよう。ノアが了承したら今回の任務は4人で遂行ということでいいか?」


 本部長が聞くと3人は頷いた。


「前回と同じ方法でドームに潜入しようと思う」


 カイは前回どのようにしてドームに潜入したのかを2人に話した。


「潜入方法はわかったとして、問題はどうやって月の者と接触するかよね?」


 サラが言うとカイが頷いた。


「何体いるのかわからないが、兵士が見張っているのは間違いない。個室の窓から明かりが漏れていたからその部屋の入り口を探せればいいのだが…」


「窓の反対側には行けないの?」


 サラに言われてカイはドームの様子を頭に浮かべてから言った。


「……反対側はドームの屋根が収納されているから入り口はないと思う。観客席の所々に出入り口があるからまずはそこに入ってから次の行動を考えるしかないな」


「とにかく兵士に見つからないようにウロウロして部屋の入り口を探せばいいのね」


 サラが軽い口調で言った。


「そうだが、そう簡単にはいかないぞ。サラは短気だからなかなか見つからないと途中でイラつきそうだな」


 アランが笑いながら言った。


「失礼ね、アラン。短気なのは認めるけど、わたしはやるときにはできる女よ!」


 サラは腰に手を当てて胸を張った。


「あー、悪い悪い。サラはそうだな」


 アランは笑いながら謝った。


「とにかく気をつけて行動するように。命の危機が迫ったら任務よりも逃げることを優先に。これは絶対に守ってくれ」


 本部長が強い口調で言った。


「了解しました!」


 3人は口を揃えて言った。


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