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第1話:香りの導き

私は匂いで嘘を嗅ぎ分ける。

市場の魚と書物の紙の香り、夜毎に漂う隣家の鍋の匂いまで、すべて記憶している。後宮の薬房は狭く、柱に刻まれた年の数だけ薬罐が並ぶ。そこに、半月前、古い処方箋が一枚届いた。糸で綴じられた紙切れは、ただの紙ではなく、過去の記憶が香りとして残っている――墨の香り、糸の香り、そして古い硝子のような薬の匂い。


「誰が送ったのかね、杏?」

蔵六の声が薬棚の向こうから響く。普段は穏やかな師匠が、指先をわずかに震わせていた。


その夜、瑠璃が倒れた。皇后付きの女官で、宮中でも人気者だ。枕元に置かれた香袋を嗅ぐと、甘く、そして鉄のような金属臭が混じる。普通の薬なら症状と一致する。しかし、これは普通ではなかった。


後宮で「普通」は命取りになる。

私は薬を調合し、匂いを嗅ぎ、嘘を見破る。杏の務めは、病を癒すだけではない――匂いに導かれ、誰かの嘘に踏み込むことだ。


夜の帳が降りる中、私は小さな薬罐を抱え、香袋の真相へと足を進めた。匂いが、私を事件の核心へと導く。

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