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第13話「欄干の街――庶民版構造図と“退屈=丈夫”」

【前回のあらすじ】

影金庫#S-12に監査式を適用。鈴は戻り、帰順減免開始。街には**「迷ったら四十八時間」**の札。——温度は下がり、三杯半は増えた。



朝。掲示板の前。


「——出たね、庶民版・構造図」


ラモナが指で示す。太い線。黒塗り。三行要約。


未熟=違反(番号で)

名前は黒、番号は太字

構造図で“結び目”を見る


「欄干が、一本増えた」


私が言う。

メイは頷く。「落ちにくい、です」


「炎上が料理になるの、好き」


ラモナがスマホ板をしまう。



供給者協会。初月の“成果割引”採点。


「無事故、達成。抜き打ち照合、二回クリア。再発防止講、受講済み。鍵二重——」


若手の声が明るい。


「——二割減、適用」


私が印を置く。

協会長が低く笑う。


「見える得は、口論を減らす。数字で殴られたほうが、まだ楽だ」


「殴りません。欄干です」


チーノが補足する。「逆流は止水栓。番号突合も継続」


「了解」



路地裏〈燕〉。冷却預かり箱が重い。


「今日の中身、感謝五、小言七、脅しゼロ」


メイが札を数える。


「ゼロがいい」


私が扇を倒す。


「“若さ”=殴らない、“違反”=番号で直す**。——箱の蓋に貼っておく?」


「貼ろう。迷ったら四十八時間も並べて」


燕が短く笑い、太字で書いた。



王太子室。未熟ログの庶民版チェック。


「ここ、“#017”の構造図。線が太すぎると、羞恥が戻る」


「なら、破線。要件は残す」


王太子は素早く了承する。

見上げない。紙を見ることを覚えた顔。


「勇気は節約。迷ったら四十八時間——室内にも下げます」


「承りました」



昼。広場の端で、手の写真展・第二弾。


——二人で持つ鍵束。

——訂正に二重線を引く手。

——鍋の湯気をすくうお玉。


「顔がない写真、広告が嫌わない」


ラモナが肩で笑う。


「氷室も嫌わない」


私が返す。

メイは白ペンで三行を添える。


“二重線”は丈夫

“鍵束”は二人

“湯気”は生活



寮費基金・分配窓口。行列は短い、書類は軽い。


「次の方、三杯半→四杯目。移動費、今月ぶん確保」


「ありがとうございます」


受け取りの手が震える。

私は短く頷く。


「備考欄に“四杯”」


メイが書く。

チーノがLRIを更新する。


「胃を0.35→0.37に微修正。現実が追いついてきた」



午後。影金庫#S-12、実習・一回目。


助手が鈴を示す。「音、真ん中。布、使わない」


「使うなら、待機札を先に」


私が“迷ったら四十八時間”を掲げる。

セラドンは無表情で見て、ようやく言う。


「……退屈だ」


「退屈=丈夫」


ラモナのメモがカサリと鳴る。



そのころ——蜂蜜通信社、夕刊前。


若手記者が駆け込む。「古い噂の種、拾いました!」


「どこから?」


「西区の古本。——『黒塗りの前』の写し」


ラモナが息を止める。

“黒塗りの前”。私信の原文に近い何か、ということ。


「温度は?」


「熱い。甘い。名前あり」


ラモナは目を伏せ、そして顔を上げる。


「冷蔵庫。四十八時間。照合を三点」


若手は頷き、足早に去った。



夕刻。事務所。三行の板。


「いきます」


メイがチョークを持つ。


〈本日の三行〉

・成果割引:初月集計→二割減、合意定着。

・庶民版構造図:欄干増設、破線で羞恥を回避。

・影金庫:実習開始、“退屈=丈夫”定着。


「引受余力は?」


チーノが指で弾く。「1.59倍。求償見込み7割5分据え置き。四杯目は6世帯」


「備考に“四杯×6”」


書き込み音が軽い。



そこへ、蜂蜜から短文。


《古い噂、照合中。甘さ強い。氷室を開ける可能性》


私は息を整える。

扇を閉じる。笑顔の角度は零度。


「開ける?」


メイが問う。

私は首を横に振る。


「開ける前に、札。“同意・撤回・構造図”——三点確認」


チーノが即座に式を書く。


噂温度 −(同意+撤回+構造)= 公開可否


「温度が残ったら?」


「冷凍庫だ」


私が言うと、メイが目を丸くする。


「氷室より低い……?」


「48h+48h。——特別冷却」


ラモナから、もう一通。


《特別冷却、了承。見出しは**“料理まで待つ”**》


「助かる」


私は短く返し、棚から紙を三枚。

『特別冷却プロトコル(案)』

・48h待機→照合→48h待機

・関係者同意/撤回権明記

・庶民版構造図と黒塗り範囲の本人選択


——貼る前に、扉が二度、叩かれた。


王太子が立っている。従者はいない。


「古い噂の件、聞いた」


「特別冷却に入れます」


私が示す。

王太子は、紙を見て、頷く。


「番号で私を縛ってくれ」


「未熟は違反。番号は欄干。落ちないために、あります」


彼は目を細め、笑いそうで、笑わない。


「四十八時間、二回ね」


「——二回」



夜。窓の外で鈴が鳴る。半音ではない。

メイが毛布を肩にかける。


「仮眠条項、三十分」


「十足りない」


「魔法」


薄い笑い。短い眠り。


——そして、明け方。氷室の鍵が、静かに回る音。



【次回予告】

第14話「特別冷却――料理まで待つ」

古い噂は甘い。名前は黒へ、番号は太字へ。48h+48hの特別冷却で温度を落とし、同意・撤回・構造図の三点で欄干を増やす。退屈=丈夫は保てるか。四杯目は7へ。氷室の扉の向こうで、恋と責任は同じ温度になる——はず。

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