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第17話「地下の新番号――S-19-Kの根と“橋の陰圧”」

【前回のあらすじ】

止み際短縮=改造鈴を特定。逆流の栓 v1.0で鈴・鍵・箱を連動、市民UIはv1.0へ。四杯目は9世帯に。



朝。南門監査端末。

チーノがグラフを示す。「S-19-K、表層は静か。でも根がある」

根=影口座への細い吸い込み。数字は小さく、連続している。


「橋に陰圧をかけます」

私は扇を伏せ、紙を二枚並べた。


『橋の陰圧(試行 v0.9)』

一、支払い順序の反転(被害者→手順従事者→加害側返還)

二、段階支給(分割×短期)で合法的な“引き寄せ”を作る

三、止水栓の前後に小窓(照合済みの微額還流のみ許容)

四、音監視と番号突合を常時

——吸い上げで、逆流を止める


「押すだけじゃなく、引く」

メイが頷き、雪印を一つ描いた。



午前。影金庫#S-12。

セラドンは目を細める。「陰圧? 金に肺はない」

「流れはあります。返済熱が冷えた所へ、温かい支給を刻みで落とす。番号で引く」

私は段階支給表を示す。

被害者:週払い→月末清算/従事者:聴聞から48h以内の手当/加害側返還:供述→回収→陰圧口座へ

「鈴は真ん中、止み際は規定秒。音の不在は即遮断」


セラドンは短く笑った。「退屈だな」

「退屈=丈夫。地下でも同じ」



昼前。供給者協会・月末判定。

若手が胸を張る。「未遂告発三件、全件記録、実地演習三巡」

協会長の押印が二度鳴る。

「——成果割引 二割継続」

チーノが算具を弾く。

「求償見込み:七割八分→七割九分。引受余力:1.64→1.66」

メイが掲示に丸をつける。「四杯目は?」

「十世帯へ」

「備考欄に“四杯×10”」



午後。市民UI v1.1。

【音】半音/止み際/不在+「尾の長さ(秒)」

**【鍵】**二人運用チェックボックス

【橋】“陰圧支給”の説明リンク(三行)


・押す+引くで逆流を止める

・支給は刻み、照合は連続

・迷ったら四十八時間


「読まない勇気の札も横に」

メイが並べる。読者の手順と読まない勇気は、表裏の栞だ。



王太子室。

机端に先行冷却札が二枚並ぶ。

《迷ったら四十八時間》/《読まない勇気》

王太子は短く言う。

「陰圧、公庫にも合わせる。週払い→月末清算。番号で記す」

「未熟は違反、陰圧は設計。——情は札へ」


法務補佐が「撤回権」の欄を指で叩く。

「週払い掲示にも撤回を入れる」

「入れます」



夕刻。南門の風。

鈴が二度鳴り、止み際は規定秒を保つ。

だが端末に新しい記号。

〈S-19-K-β〉——枝番。尾は正常、音量が僅かに低い。

チーノが眉をひそめる。「油が変わった?」

鍵具商組合へ走る。老職人は即答した。

「薄め油だ。音は静か、軸は早く摩耗。帳簿が止まりやすくなる」

静かな逆流。

私は陰圧の小窓に摩耗検知を足した。


『橋の陰圧 v1.0』追記

・音量の閾値/摩耗指数で遮断

・薄め油使用の仕入帳を第三者保管


「静けさは嘘になる。——静かすぎたら止める」



夜。欄干番の巡回に耳当てが支給された。

「尾と音量の両方でチェック」

子どもたちは真面目に頷き、破線を重ね貼りして走る。

ラモナが写真を一枚。耳当てを持つ手。

「退屈の記録は続編が利く」



聴聞・短期。

鍵具商若番、運河茶店主、協会若手。

「薄め油の納入先を供述すれば、帰順加点」

若番は頷き、仕入帳の黒を朱で埋めた。

「匿名は黒でいい。番号は太で出す」

「了解」


橋の陰圧が回りだすと、影口座の小さな吸い込みが地上へ戻り、段階支給が被害者の月末清算で太くなる。

湯気が増え、皿が減らない。



深夜。三人で静かな帳簿。

チーノが指先で数字を並べる。

「回収:七割九分。引受余力:1.66。四杯目×10」

メイが三行を走らせる。


〈本日の三行〉

・橋の陰圧 v1.0:押す+引くで逆流抑止/段階支給開始。

・S-19-K-β:薄め油による静かな逆流→摩耗検知で遮断。

・月末判定:割引2割継続/内部告発加点/四杯×10。


私は扇を閉じ、笑顔の角度を一度だけ深くした。

退屈=丈夫は習慣=平和に馴染み、鈴の止み際は街の眠りの長さになっていく。


窓の外、半音ではない一音。

尾は規定秒、音量は十分。

橋は陰圧で、静かに息をしている。


———次回予告———

第18話「最終梯子――“番号の森”と帰順の橋」

 S-19-Kの枝番は番号の森へつながっていた。地上/地下の全番号を構造図で束ね、求償の最終梯子を掛ける時。帰順の橋を渡れる者、渡れない者。退屈=丈夫から決着=整頓へ。

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