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第一部 第五章 ①

 月に帰ったカイたちは地球帰還対策本部に報告するため全員来ていた。

 ジョージが亡くなったことを含め、兵士がヒューマノイドだったこと、人工衛星がまた打ち上げられたこと、捕虜として工場で働かされていたこと、何を作っていたかなどできるだけ詳細に報告した。


「カイ、ご苦労だったな。君が司令官になってくれて助かったよ、礼を言う。ジョージのことは残念だった。家族にはわたしから連絡を入れよう」


 本部長が言った。


「そのことなんですが、ジョージの遺体を引き取りに行きたいんです」


 カイは真剣な眼差しで、かつ強い口調で言った。


「カイ、気持ちはわかるが、今すぐは無理だ。君も身体を休ませてあげなさい。必ず機会をつくってあげるから」


「……わかりました」


 カイは悔しそうな顔をして俯き加減に返事をした。


「ジョージを迎えに行くときはわたしも行くわ」


 サラがカイの肩を叩いて言った。


「俺も行くぜ」


 オリバーがカイの背中を叩いていった。ドユンも頷いた。


「ああ、そのときは頼む」


 カイは涙を堪えながら言った。


「みんなご苦労だった。地球の状況も把握せずに送り込んでしまって申し訳なかった。ハウスに帰ってゆっくりして欲しい」


 本部長がそう言うと戦闘員たちは頭を下げて部屋を出て行った。

 オリバーとドユンも出て行き、カイも出ようとドアのノブを掴んだとき、サラが本部長に話があると言った。


「カナダに向かった大型宇宙船の者たちのことですが…」


 カイは足を止めた。


「わたしとラージが捕まったとき、女王アマヒと少しだけ話をしたんです。2人だけで来たことの信憑性を高めるために、わたしはカナダに向かった大型宇宙船に家族が乗っていて、月に内緒でその家族を探しに来たって言ったんです」


 本部長は思い出したように言った。


「ああ、君のお兄さん夫婦が乗っていたんだな。君はそれで今回の任務を申し出たんだったな」


 カイはサラにそのような事情があったとは知らなかった。サラは微塵もそんな感情は出さずに任務を遂行していた。


「そのときアマヒはわたしに兄夫婦の名前を尋ねたんです」


「それは本当か!」


 カイは思わずサラの側に駆け寄り言った。


「それがどうしたのかね?」


 本部長はまだよくわかっていないようだった。


「撃破して殺した宇宙船に乗っていた者の名前をなぜ聞く必要があるのです?聞いてもわからないでしょう?」


 カイは少し弾んだ声で本部長に言った。

 本部長はハッとなった。


「そうなんです。名前を告げた後、しばらくしてからアマヒは『嘘ではないな』と言ったんです。おそらく何かと照らし合わせて確認したんだと思います」


「名前を聞いてから始末した可能性もある…」


 本部長は視線を下に向けて苦々しく言った。


「それは…わたしもそう思ったんです。アマヒが捕虜が50人と言った時点で諦めたんです。でも…」


「それはない可能性の方が高いです。アマヒは無闇に人を殺したりしないと思います。反抗さえしなければ、労働力に使いたいのです。現に戦闘員たちも工場で働かされていました」


 カイの言葉にサラが頷いた。


「そうなんです。工場で働いていたという話しを聞いて、もしかしたら兄夫婦たちも生きていて労働させられているんではないかと」


「…わかった。その件に関して要人を集めて検討する。結果はまた報告する」


 カイとサラは頷いた。


 地球帰還対策本部を後にしたカイとサラはそれぞれ自分のハウスに戻った。

 カイがハウスの玄関を開けて入ると両親と妹が駆け寄って来てカイを抱きしめた。


「無事で良かった…」


 カイは風呂に入り数日間の汚れを落とした。バスタブにゆっくりと浸かっていると地球での出来事が嘘のように感じた。

 しかしまだ目に焼き付いている沈む太陽の柔らかな光、その光に照らされてオレンジに染まる空と大地は地球に降り立ったという現実として鮮明に記憶に刻まれていた。

 そしてジョージ。ジョージのことも現実だ。今も地球に残っているジョージのことを考えると自然に涙が流れた。


 夕食は豪華だった。地球では栄養食を口に入れる時間もほぼなかった。久しぶりに家族との楽しい時間を満喫した。

 カイは地球の美しさを家族に語った。地球でカイがしてきたことは家族に心配をかけたくなかったので話さなかった。ジョージを迎えに行くときに止められたくなかったのもあったからだ。


