終話 再会と真実
柔らかな風が吹いていた。
白くふわふわとした草原がどこまでも続き、空は透き通るほど澄んでいる。
バイレンは、穏やかに目を開けた。
痛みも、重さも、空腹も、何一つ感じない。ただひたすらに、安らかだった。
「……ここは」
立ち上がると、足元の大地がまるで雲のように柔らかいことに気づいた。
遠くで鳥のようなものが舞い、清らかな水音が聞こえる。
「ようやく、目覚めたか」
懐かしい声がした。振り返ると、そこには――
ホーレックがいた。
何も変わっていなかった。あの時と同じ、白銀の髪、透き通る瞳、どこか儚げな微笑。
だが、今の彼には、確かな“温度”があった。
「……遅いじゃないか。どれだけ待たせるんだ」
バイレンはそう言って、ゆっくりと歩み寄る。
ホーレックもまた、同じように近づいてくる。
「悪かった。でも……お前が“呪いを越えて”辿り着くまで、俺はここで待つと決めていた」
ふたりの距離が、手の届くほどになった。
バイレンは、ゆっくりとその腕を伸ばす。
そして――
「ただいま」
「ああ。おかえり」
抱きしめ合った。
バイレンの目から、涙が一粒、二粒とこぼれていく。ホーレックの背中に手をまわし、その存在を確かめるようにぎゅっと力を込めた。
「俺は……本当に、幸せだったよ」
「……ありがとう。お前がそう言ってくれて、本当に嬉しい」
しばしの静寂のあと、ホーレックが口を開いた。
「バイレン。俺がかけた“呪い”……その真実を、話さなければならない」
バイレンは静かに頷いた。
「あれは、呪いの形をした――祝福だったんだ」
「……祝福?」
「本来の死神には禁じられた術だ。魂に“試練”を与えることで、真に幸福な生き方へ導く。だが、それは誰にでも使えるものじゃない。“自分で乗り越える意思”を持った者にしか、届かない力なんだ」
ホーレックはバイレンの瞳を見つめる。
「お前なら、乗り越えられると……信じていた」
「……ああ。乗り越えたさ。長い道のりだったが……その中で、たくさんの人と出会い、たくさんの“ありがとう”をもらった。それこそが、俺の幸福だった」
「その言葉が聞けて、よかった」
ふたりは草原に腰を下ろし、空を仰いだ。
雲一つない、果てしない蒼空。
その広さは、生前の苦しみを包み込むように静かで、温かい。
「なあ、ホーレック。これからは、ずっと一緒にいられるのか?」
「……ああ。今度こそ、どこにも行かない」
「それなら、もう何もいらないよ」
肩を並べて笑うふたりの姿は、どこまでも優しかった。
そして、空の高みに一筋の光が走る。
――それはまるで、呪いという名の試練を越えた魂に贈られる、祝福の証のようだった。
完