第56話 異世界現代飯
「マサトさん思ったんですけど、人生の書庫ってどのタイミングで使うんですか?」
ダンジョンを抜けしばらくたった頃、ユーリンがふとした疑問を口にした。
「え?そりゃあ………。て、敵の情報を得るとか?」
突然の質問にマサトは不意を突かれ、必死に頭を回転させて苦し紛れの答えを口にした。しかし、それでもユーリンの疑念を拭うことはできなかった。
「ですが、多くの場合、遭遇した時点で即座に戦闘が始まるので、仮に敵が名乗ったとしても、その場で調べる余裕はないと思います。多対一の協力戦だとしても使える場面も限られてくると思います。相手が親玉となる強力なモンスターであっても、個々に固有の名前あるとは考えにくいですし、調べる以前に福神さんの知識があるのでそもそも必要ないと思います。一番出番のありそうな七花軍師との戦いについて考えても、もし名前に「七つの大罪」に対応する花言葉を持つ花の名称が含まれている、という推測が正しいのであれば、それは本名ではなく、意図的に用意された偽名である可能性が高いと思いますよ。」
マシンガンのようなユーリンの論破に、反論する隙はなく、マサトはただ穏やかな顔をしながら相槌を打つことしかできなかった。
「……どうしよう。ぐぅの音も出ない……!」
「まあ、使う機会はほとんどないかもしれないが、持っていて損はないと思うぞ。それに「人生の書庫」の強みは、本来なら決して知り得ない情報を過去から引き出せることだ。それを活かせる場面は、戦闘だけに限らないはずだ。例えば何か交渉する時とか…。」
言葉の力でボコボコにされているマサトを見かねて、福神がフォローを入れた。それを聞いて、ユーリンは納得したように頷いた。
「そんなことよりオイラお腹すいた……。」
「テメーが言うな!!食料のストックどころか非常食まで食いやがって!!テメーのせいで俺達ここ数日まともに飯喰えてねーんだからな!!」
マサトは空っぽになった保存袋をチャムに突きつけ、空腹の恨みを爆発させた。
「福神さん………。ここら辺に街とかあったりしません?」
「あるぞ。」
「あるのかよ!!」
ユーリンの弱々しい問いかけに、福神はあっさりと即答した。その返答に驚いたマサトは、取っ組み合いの喧嘩をしていたチャムを放り投げた。
「さっき千里眼使ってたまたま見つけた。そんでもって現在位置も何となくわかった。」
「何気にお前戦闘以外なら普通に有能だよな。」
「まあ、生まれてから約400年、伊達に知識を詰め込んできたわけじゃないからな。」
マサトに素直に褒められた福神は、脳を指すように自分の頭を軽く叩き、誇らしげにドヤ顔を決めた。
「福神!!そこに美味しいご飯屋さんはあるのか!!?」
食い意地の力を使い、意地でも戻ってきたチャムが食い気味に詰め寄ると、福神は一拍置いてから、芝居がかった仕草で腕を広げた。
「…っ、ふ。喜べ、お前ら。今、ワイらが向かっているのは――美食の街【デレシャシア】!!転生者とこの世界の住民、その知識が融合したことで、超絶にうまい料理が次々と生み出された街だ!!今やこの世界で、マサトの世界の料理が当たり前のように存在しているのも、すべてはこの街を起点に広まっていったからだ!!」
福神のプレゼンを聞いた三匹は、溢れんばかりによだれを垂らしながら、頭の中でそれぞれ食べたいものを思い描いた。
「マジかよ!寿司あるかな!?俺久しぶりに寿司食べたい!!」
「自分は、お酒に合う料理が食べたいです!!」
「オイラは!!………ユーリn、油淋鶏!!」
「食べたい」という本能が限界を突破し、一同のボルテージは最高潮に達した。空腹で枯れていたはずの力は、希望によって回復し、満腹のとき以上の元気を取り戻していた。
「よっしゃぁぁぁぁああああ!!じゃあおめーら行くぞ!!福神!!デレシャシアまであと何キロだ!!?」
「10キロちょい。」
「「「……………。」」」
