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悪役令嬢ですが、婚約破棄の“保険”で王都を黒字化します  作者: 妙原奇天


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20/20

第20話「三杯半の結語――こわやさしい橋」

【前回のあらすじ】

最終訂正が王都標準に。番号の森 v1.0、帰順の橋=本橋に。——ただ一つ、L-109:冷却拒否/帰順拒否の石だけが欄干の外側に残った。



朝。王都広場。

王太子の机に札が二枚。

《迷ったら四十八時間》/《読まない勇気》

その横に、新しい一枚を置く。

《参加しない勇気(非参加書式 v1.0)》

—非参加宣言(理由任意)/安全距離条(接触制限と期間)/再接続窓(いつでも戻れる橋口)

—名前黒、番号太、構造図は細線で「関わらない線」を示す。


「意志の置き場を、手順の中に」

私は扇を伏せ、笑顔の角度を零度にする。説得を始めると温度が上がるから、置き場から示す。



L-109 当人が来る。

音の出ない歩き方。目は静か、背は硬い。


「橋は渡らない。意志だ」

「意志は尊い。——非参加も書式で、誰も落ちないようにします」

私は札を示す。

《非参加宣言》

・期間(三十日)

・安全距離条(相互非接触・番号運用のみ)

・再接続窓(通知一枚で仮橋から)


彼は黙って読み、短く頷いた。

「罰にしないか」

「罰なら番号は細く、恥が太くなる。——これは欄干です」

彼は署名し、魔素印を落とす。音は出ない。だが、欄干の外にベンチができた。



王太子が壇に立つ。

「最終訂正・結び——“こわやさしい”は、勇気の節約の別名だ」

彼は短く区切る。

「未熟=違反は番号で直す。名前は黒、線は細、番号は太。

 読む勇気と読まない勇気は、同じ棚に置く。

 参加する勇気も、しない勇気も、落ちない欄干で受ける」

見出しが貼り替わる。

《結語:こわやさしい=勇気の節約/欄干の設計》


ラモナが“手”だけ撮る。拍は小さく、長い。



昼。最終点検。

橋の陰圧 v1.0は静かに息をし、逆流の栓は鈴・鍵・箱で連動する。

番号の森 v1.0は風で揺れず、庶民版構造図は破線で角を守る。


チーノが数字を並べる。

「求償見込み:八割三分。引受余力:1.72。四杯目=13世帯」

メイが掲示に丸をつけ、白チョークで湯気を三筋足す。

「備考欄に“四杯×13”」


燕の箱には一通。

《待ったら眠れた。——寝てから読むと、怒らずに済んだ》

私は小さく頷く。睡眠は文明の底力だ。



午後。手の写真展・最終回「欄干の手」

——破線を引く手。

——鈴の尾を測る手。

——三行を板に書く手。

顔はない。あるのは工程と温度だけ。


セラドンが絵の前で足を止める。

「退屈は丈夫だった」

「丈夫は平和に変わりますの」

彼は短く笑った。地下の笑いは、地上に遅れて届く。



夕刻。庁舎前で小さな式。

帰順の橋・本橋を渡った番号たちが、再発防止講の“卒印”をもらう。

L-109の席は、欄干の外のベンチ。

私は彼にだけ紙を一枚渡した。

《読まない勇気・延長札(任意)》

——四十八時間単位で延長可。再接続窓は常に開いている。

彼は受け取り、何も言わなかった。意志は音より長く残る。



夜。事務所の灯りは低く、甘くない。

最後の三行を書く。


〈本日の三行/結語〉

・未熟=違反(番号)の標準化+非参加書式で意志の置き場を確保。

・橋の陰圧/逆流の栓/番号の森はv1.0で安定。

・四杯×13到達——三杯半は街の標準温度になった。


チーノがチョークを置き、メイが小さく拍を打つ。

私は扇を閉じ、笑顔の角度を一度だけ深くする。

紙は夜に乾き、刃は朝に研げる。

欄干は橋を守り、橋は川を越える。

こわやさしいは、勇気の節約の設計図。

そして、泣く人の数は、今日も一、数字で減った。


—完—

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