第19話「最終訂正――“未熟=違反”の標準化」
【前回のあらすじ】
番号の森 v0.9を掲示し、帰順の橋を運用開始。最終梯子 v1.0で求償8割、四杯×11。王太子は最終訂正の草案を明朝に。
◇
朝。王都広場・臨時会見所。
王太子の机上に、二枚の札が並ぶ。
《迷ったら四十八時間》/《読まない勇気》
その脇に一冊。『未熟標準書式 v1.0』。
—番号太、線細、名前黒。撤回権は欄外に小さく、でも消えない。
王太子は紙を見てから、顔を上げた。声は短く、寒天のように崩れない。
「最終訂正を読み上げる。
一、未熟=違反を番号で記録する。情ではなく手順。
二、訂正履歴は版で管理する。1.0→1.1→1.2……見出しは抽象禁止。
三、撤回権と反論窓口を同一場所・同規模で併記する。
四、庶民版・構造図を必ず添付。人名黒、結び目は線で示す。
五、迷ったら四十八時間。読まない勇気も、勇気に含む」
見出しが貼り替わる。
《最終訂正:未熟=違反(番号で)—王都標準へ》
QR魔方陣が二つ回り、庶民版と全文へ飛ぶ。
私は扇を伏せ、笑顔の角度を一度だけ浅くした。
感想は載せない。要件は遅れて効く。
◇
午前。役所通りの掲示替え。
読者の手順 v1.1の横に、新しい小枠。
《見出しの温度・定規》
・禁止:真相/炎上/断罪/若さ
・許容:要件/番号/経路/照合
・推奨:三行要約+庶民版構造図
欄干番の子が破線で角を補修し、メイが雪印をひとつ足す。
「見出しにも欄干ですね」
「落ち見出しで人が落ちますから」
ラモナは“手”だけ撮り、横で囁く。
「退屈見出しは丈夫。広告も慣れてきた」
◇
昼。番号の森 v1.0へ昇格。
幹が太く、枝番が整い、S-19-Kの枝はΩ-3の節に正しく結び直された。
チーノが突合の糸を最後まで通す。
「不一致:二→一、不在:三→一。影の谷が埋まった」
セラドンは薄く笑う。「陰圧は退屈な風だ。だが森は倒れない」
私は帰順の橋・判定札に印を置く。
R-41(伯爵家)=本橋/S-12(影金庫)=本橋/K-β(鍵)=本橋/Ω-3(配合)=本橋。
橋が四方で太く鳴り、石は沈まない。
◇
午後。未熟ログ・標準運用の講習。
王太子室の書記が板書を走らせる。
L系の番号が列になり、要約、対応、訂正版、構造図が並ぶ。
私は短く補足する。
「“若さ”は叩かない。“違反”を番号で直す。
“謝罪”は感情。“訂正”は手順。
“読む”と“読まない”は同じ棚」
若い書記が手を挙げる。
「名前を出したい圧が来たら?」
「札を指す。四十八時間」
「炎上したら?」
「料理にする。湯気の写真は手で撮る」
笑いが少し生まれ、空気の温度が落ちる。講習としては成功だ。
◇
夕刻。市場で小さな逆流。
値上げの紙に抽象見出しが貼られかけた——
〈闇の力で物価高〉
欄干番が走り、禁止語の札を重ねる。
メイが読者UIの小枠を指差す。
「出典2以上?」
「無し」
「箱へ」
四十八時間の札が貼られ、三行の仮掲示へ置換。
・仕入れ上昇:鍵二重運用の初期費
・成果割引:今月二割継続見込み
・次回改定日:○月○日(掲示)
炎は湯気に変わり、列は戻る。
読まない勇気は、街の睡眠を守る手すりになった。
◇
夜。事務所。
チーノが数字を指で弾く。
「求償見込み:八割二分。引受余力:1.70。四杯×12」
メイが三行の板へチョークを走らせる。
〈本日の三行〉
・最終訂正:未熟=違反(番号)を王都標準化/庶民版構造図併記。
・番号の森 v1.0:幹と枝の全突合→橋は本橋に。
・市民UI:見出しの定規導入/炎上→料理、眠りを確保。
備考欄に「四杯×12」。湯気の点が十二、きれいに並ぶ。
私は扇を閉じ、笑顔の角度を一度だけ深くした。
退屈=丈夫は整頓=決着に到達しつつある。
鈴は真ん中、尾は規定秒、音量は十分。
橋は陰圧で静かに息をし、森は欄干でそよがない。
それでも——窓の向こうに一つだけ、薄い影。
L-109:冷却拒否/帰順拒否の石が、欄干の外側で音を立てずに座っている。
書式は橋を架ける。けれど、渡るかどうかは意志だ。
最終話では、意志を手順の中に置く方法を——結語にする。
◇
灯を落とす前、王太子から短文。
《明日、結びを読む。“こわやさしい”の言葉を借りたい》
私は「承りました」と返し、ミントを噛む。
苦味は線を引き、甘さは黒で眠る。
眠りは勇気を節約する。節約した勇気は、朝に使う。
———次回予告(最終話)———
第20話「三杯半の結語――こわやさしい橋」
最終訂正の翌朝、王都は標準温度で目を覚ます。四杯目の指標と番号の森のv1.0、帰順の橋の本橋。最後に残った石へどう欄干を延ばすか。“こわやさしい”は勇気の節約の別名——恋と責任を同じ温度に揃える、短い結び。