第18話「最終梯子――“番号の森”と帰順の橋」
【前回のあらすじ】
橋の陰圧 v1.0稼働。S-19-Kの枝番(薄め油)を遮断、四杯×10。退屈=丈夫は習慣=平和へ。
◇
朝。事務所の大机。
私は扇を伏せ、紙を束ねて一呼吸。
《総構造図:番号の森 v0.9》
地上:R系(求償台帳/裏の倉)、Q系(帰順)、L系(未熟ログ)
地下:S系(影口座)、K系(鍵・鈴)、Ω系(油・配合)
——枝番は葉、幹番は節。人名は黒、番号は太。
メイが雪印を四つ散らす。
「森に道標……欄干は?」
「橋ごとに」
私は新しい札を出す。
《帰順の橋・判定札(暫定)》
一、供述+構造図(本人線の提出)
二、回収協力(実地三巡)
三、再発防止講(受講+実習)
——二点で仮橋、三点で本橋。
チーノが算具を軽く鳴らす。
「橋は重みで落ちる。本橋は太く、仮橋は細く」
◇
午前。王都広場・臨時会見所。
番号の森(庶民版)が大判で掲示された。
線は細、番号太、名前黒。
ラモナが“手”だけ撮る。
「森は顔じゃなく枝が映える」
王太子室も隣に札。
《読まない勇気/迷ったら四十八時間》
《未熟=違反(番号で)》
王太子は短く言う。
「最終梯子は、番号へ掛ける」
◇
——最終梯子:幹番R-41 ⇄ S-12 ⇄ K-β ⇄ Ω-3。
私たちは四本を束ね、朱で足場を塗る。
最初の段。伯爵家金庫(R-41節)。
家令が立つ。
「協力は続ける。白紙の巡回記録は黒で埋める」
「帰順の橋・二点。仮橋を渡れます」
私は印を置く。
仮橋が細い木音を立て、倒れない。
次段。影金庫#S-12(S系幹)。
セラドンは目を細める。
「陰圧は退屈だが、森には風が要る」
「風は三行で吹かせます」
帰順の橋・三点達成。本橋が掛かる。
第三段。鍵具商(K-β)。
若番が仕入帳の黒を朱で埋める。
「改造鈴は全回収。実地三巡も完了」
「帰順の橋・三点」
橋は太く、音は真ん中。
第四段。配合路(Ω-3)。
協会長が立ち、若手が支える。
「第三者保管の照合、月二→三に増やす」
「成果割引は継続。未遂+告発で加点」
橋は合理で渡る。
◇
昼下がり。番号の森の奥に、小さな茂み。
〈L-021/S-19-K-β/Ω-3〉が微細に絡む。
チーノが囁く。「“若さ”を違反に混ぜた古い貼紙の仕入が、薄め油と同じ日付」
ラモナが眉を上げる。
「炎上は調味料に戻せる?」
「特別冷却済。L-021は訂正1.3で固定。——風説は箱へ」
メイが読者UI v1.1の欄に「尾(秒)+油量」を追記する。
読まない勇気の札を横にずらして、眠れる配置に。
◇
午後。帰順の橋・公開聴聞。
橋を渡る者、立ち止まる者。
私は番号だけを呼ぶ。
「Q-077、Q-078……Q-083」
——渡る音は木、止まる音は石。
やがて、一人の石が前に出た。
Ω-3の枝番、笑い方が音にならない男。
「橋は渡らない。義憤だ」
「義憤は手順で温度を下げられます」
「温度は魂じゃない」
「魂は札に疲れない。人は疲れる」
私は帰順の橋の欄を示す。
「二点で仮橋。三点で本橋。あなたは零点。待機は四十八時間」
男は口角を上げ、笑いにならない音を置いた。
「退屈に殺されるぞ」
私は扇を閉じる。
「退屈=丈夫。死ぬのは炎上です」
石は動かず、仮橋は揺れもしなかった。
未熟ログに番号が追加される。L-109:冷却拒否/帰順拒否。
名前は黒。番号は太。構造図に細線が一本足され、橋の上には誰も落ちなかった。
◇
夕刻。森の手前で、庶民版の読み方講座。
燕が箱の上に立って言う。
「“尾”と“音量”、“油”と“鍵”。——三語覚えれば通報が手順になる」
子どもたちの耳当てが並び、欄干番の腕章が鈍く光る。
ラモナが“手”を撮り、広告は退屈を嫌がらなかった。
◇
夜。最終梯子の清書。
『求償の最終梯子 v1.0』
一、被害者→従事者→加害側返還の陰圧支給
二、橋の判定(二点=仮橋/三点=本橋)
三、逆流の栓(鈴・鍵・箱 連動)
四、番号の森で全突合(地上/地下)
五、迷ったら四十八時間/読まない勇気
メイが庶民版に絵を入れる。
森に橋、橋に欄干、欄干に破線。
「かわいすぎず、怖すぎず」
「眠れます」
チーノが数字を並べる。
「求償見込み:八割。引受余力:1.68。四杯×11」
私は三行の板へ。
〈本日の三行〉
・番号の森 v0.9掲示:線細/番号太/名前黒。
・帰順の橋運用開始:二点仮橋/三点本橋。
・最終梯子 v1.0:陰圧支給+逆流の栓+全突合→求償8割。
メイが「四杯×11」を備考欄に書いて、チョークを置く。
湯気の数字は、今日も眠りの見出しだ。
◇
灯を落とす前、王太子室から短文。
《最終梯子、承認。——最終訂正の草案を明朝》
私は扇を閉じ、ミントを噛む。
苦味は線を引き、甘さは黒で眠る。
鈴は真ん中、尾は規定秒、音量は十分。
橋は陰圧で息をし、森は欄干で揺れない。
退屈=丈夫が整頓=決着へ。
泣く人の数は、また一、数字で減る。
———次回予告———
第19話「最終訂正――“未熟=違反”の標準化」
王太子が最終訂正を読み上げる。未熟は番号で記録され、撤回権と照合は王都標準に。番号の森はv1.0へ、帰順の橋は本橋が増える。炎上は料理で終わり、習慣=平和が街の温度になる。