第一部 第五章 ②
カイたちが地球から戻って半月が経った。
カイは本来のITエンジニアの仕事に戻っていた。
カイの仕事は主に情報通信のアプリ開発やそれに携わるインフラ整備をしていた。
ルクススペス内はもちろん、地球に移住したときのための開発も2年前から担当の1人になっていた。
その傍で、地球帰還対策本部に籍を置き、移住に向けてのサポートや通信インフラ整備、開拓のシミュレーションしていた。
ジョージは仕事でも地球帰還対策本部でもカイの先輩だった。
カイはジョージから仕事にしてもプライベートにしても色々とノウハウを教えてもらった。兄のような大切な存在だった。
カイがパソコンを使っているとき、サラから通話の許可を求めるタブが表示された。カイはタブを開き許可をクイックした。
パソコン上の透明シートに映像が映し出された。
「ハイ、カイ。仕事中だった?」
「やあ、サラ。まあ、そうだね、仕事してた。なんか用?」
「本人は不在だけど、ジョージの弔いを仲間内でやらない?」
「サラは飲みたい口実が欲しいだけだろう?」
「失礼しちゃうわね。ま、そうだけど。あれから半月経つけど、ジョージを引き取りに行くめどが立ってないみたいだから、仲間内だけでもお別れの会ができればと思って」
カイはジョージが砲弾を受けたときのことを思い出した。
あのとき援護できていればジョージは死なずに済んだかもしれない。いや、過去の事実にたらればはない。事実は一つしかないのだからそれを受け止めなければいつまでも引きずってしまう。
「カイ?」
俯いているカイを心配してサラが声をかけた。
「ああ、ごめん、お別れ会ね。いつする?」
「次の休日って空いてる?」
「僕は大丈夫だ」
「じゃあそれでみんなに連絡いれておくわ。時間は午後イチで」
「了解」
映像が消えた。
カイは地球でのホールの階段上や狭い部屋のアマヒの映像を思い浮かべた。
あれは映像とは思えないほど精巧だった。今見た映像とは比較にならないほど本物そっくりに見えた。
ヒューマノイド兵士も見た目は古いが、意志を持って自ら行動しているように見えた。
あれほどの技術を開発した者に会ってみたいとカイは思った。
そういえば乗り物に関しては古い型ばかりだったことを思い出した。
戦車も飛行機もジープも全部千年前の地球の本に載っていたものとほとんど変わりなかった。
あれだけの通信映像やロボット技術が発達しているのになぜ他は発達しなかったのだろう。
家屋もそうだった。朽ち果てたまま放置されていた。新しい建物はあの近辺には見当たらなかった。
生き残った地球人は映像を送ってきているアマヒのところで集まって暮らしているのか、どんな暮らしをしているのだろうか、どんな高度な技術の中で生活しているのだろうか。
カイは地球に移住することができたら、地球のエンジニアと会って話をして、地球を共に過ごしやすい環境を作れたらどんなにいいだろうかと思った。
そのためには決して戦争を起こしてはいけない。共存できる道を探さなければとカイは心の中で固く誓った。
次の休日の午後。
ジョージのお別れ会でダイニングバーに集まったのはカイとサラとアランとドユンとオリバーの5人だった。
「これだしか声をかけなかったのか?」
カイがサラに言った。
「ラージにもかけたけど、怪我がまだ治ってなくてアルコール禁止なんだって」
「なんだ、結局飲み会じゃないか」
カイは苦笑いしながら言った。
「親しい少人数で故人を偲んで飲みたかったのよ。悪い?」
「悪くはないよ。僕も今はその方がいい」
カイは少し寂しそうに言った。
「ほら、飲もう飲もう!みんな何注文する?俺はまず生中!」
「僕のホログラムで注文しますね。アラン生中ですか?僕はレモン酎ハイで。他は?」
ドユンがみんなの飲み物とつまみを通信機器で注文した。
飲み物が揃うとサラが言った。
「それじゃ、乾杯しましょ」
他の4人が一瞬固まった。
「サラ、ジョージのお別れ会だろ」
カイが顔をしかめて言った。
「あっ……やだな、もう冗談よ。では故人を偲んで献杯」
5人は静かにグラスを合わせた。
話はもっぱら地球のことで盛り上がった。
初めて地球に降り立ったときのそれぞれの気持ちを言い合った。地球の美しい景色の話や空気が美味しく感じたこと、初めて風にあたって気持ちよかったことなど、みんな地球に焦がれているようだった。
任務の話にもなった。アランは地球外に待機の任務ばかりだったのでみんなの話をもっと聞かせて欲しいと言った。