福神に一気にテンションを上げられ一気に下げられた一同は、怒りと憎悪を含んだ目で福神を睨みつけた。
数十分後――。
飢餓の力を味方につけたマサトたちは、あれから全力疾走で止まることなく美食の街『デレシャシア』へとやってきた。
「やってきました。デレシャシ――。」
「飯ィィィィィイイイイ!!!」
活気あふれる街の門をくぐり抜けるなり、マサトたちは脱兎のごとく大通りへ消えていった。
「……【窃盗魔法】」
飯屋に向かって走り出した仲間たちを眺めながら福神は、窃盗魔法で何かを抜き取るとマサトたちとは別の方向へと歩き出して行った。
しかし、そんな福神の不穏な動きなど露知らず、空腹で理性を失いかけているマサトは、ハイテンションで走りながら一軒の店に狙いを定めていた。
「マサトさん!!どの店に入りますか!?」
「寿司屋だ!寿司屋!!俺の居た故郷の発祥の料理なんだけど、魚と酢飯の相性がめっちゃよくて……とにかくめっちゃうまいんだ!!」
異世界に来て数ヶ月、夢にまで見たお寿司をようやく食べられることに、マサトは感動と感激を抑えることができず、勢いのまま襖を突き破って店に入った。
「らっしゃいやせ!!ご注文は何にいたしましょうか!?」
「大将、生きの良いのは言ってるかい★?」
「勿論!!今日は特にいいのが入ってるよ!!」
カッコつけながらカウンターに座ったマサトは、まるでドラマのワンシーンのように自称イケボで大将のおすすめを注文した。
「それじゃあ、その生きの良いのをこのヒヨコとスライムと僕に一つずつ……お願いします★。」
「あいよろこんで!!!」
注文を受けた大将は、素早い手のこなしで作業を進めていきあっという間に作り上げてマサトたちへと差し出した。
「あいお待ち!!」
「お、やっぱ高級店は、出るスピードも段ちg――おい待てぇぇぇえええ!!!」
出てきた寿司を見たマサトは、思わず口に含んでいたお茶を吹き出し、怒りをあらわにして大将へ向かって叫んだ。
「お前これ……カリフォルニアロールじゃねーか!!何で生きの良い奴もってこいって言われてこれ出そうと思ったんだよ!!」
「お客さん。寿司と言ったらこれしか無いだろ?何を言ってるんだい?」
「んなわけねーだろっ!!テメェー寿司屋に行ってカリフォルニアロールメインで食ってるやつ見たことあるか!?少なくとも俺は、底辺配信者の意味不明な企画でしか見たことねーよ!!」
「あ、見たことはあるんですね。」
その後もしばらく、寿司を楽しみにしていたマサトとカリフォルニアロール愛好家の大将による、しょうもない口論が続いた。
「文句があるなら出てってくれ!」
「ああ、そうさせてもらうよ!いただきます!!」
「あ、食べはするんですね。」
「出されたものはちゃんと食べなさいっていうのが家の教育だから。」
愚痴を垂れつつも、米の一粒まで残さず完食したマサトは、席を立つと大将に会計へと向かった。
「カリフォルニアロール3点で、お会計1500円になります。」
「ぼったくりじぇねーか!!たく、チャム1500ルミナ出せ。」
「オイラ持ってないよ。」
「………は?」
予想だにしない不穏な発言にマサトの動きがピタリと止まった。そして、隣で小さなカリフォルニアロールを全身に被りながら吸収しているスライムをゆっくりと二度見した。
「何言ってるんですか?チャムさんは無駄遣いするからお金は船の金庫に入れて送って自分で言ってたじゃないですか?」
一文無しという残酷な現実に直面したマサトは、一度冷静になると即座に手のひらを返し、もはや芸術的とも言えるほど綺麗なフォームで土下座を決めた。
「……すみません。皿洗いでも何でもするんで、どうか見逃してくれませんかね?」
「リーダー、ダッセー!」
「ホントですね……。」
こうして3匹は、足りない分のルミナを働いて返すことになった。
「あと壊した襖代もね。」
「あ、はい。」
最近のいくらの軍艦って一貫だけだし高いよね




