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第15話「標準温度――“読者の手順”と街の眠り」

【前回のあらすじ】

特別冷却(48h+48h)で“古い噂”は料理になった。庶民版・構造図は欄干として定着。四杯目は7世帯、求償見込み7割6分。



朝。掲示板の前。

私は扇を伏せ、紙の角をそろえる。


《読者の手順(市民UI・暫定)》

1)通報:出典2以上 or 目撃+時刻印

2)待機:迷ったら四十八時間(抽象見出し禁止)

3)照合:反論窓口/構造図の素案

4)公開:名前は黒、番号は太、三行要約

——怒りは箱へ(冷却預かり)/同意・撤回の選択肢


メイが端に小さな雪印を描く。

「“読者”側にも冷蔵庫、ですね」


「眠れる街は、良い読者から」


ラモナが横でメモを走らせる。「UIは料理本に似てるわね」



午前。市場で“ちいさな逆流”。

露店の値上げが炎上しかけている。


「値上げ=悪!」

「転売だ!」

声が熱い。紙はまだ冷たい。


私は読者の手順の札を掲げる。

「通報の要件は?」

「出典……“うわさ”」

「箱へどうぞ。四十八時間」


メイが冷却預かりに入れ、チーノが照合を回す。

——原材料の仕入れが成果割引の条件で一時変更、鍵の二重保管導入費が一時的に上乗せ。構造図でわかる。


露店主が頭を下げる。

「二ヶ月後には元に近づける。成果割引の二割が出れば」


私は頷く。

「見える得が値札を下げる。待つのも手順」


炎は湯気へ移り、客は列に戻った。

——読者の手順、初勝利。



昼前。欄干の保守。

“欄干番”と書かれた腕章の子らが、破れた掲示を破線で補修する。

「破線は羞恥を呼ばない線」

メイが笑う。

ラモナは写真を一枚。顔は撮らず、手だけ。


〈手の写真展・補遺〉

——貼る手、はがす手、重ね貼る手。



正午。供給者協会、成果割引(二ヶ月目・中間)。

若手が胸を張る。「無事故継続! 抜き打ち二回クリア!」

協会長が一枚の紙を差し出す。

「——一件だけ、偽番を未遂。内部告発で未然」


私は但し書きを指で叩く。

「割引停止せず、教育猶予を一週延伸。告発は帰順加点」

チーノが算具を弾く。

「求償見込み、七割六分→七割七分。引受余力1.61→1.62」


「退屈=丈夫」

セラドンではない別の老人がぽつりと言い、皆が苦笑する。

合言葉は、ゆっくり広がるほど効く。



午後。王太子室。

“読者の手順”の庶民版も掲示することに。

王太子は短く言う。

「政治にも読者がいる。待機を覚える」


「眠りが勇気を節約しますの」


「未熟ログは番号で増える。“若さ”は叩かない」


——会話は短く、紙は長持ちする。



夕刻。南門の監査端末が小さな数字を吐いた。

〈影口座 新芽:S-19-K〉

チーノが目を細める。

「“K”は鍵回りの記号。鈴の交換履歴に穴」


メイが耳を澄ます。

——鈴の音は真ん中。だが、止み際が短い。

私は扇を倒す。

「番号を欄干に。市民UIにも“鈴の止み際”の項目を追加」


《読者の手順 v0.91》

・音:半音/止み際/不在の三択

・鍵:二人運用でなかった目撃

——通報→待機→照合は同じ。


ラモナが小声で問う。

「記事には?」

「見出しは**“新芽”、本文で番号**。甘さを黒に」



夜。事務所。

メイが三行の板にチョークを走らせる。


〈本日の三行〉

・読者の手順運用開始:通報→待機→照合→公開/怒りは箱へ。

・成果割引 Month2:未遂は告発加点/引受余力1.62。

・南門:S-19-K検知/止み際監視をUIに追記。


「四杯目は?」

「8世帯」

「備考欄に“四杯×8”」


湯気の数字は、夜の眠りを温める。


チーノが壁の札を指す。

《迷ったら四十八時間》

私は頷き、扇を閉じた。

「読者にも、四十八時間。読まない勇気も、勇気」


窓の外で、鈴が一音。半音ではない。

止み際は、ほんの少しだけ長くなった。


———次回予告———

第16話「逆流の栓――S-19-Kと“止み際”」

 S-19-Kの止み際を追う。読者の手順は市民UI v1.0へ昇格、欄干番は夜間巡回を開始。成果割引は月末判定、未遂告発の加点が効くか。地下の新芽は地上の番号と結びつき、逆流の栓が試される。退屈=丈夫から習慣=平和へ。

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