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第一部 第五章 ③

 休日明け、カイは地球帰還対策本部長に呼ばれた。

 カイが本部長室に行くとサラとアランもいた。

 カイはサラの顔を見て少し赤くなった顔を手で隠した。アランはカイのその様子を見てニヤニヤしながら横にいたサラを肘で突ついた。


「何よ、アラン」


 サラは一昨日の帰りのことはほぼ覚えていなかった。気がついたら自分のベッドで寝ていたのだ。

 アランはサラの怪訝そうな顔を見て勘違いだったかと思ったが、カイの様子はいつもと違った。


「今日来てもらったのは他でもない、地球で存命しているかもしれないカナダに向かった者たちのことだ」


 本部長が椅子に座って机を人差し指でコツコツ鳴らしながら言った。


「要人たちと話し合った結果だが、無闇に大勢で行ってこの前のようなことになってはいけないとなって、少人数でも探しきれなくないかということで、何回も話し合いを持ったが結論に至らなかった」


「結果が出てないのにわたしたちを呼んだのですか?」


 サラが辛辣に言った。


「まあ、落ち着いて。要人たちに任せても埒が明かないので君たちを呼んだんだ。君たち地球に行ったことのある者の意見を聞こうと思ってね」


 本部長が椅子から立ち上がり、3人をソファに座るように手で促しながら言った。

 3人はソファに腰掛けた。


「僕たちが意見を言ったところで、また要人たちがそのことに議論を繰り返して埒が明かなくなるだけじゃないですか?」


 カイは少し呆れ気味に言った。

 本部長は苦笑いしながら首を横に振った。


「いや、わたしの判断で進めようと思う。要人たちには事後報告するつもりだ。だからなんとしてでも、千人の生死がわかる何か証明と、もし生きているなら居場所だけも君たちに探してもらいたい」


「わたしは当然地球に行くわ」


 サラは真剣な顔をして強い口調で言った。

 

「わたしとしてはカイにもう一度司令官として行ってもらいたい。作戦も人選も君に任せる」


 本部長がカイを鋭い眼光で見つめながら言った。


「それは命令ですか?」


 カイも鋭い目つきで本部長を見返して言った。

 本部長はカイの目を見てふっと穏やかな表情になって言った。


「お願いだよ、カイ。あの約束もまだ有効だ」


「……わかりました」


 カイはため息をついてから返答した。



 3人は本部長室を出た。

 サラが怪訝そうな顔をしてカイに聞いた。


「本部長との約束って何?」


 サラの質問はまるでカイに秘密は許さないとでも言っているようにアランには感じた。アランはますます二人の関係を疑った。


「こちらから地球には戦争を仕掛けないってことだよ」


 カイは淡々と答えた。サラの顔をすぐに緩んだ。アランはそれを見逃さなかった。


「お前ら二人なんかあった?」


 サラは眉を寄せてこいつ何言ってるというような顔をした。一方カイは少し頬を染めて首の後ろに手を回して視線を逸らした。


「やっぱり一昨日なんかあったな」


 アランはニヤニヤしてカイを見ながら言った。


「一昨日?一昨日なんかあったの?」


 サラはカイに詰め寄るようにして聞いた。


「サラ、本当に何も覚えてないのか?」


 カイは逆にサラに詰め寄った。


「…一昨日、ジョージのお別れ会で飲んで……カイに送ってもらった…?」


「覚えてないならいい」


 カイはつっけんどんに言った。


「ごめん、気がついたらベッドに寝てたから、まったく記憶にないわ」


 アランが驚いたような声を出した。


「ベッドで寝てた⁈」


「アラン!違う!」


 カイとサラは同時に言った。


「自分の家のベッドよ。誤解しないで。で、カイ、わたしは何をしたの?」


 カイは一昨日のことを思い出していた。


 サラが珍しく泣いていたのでカイは思わず抱きしめた。

 しばらくそのままでいたが、サラが急に暑いと言い出して服を脱ごうとしたのだ。

 カイは止めたが酔っているサラにはカイの言葉が届かず、上着を脱ぎ捨て「あースッキリ」と言って下着を露わにしてそのまま寝てしまった。

 カイはドギマギしながらサラに上着を着せおぶって家まで送った。

 誰も通らなかったのが幸いだった。


 カイは言わない方がいいと思った。


「まず作戦会議をしよう。それが終わったら作戦遂行するための人選を行おう」


 カイは話題を変えてサラをスルーして会議室に向かって歩き出した。


「ちょっと、スルーする気?」


 サラがカイの腕を掴んだ。


「サラ、そんなことより仕事優先!」


 アランは後でこっそりカイに聞こうと思って、カイに同意した。


「チッ!」


 サラは舌打ちをしてカイの腕を話して会議室に向かった。


 カイとサラとアランは会議室で作戦を練った。


「とりあえず今回の任務は月の者の生存確認だ。救出ではないので少人数で動きたい」


 カイが言うとサラが強い口調で言った。


「見つかった時点で救出するのは無理なの?」


「生きていたとしても、現時点でどこにいるか、どんな状態かも把握できていないのに千人も救出するのは無理だ。そこを今度の任務でしっかりと把握して作戦を立て直してから救出すべきだと思う」


