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第14話「特別冷却――料理まで待つ」

【前回のあらすじ】

庶民版・構造図で欄干が増え、成果割引は初月で二割減。だが蜂蜜に古い噂の種。——48h+48hの特別冷却へ。



朝。事務所の掲示板。


《特別冷却プロトコル(暫定 v0.9)》

・待機48h→照合→待機48h

・同意/撤回権/黒塗り範囲(本人選択)

・庶民版構造図の添付(名前黒・番号太)

・見出しは抽象語禁止(※“真相”不可)


「見出しから熱が出ますから」


私が言う。

メイはうなずき、角に小さな雪印を描いた。


「氷室、開けます」



蜂蜜通信社・資料室。

古本屋から届いた**“黒塗りの前”**の写しは、甘く、熱い。紙は古く、角は丸い。


ラモナが両手を上げる。


「48h入れます。三点は?」


「同意、撤回、構造。順に」


私は扇を伏せ、チェックリストを配る。


《三点チェック》


同意書(本人直筆+魔素印)


撤回権(期限・方法)


構造図(関係線・影響範囲)


若手記者が手を挙げる。


「名前は?」


「黒。番号で語る」


ラモナは短く笑う。「退屈=丈夫、ね」



午前。古本屋〈砂時計堂〉。

店主は紙手袋をはめ、低い声で言う。


「原本はない。写しだけ。寄贈者は匿名」


「寄贈簿を」


私は紙粉の向きを見て、印泥の圧を触る。

——北区修道会の写字生。日付は王太子の婚約以前。


チーノが眉を上げる。


「熱の源温が違う。恋の温度と政治の温度が混合」


「分留しましょう。料理は鍋を分ける」



昼。修道会の書庫。

写字生は頬を赤くし、視線を落とした。


「写しました。許可は……情だけで」


「情は違反ではない。手順へ引き上げます」


私はテンプレートを差し出す。


《私信写し・同意補完書》

・本人/写字者/仲介

・黒塗り範囲(本人選択)

・撤回権(期限・通知先)

・公開目的(公益/検証)


「本人に送る。黒は本人が塗る」


写字生は深く頷いた。



王都の別邸。

本人——かつての筆者(令嬢)は、驚くほど静かだった。


「黒は、ここ」


彼女は愛と嘆きを迷わず塗り、要件だけを細く残す。

——贈与の辞退、面会の拒絶、婚前条件の確認。


「番号で足りますわ」


「足ります。番号は逃げ場じゃなく、欄干」


私は撤回権の欄を指さす。


「二ヶ月、撤回可。用途限定つき」


令嬢は署名し、魔素印を落とした。

甘さは紙の外にこぼれ、熱は黒で眠った。



特別冷却・一回目48h終了。

蜂蜜の編集卓で、三点照合の捺印が並ぶ。


「見出し、どうする?」


若手が尋ねる。

ラモナは迷いなく書く。


《贈与辞退と条件確認――番号で読む“手紙の外側”》


「料理の前置き」


彼女はペンを置き、二回目48hのタイマーを押した。



同時刻。王太子室。

未熟ログの脇に小札。


《先行冷却・札》

迷ったら四十八時間/番号で直す/兼任禁止の自己申告


王太子は札を掲げ、短く言った。


「二回目の待機へ」


「承りました」


私は構造図の庶民版を添える。

人名黒、矢印は細く、番号は太く。



夕刻。寮費基金・分配。

列は短いが、湯気は高い。


「四杯目、七世帯」


メイが掲示に丸をつける。

チーノが小声で足し算をする。


「LRI、胃の重みを0.37→0.38に。——湯気の高さで補正」


私は頷く。


「統計に香りを」



夜。燕の箱に、一通。

《“古い噂”を待つのが苦しい。——でも、待ったほうが眠れた》


「眠れるは正義」


私は扇を閉じる。

ラモナから短文。


《見出し、差し替え可:“料理まで待つ”の注釈つける》


「注釈は欄干の小枝」


メイが笑う。



二回目の48hが明ける朝。

蜂蜜の一面は、料理の火加減で出た。


《贈与辞退は確認/恋の文言は黒――番号で追う“未熟ログ#021”》

下段に庶民版構造図、隣に撤回権の欄、そして三行要約。


・甘さは黒、要件は細線

・番号で経路、人名は黒

・料理は火加減、公開は温度


人垣は静かで、拍だけが続いた。


王太子室からも掲示。


《公式訂正 1.3》

・“価値観の相違”→“贈与辞退と条件確認(疎明済)”へ置換

・未熟#021:手順3違反→先行冷却で再発防止

・撤回権:有効


「番号は歩道」


私は小さく言う。

歩道があると、誰かが走らなくてよくなる。



午後。影金庫#S-12 実習・二回目。

助手が鈴を揺らし、セラドンが封印写しを整える。


「退屈に慣れてきた」


助手が照れ笑い。

セラドンは目を細める。


「退屈=丈夫。——君の合言葉は、意外に商いに効く」


「商いは睡眠が命ですの」



夕刻。三行の板。


メイが書く。


〈本日の三行〉

・特別冷却:48h+48h完了/三点照合/庶民版構造図添付。

・公式訂正1.3:贈与辞退を明示、未熟#021を番号管理。

・四杯目:7世帯到達、LRI微修正(胃0.38)。


「引受余力?」


チーノが指を弾く。


「1.61倍。求償見込み七割六分。地下は横ばい、地上は改善」


「備考欄に“四杯×7”」


書く音が軽い。



夜。

王太子が短い紙を寄越す。


《“特別冷却”で助かった。

——“迷ったら四十八時間”の札、私室にも貼った》


私は扇を閉じ、笑顔の角度を一度だけ深くした。

札は魔法ではない。けれど、勇気を節約する。


窓の外で、鈴が一音、真ん中で鳴った。

氷室の扉は閉じ、冷蔵庫は淡く灯る。

炎上は料理になり、噂は惣菜になった。

食卓に並べる前に、温度をそろえるだけの話だ。


———次回予告———

第15話「標準温度――“読者の手順”と街の眠り」

 庶民版構造図と三行が街に定着。今度は受け手側の手順――“読者の手順”を整備する。通報→待機→照合の市民UI、欄干の保守、そして成果割引の二ヶ月目。その裏で、南門の影に新しい番号が芽を出す。退屈=丈夫、次は習慣=平和へ。

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