 夕食後カイはベッドに寝転がり、大きく息を吐いた。しばらく地球の空気を吸っていたせいか、基地内の空気が息苦しく感じた。

 カイは目を閉じ、地球の景色を思い浮かべながら眠りについた。



 翌日の午後、カイのハウスにフラマが訪ねてきた。


「カイ、久しぶりだね」


「フラマ、どうした?」


 カイはフラマを自分の部屋に通した。


「昨日久しぶりに親友に会ってね。その親友がカイのこと話してたから会いたくなって」


「親友?」


 カイは誰のことを言っているのか皆目わからなかった。


「その親友は昨日地球から帰ってきたんだ。地球に2ヶ月近くもいたんだ」


「フラマの親友は地球に行った戦闘員か?」


 フラマは頷いた。


「ユート・コウヅキです」


「ああ、最後の作戦に参加してくれた彼か」


「彼がカイは凄いって何度も褒めていましたよ。ユートは何もできなかったって落ち込んでいました」


「そんなことはない。ユートがいてくれたおかげで作戦は上手くいった」


 フラマは目を見開いてから首を傾げた。


「ユートは足を引っ張っただけだと言ってました。彼はゲームで何度も戦って勝利していたから自信満々に作戦に参加の手を挙げたそうです」


「うん、確かに任務遂行するにあたって1番揺るぎない顔をしていたからユートを選んだんだ」


 カイはユートの顔を思い出しながら言った。


「でもユートは兵士を前にして身体が震えてレーザーガンの引き金を引けなかったそうです。そればかりか自分の存在に気づかれて銃口を向けられたと。カイがいなければ間違いなくやられていたと言っていました」


「しかし、あのとき兵士がユートに気を取られていたから僕は兵士を撃てたんだよ」


 カイは笑いながら言った。


「でも、偶然居合わせたからですよね。カイの任務がまだ終わっていなかったら、あの場に居合わせなかったら、ユートは月に帰って来れなかった。彼がそう言っていました」


 フラマは不安そうな目をしてカイをじっと見つめて言った。

 カイはフラマに微笑みかけて言った。


「僕は偶然という言葉はあっても偶然という事象はないと思っている。全てが必然なんだ。起こった事実に対して自分の考えに及ばなかったことをみんな偶然という言葉で片付けてしまうけど、偶然じゃない。起こったことは全てそれが事実であり現実だ。ユートが兵士の目を惹きつけたことも、僕がそこに居合わせたこともそれは紛れもなく事実なんだよ。偶然で片付けてしまうなら、この世界は全てが偶然になってしまわないか?」


 フラマはカイの言ったことを頭の中で繰り返して理解しようとした。

 カイは笑いながら言った。


「はは、難しく考えなくていい。偶然ではなくユートは活躍したってことだよ。ユートだから成功したんだよ。ユートにそう伝えといてくれ」


 フラマは頷いた。


「今日はその話をしにきたのか?」


 フラマは少し黙った。大きく深呼吸してから話し始めた。


「ユートは工場で休憩時間に外に出て自然の風を受け、空を見て感動したって言ってた。もしまた任務があるなら今度こそ役に立つよう頑張るからまた地球に行きたいって。ユートの地球での生活の話を聞いて、僕も初めて地球に降り立ったときの感動を思い出したんです。それで……もし地球での任務があったら僕も行きたいって思ったんです」


 フラマは目をか輝かせて照れながら言った。また地球での任務に行きたいなどと以前のフラマならそんなこと言わなかっただろう。


「今度行くときは戦いに行くのではなく、地球に永住できるように開拓のために行けるといいな」


 カイはフラマに微笑みかけながら言った。


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