オリバーが要人に暴言を吐いたことを話すと、みんなよくやったと拍手した。
「その話、後のことを知ってるぞ。帰ってきた要人がすぐに本部長のところに行って、カイとオリバーとサラの処分を申し出たと本部長が言ってた。オリバーが何したのかわかったけど、カイとサラは何したんだ?」
「あら、わたしはうるさいって言って要人にレーザーガン向けただけよ」
サラはほくそ笑んで言った。
「あー、俺は目が合ったのにドアを閉めたからかな」
カイが言うとドユンが笑いながら捕捉した。
「サラたちの捕虜部屋を探していて1番最初に開けた部屋が要人の部屋だったんですよ。カイは何も言わずにすぐにドアを閉めて、足手まといは最後に助けると言ってました」
「それは正しい判断よ」
サラはチーズを口にしながら言った。
「その後すぐにサラたちの部屋をビンゴしたんだけど、入った瞬間にサラに喉チョップ入れられたんですよね、カイ」
ドユンが言うと、サラはチーズで咽せた。
「あれは死ぬかと思った」
カイが言うとサラが慌てて言い訳をした。
「だからあれはカイたちが来るのが遅かったから自力で抜け出そうと思って。兵士だと思ったのよ」
その後の兵士との戦いの話になり、そのままの流れでジョージの死の瞬間の話になった。
カイは話せなかった。その場にいたサラとドユンが話した。アランとオリバーは黙って聞いていた。
「遺体はあのままなのかなぁ」
ドユンが言った。
「もう半分腐ってんじゃ……」
オリバーが言いかけてやめた。
場の雰囲気が暗くなったところでサラが言った。
「ジョージのお別れ会なのにやっと自分の話になったってあの世で愚痴ってるわよ、もっと楽しそうに話せって。ジョージのことだからきっと」
「そうだな、早く迎えに来て宇宙に流してくれって言ってるかもな」
アランが微笑みながら言った。
「地球に…地球の大地に埋めたあげたい」
カイがボソッと言った。みんながカイを見た。
「いずれ僕たちが地球に移住するならジョージだって地球の大地に眠るほうがいいだろう?」
カイが言うとみんな黙って頷いた。
「それはそうと、あれから本部長からなんの連絡もないのか、サラ」
カイが突然話題を変えてサラに聞いた。サラが聞き返した。
「本部長からってカナダ行きの宇宙船の話?ジョージ遺体奪還の話?」
「ジョージの方は僕に連絡くれるだろ。カナダの方だ」
カイとサラ以外は知らない話なので3人はなんの話か聞いてきた。
サラが地球でのアマヒとの会話の話しをした。
「それは生きている可能性があるじゃないか!」
アランが喜んだ。あとの2人も嬉しそうに頷いた。
「でもなんの連絡もないわ、本部長から」
サラが言うとオリバーが怒って言った。
「本部長は何やってるんだ!よし、明日みんなで地球帰還対策本部に乗り込むぞ!」
「よし!行こう!明日と言わず今日行こう!」
サラが言った。
サラもオリバーもかなり酔っていた。
「今日も明日も休みで誰もいないよ」
ドユンが呆れて言った。
「もう夜がきたし、お開きにするか。オリバーは俺が送って行くからカイはサラを頼む」
アランが言うとサラが呂律があまり回っていない状態で言った。
「わたしはもっと飲みたい!」
「ほどほどにな。じゃあカイ頼むな」
そう言うとアランはオリバーを連れて帰った。ドユンもすぐに後を追って帰った。
「サラ、もう帰ろう」
カイがサラに言うとサラが笑いながら言った。
「カイがおぶってくれるなら帰るわ」
カイはため息をついてサラの前にしゃがんだ。
「どうぞ」
サラは本当におぶってくれるとは思わなかったのでびっくりした後に照れて言った。
「冗談よ。ちゃんと歩いて帰れるわ」
カイとサラは店を出た。
「カイ、今から展望室に行かない?」
サラが言った。展望室はルクススペスから外が見える唯一の場所だった。
「この時間帯だとかなり寒いよ。明日ちょうどいい気温の時に行けば?」
「行けばって、カイ冷た〜い。1人で行けって言うの?」
サラはカイの背中をボコボコ叩いた。
「サラ、だいぶん酔ってるな?」
カイは振り向いてサラの両手首を掴んだ。カイはハッとした。サラの頬に涙が流れていた。
「サラ、どうした?」
「……家に帰ると姪がいるんだよね。片言喋るのがとっても可愛くて……でも時々ママって泣くの。パパお仕事?って聞くの。わたし、どうしたらいいのかわからなくて……」
サラは泣きじゃくった。
「サラ……」
カイはそっとサラを抱きしめた。