 カイも強くはっきりとサラに向かって言った。


「俺も賛成。行き当たりばったりじゃこの間の戦闘員たちの二の舞になるぞ」


 アランもサラを横目で見ながら言った。


「……そうだけど……」


 サラは理解はしているが生きているのなら早く救出したかった。

 カイは泣きじゃくっていたサラを知っているので気持ちがわからないわけではなかった。


「サラ、完璧な作戦を立てないと、今度こそ本当に命がないかもしれない。君の気持ちもわかるが、冷静に考えて欲しい。君の気持ちが任務遂行の障害になるなら地球には連れていけない」


 カイは心を鬼にしてサラに厳しく言った。

 サラはカイの言葉に目を見開いて唇を噛んだが、すぐに目を閉じ両頬を思いっきり叩いた。


「ごめん、カイ、アラン。任務に私情を挟んではいけなかったわね。大丈夫、ちゃんとやれるから。わたしを外すと一生恨んで、いいえ、死んでも化けて出てやるわよ!」


 サラはカイを指差して怒った風な言い方をしたが目は笑っていた。

 カイは両手を上にあげて降参したかのような仕草を微笑みながらした。


「サラに呪われたら一生恋人できないぞ、カイ」


 アランはニヤニヤしながら言った。

 カイはアランを睨みつけたから真面目な顔を作って言った。


「ほら、本題に戻るぞ。…地球の人工衛星があれからまた増えているかもしれない。破壊してもまた打ち上げられるだろうから、無駄なことはしない」


「破壊することで警戒されるしな」


 アランは頷きながら言った。カイも頷いて話を進めた。


「小型宇宙船ならそうそう人工衛星に引っかからないだろう。まずカナダ周辺から徹底的に捜索する」


「結構広いわよ。何機で行く?」


 サラがホログラムで地球儀を出してカナダを指しながら言った。


「数多いと目立ってしまうから3機でと思っている」


 カイが答えるとアランもホログラムで地球儀を出して見ながら言った。


「3機か……きついな。この広さだと随分と時間がかかりそうだ」


「エジプトの囮作戦みたいにカナダの大型宇宙船近くで捕まえてもらうっていう手もあるんじゃない?」


 サラが言うとカイは首を横に振った。


「アマヒも馬鹿じゃない。同じ手はくわないと思う。捕まったとしても全く別の場所に連れて行かれるだけで、なんの情報も得られないだろう」


「地道に探すしかないのね…」


 サラが言うとカイは頷いて言った。


「問題はまだある。地上にいればわかりやすいが、エジプトのピラミッドのように地下にいればさらに困難になる」


「そうなったら探すのは不可能じゃね?」


 アランがお手上げですという仕草をした。


「そう、今のままでは不可能に近い。そこでだ」


 カイは電波探知機を使うと二人に言った。

 おそらくアマヒとの連絡用に通信機器を使っているはず。アマヒがどこにいたとしてもエジプトに映像を送っていたので、必ずその電波がある。地下にいようがその電波は地上を介して送受信されているのは間違いない。その電波を拾ってどこから発信されているか、どこに送信しているか、それがわかればピンポイントで捜索できるとカイは説明した。


「広範囲であらゆる周波数の電波を一度に拾えて表示可能な機器を小型宇宙船に取り付ける」


「そんな便利な探知機あるの?」


 サラが聞いた。


「ある。地球に移住するときのために僕が開発した。すぐに宇宙船用に改造して取り付けよう」


 カイはニヤリと笑いながら言った。


「さすがカイ!」


 サラもアランも拍手しながら絶賛した。


「あとは人選とそれが決まったら、全員集めて細かい段取りをしよう」


 カイたちは誰を任命するか話し合った。

 小型宇宙船には操縦士と副操縦士、探知機を確認する者、肉眼で操作する者2名で1機につき5名、3機で15名必要となる。3名は決まっているから残り12名の選出をした。

 選出した12名に連絡をとり承諾を得て、次回の作戦会議の日程も打ち合わせた。


「それじゃ、今日は解散だ。僕は決まったことを本部長に報告してから帰るよ」


「ジョージはどうするの?」


 サラがカイに聞いた。


「地球に埋葬してあげたいけど、一旦は家族のもとに連れて帰りたい。でも今度の任務とは一緒にできない」


「どうして?」


 サラが眉をしかめて聞いた。


「他の者を危険に晒すわけにはいかない」


 カイは苦渋の顔をして言った。


「だったら任務遂行できたら俺たちだけ残ってエジプトに飛べば?他の者は帰ってもらって」


 アランが言った。


「そうよ、そうすればいいじゃない」


 サラが嬉しそうに手を叩いた。


「……本部長に相談してみるよ」


 カイは仲間のありがたさをしみじみと感じながら笑みを浮かべた。


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