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第18話「最終梯子――“番号の森”と帰順の橋」

【前回のあらすじ】

橋の陰圧 v1.0稼働。S-19-Kの枝番(薄め油)を遮断、四杯×10。退屈=丈夫は習慣=平和へ。



朝。事務所の大机。

私は扇を伏せ、紙を束ねて一呼吸。


《総構造図:番号の森 v0.9》


地上:R系(求償台帳/裏の倉)、Q系(帰順)、L系(未熟ログ)


地下:S系(影口座)、K系(鍵・鈴)、Ω系(油・配合)

——枝番は葉、幹番は節。人名は黒、番号は太。


メイが雪印を四つ散らす。

「森に道標……欄干は?」

「橋ごとに」

私は新しい札を出す。


《帰順の橋・判定札(暫定)》

一、供述+構造図(本人線の提出)

二、回収協力(実地三巡)

三、再発防止講(受講+実習)

——二点で仮橋、三点で本橋。


チーノが算具を軽く鳴らす。

「橋は重みで落ちる。本橋は太く、仮橋は細く」



午前。王都広場・臨時会見所。

番号の森(庶民版)が大判で掲示された。

線は細、番号太、名前黒。

ラモナが“手”だけ撮る。

「森は顔じゃなく枝が映える」


王太子室も隣に札。

《読まない勇気/迷ったら四十八時間》

《未熟=違反(番号で)》

王太子は短く言う。

「最終梯子は、番号へ掛ける」



——最終梯子:幹番R-41 ⇄ S-12 ⇄ K-β ⇄ Ω-3。

私たちは四本を束ね、朱で足場を塗る。


最初の段。伯爵家金庫(R-41節)。

家令が立つ。

「協力は続ける。白紙の巡回記録は黒で埋める」

「帰順の橋・二点。仮橋を渡れます」

私は印を置く。

仮橋が細い木音を立て、倒れない。


次段。影金庫#S-12(S系幹)。

セラドンは目を細める。

「陰圧は退屈だが、森には風が要る」

「風は三行で吹かせます」

帰順の橋・三点達成。本橋が掛かる。


第三段。鍵具商(K-β)。

若番が仕入帳の黒を朱で埋める。

「改造鈴は全回収。実地三巡も完了」

「帰順の橋・三点」

橋は太く、音は真ん中。


第四段。配合路(Ω-3)。

協会長が立ち、若手が支える。

「第三者保管の照合、月二→三に増やす」

「成果割引は継続。未遂+告発で加点」

橋は合理で渡る。



昼下がり。番号の森の奥に、小さな茂み。

〈L-021/S-19-K-β/Ω-3〉が微細に絡む。

チーノが囁く。「“若さ”を違反に混ぜた古い貼紙の仕入が、薄め油と同じ日付」

ラモナが眉を上げる。

「炎上は調味料に戻せる?」

「特別冷却済。L-021は訂正1.3で固定。——風説は箱へ」


メイが読者UI v1.1の欄に「尾(秒)+油量」を追記する。

読まない勇気の札を横にずらして、眠れる配置に。



午後。帰順の橋・公開聴聞。

橋を渡る者、立ち止まる者。

私は番号だけを呼ぶ。

「Q-077、Q-078……Q-083」

——渡る音は木、止まる音は石。

やがて、一人の石が前に出た。

Ω-3の枝番、笑い方が音にならない男。


「橋は渡らない。義憤だ」

「義憤は手順で温度を下げられます」

「温度は魂じゃない」

「魂は札に疲れない。人は疲れる」

私は帰順の橋の欄を示す。

「二点で仮橋。三点で本橋。あなたは零点。待機は四十八時間」

男は口角を上げ、笑いにならない音を置いた。

「退屈に殺されるぞ」

私は扇を閉じる。

「退屈=丈夫。死ぬのは炎上です」


石は動かず、仮橋は揺れもしなかった。

未熟ログに番号が追加される。L-109:冷却拒否/帰順拒否。

名前は黒。番号は太。構造図に細線が一本足され、橋の上には誰も落ちなかった。



夕刻。森の手前で、庶民版の読み方講座。

燕が箱の上に立って言う。

「“尾”と“音量”、“油”と“鍵”。——三語覚えれば通報が手順になる」

子どもたちの耳当てが並び、欄干番の腕章が鈍く光る。

ラモナが“手”を撮り、広告は退屈を嫌がらなかった。



夜。最終梯子の清書。

『求償の最終梯子 v1.0』

一、被害者→従事者→加害側返還の陰圧支給

二、橋の判定(二点=仮橋/三点=本橋)

三、逆流の栓(鈴・鍵・箱 連動)

四、番号の森で全突合(地上/地下)

五、迷ったら四十八時間/読まない勇気


メイが庶民版に絵を入れる。

森に橋、橋に欄干、欄干に破線。

「かわいすぎず、怖すぎず」

「眠れます」


チーノが数字を並べる。

「求償見込み:八割。引受余力:1.68。四杯×11」


私は三行の板へ。


〈本日の三行〉

・番号の森 v0.9掲示:線細/番号太/名前黒。

・帰順の橋運用開始:二点仮橋/三点本橋。

・最終梯子 v1.0:陰圧支給+逆流の栓+全突合→求償8割。


メイが「四杯×11」を備考欄に書いて、チョークを置く。

湯気の数字は、今日も眠りの見出しだ。



灯を落とす前、王太子室から短文。

《最終梯子、承認。——最終訂正の草案を明朝》

私は扇を閉じ、ミントを噛む。

苦味は線を引き、甘さは黒で眠る。

鈴は真ん中、尾は規定秒、音量は十分。

橋は陰圧で息をし、森は欄干で揺れない。


退屈=丈夫が整頓=決着へ。

泣く人の数は、また一、数字で減る。


———次回予告———

第19話「最終訂正――“未熟=違反”の標準化」

 王太子が最終訂正を読み上げる。未熟は番号で記録され、撤回権と照合は王都標準に。番号の森はv1.0へ、帰順の橋は本橋が増える。炎上は料理で終わり、習慣=平和が街の温度になる。

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