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第54話 過去の記憶にメッセージ

ツボミの記憶が記された本の中へと入り込んだマサトは、眩しい日差しさえ遮るほど木々が生い茂る、静かでのどかな森の中で目を覚ました。


「……ここがツボミの記憶か…。」


マサトは近くにあった木に手を伸ばしたが、ホログラムのようにすり抜け、触れることはできなかった。


「まぁ、当然のように干渉は出来ないと……。ニュアンス的にはトレウドの墓石の時と同じみたいだな…。」

「お兄ちゃん!」


トレウドでの出来事を改めて振り返っていると、元気な幼い少女の声が聞こえてきた。声のする方を見ると、いつもは隠れてしまう姿からは想像できないほど、嬉しそうに駆け回るツボミの姿があった。


「どうした?ツボミ。」

「見て見て!お花を育ててるお姉ちゃんにお花冠の作り方教えてもらったの!似合う?」


ツボミは、花冠を身に付けた自分の姿を15歳ぐらいのエルフの少年に見せた。


「ツボミは可愛いから何でも似合うぞ!!」

「えへへ…///。」


少年が即座にそう言うと、ツボミは頬を赤らめ、照れたように視線を落とした。


「そんなことよりツボミ。今日の分の修行まだやれてないから、昼飯食ったら始めるぞ。」

「えぇ〜…。やだぁ〜つまんないッ!」


その微笑ましい空気を、少年はわざとらしく咳払いで断ち切った。遊べないことが不満なツボミは、口をへの字にしてそっぽを向いた。


「文句言わない。これはツボミを守るためなんだから!」


昼食を終えた後、ツボミは少年から魔法の特訓を受けた。ツボミが覚えようとしていた魔法は、どれもマサトには真似できないほど高度な物ばかりで、修行は非常に過酷なものだった。しかし、その大変さとは裏腹に、ツボミの表情はどこか楽しそうだった。


それからしばらく、同じような時間が流れた。遊び、食事をし、修行をして眠る――ただそれだけの日々が続いていったが、ツボミたちに退屈そうな表情はなく、いつも幸せそうに暮らしていた。


しかし、そんな生活は一夜にして急変した。村には炎が放たれ、至る所から泣き叫ぶ声や断末魔が響き渡った。


やがて叫び声が完全に途絶え、静かな夜が訪れた。その中で、水色のショートヘアに中性的な顔立ちをした人物が、村人たちの亡骸を意にも介さず踏み越え、意味を成さない独り言を漏らしながらツボミの方へと歩いてきた。


「「はぁ〜…だから僕は転生者を七花軍師にするのは反対なんだよ。つつつ強い能力が与えられて、めめめ恵まれてるくせに…我儘ばっか言いやがって。そそそそして私達が、尻拭いするハメになる…。グロキシニアの枠にふさわしい最も叡智に近い能力を持ってるだかなんだか言ってたけど知らねーっつーの…。ほほほホント!!ここここちらを巻き込まないでほしいです!!」」


謎の人物の声は、男と女の声が不気味に重なり合って聞こえ、その口調や一人称も、定まらないまま次々と入れ替わっていった。


「「まままぁいいか、今回は良い収穫が得られたから!」」

「だ、誰……?」

「「どうも、こんばんわお嬢〜ちゃん。僕は魔王幹部、つまり七花軍師の一人やらせてもらっているものだよ。名前は【カ――リ・―ン―――ィア】っていうんだ。そそそそれともう一つ【―――ネ】というななな、名前があります!どうかお見知りおきを…。」」


七花軍師は、ツボミをあざ笑うかのようにして自分の名を名乗った。しかし、ツボミの記憶が曖昧になっているせいなのか、七花軍師の名にはノイズが混じり、はっきりと聞き取ることができなかった。


「「そそそれにしても、ひひ貧相な村ですね…。エルフの村って聞いてたから期待してたんだけど、とんだ見当違いだったな。」」

「……村のみんなは?」


ツボミは、今ある勇気を必死に振り絞り、わずかな希望にすがりながら、七花軍師に村の住民の安否を確かめた。


「「みんな?…………あ〜あ!他のエルフたちのことか!まままぁ彼らに要はないので、反抗されないうちに殺しておきました。」」


あまりにもあっさりとした残酷な答えに、ツボミは怒りも悲しみも湧かず、ただ呆然とすることしかできなかった。


「「僕の興味があるのは君だけ!だだだだから、私にとっては他のエルフのことなんてどうでもいいんです!どうせもう生きる気力もないだろうし、一緒に来てくれませんかね?」」


七花軍師は、放心しているツボミに歩み寄り、不敵な笑みを浮かべて手を伸ばした。しかし、その手がツボミに触れようとした瞬間、氷のつぶてが飛来し、手を弾き飛ばした。


「ツボミ!!」

「……お兄ちゃん。」

「「おやおや、まだ生き残りがいたんだ。びびびビックリですよ!」」


七花軍師が感心している隙に、少年はツボミを連れて〈影移動シャドウワープ〉で距離を取り、彼女の肩を掴んで目線を合わせると、静かに話し始めた。


「いいか?ツボミ…。今から俺が時間を稼ぐ。だから、その間にお前は逃げろ。」

「やだ!!」

「……言うことを聞け!!」

「やだ!!ずっと一緒がいい!!」

「俺だって……!!」


離れたくないと駄々をこねるツボミに、少年は思わず本音をこぼしそうになったが、必死に声に出すのをこらえ、ゆっくりと話し始めた。


「………大丈夫。お前は大丈夫だから…。この先きっと何度も一人になることがあると思う。寂しくて悲しくなることもあると思う。…でもな、いつか必ず、お前のそばにいてくれる奴が現れる。それがいつになるかは分からない。けど、必ずだ。……だから、絶対に生きることを諦めるな。俺は、ツボミが笑っている姿を見たいんだ。」


少年に励まされたツボミは、溢れる涙をぬぐうと、こくりとうなずいた。


「よし、もう行けるな?そのまま振り返らず走り続けろ。分かったな?」

「……うん。」

「じゃあ元気でな!」


少年は、涙をこらえるように天を仰いだあと、満面の笑みでツボミを送り出した。その瞬間、時が止まったかのように映像は静止し、辺りは光に包まれた。


「………ッ!?」

「おかえり。」


マサトは、はじき出されるようにして本から飛び出した。その表情は、いつもの能天気な明るさとは異なり、暗く、後悔の色を帯びていた。


「マサ!」「マサトさん!」

「リーダー大丈夫?」

「正直……。大丈夫じゃない、すっごいメンタルに来た……。」


心配そうに駆け寄る福神達にマサトは疲労のにじむ顔で、複雑な表情を浮かべながら答えた。


「話す前のちょっと休憩させてくれ…。思ってた以上に疲れたから。」

「分かった。話せそうになったら言ってくれ。」


福神達は、気になる気持ちをぐっとこらえマサトから離れていった。


『確かに、俺が想像していたよりもずっと重要な情報だったし、覚悟も必要だった。実際、俺には効果抜群だったし……。でも……なんで俺だけなんだ? 別にアイツらに見せても、困るような内容じゃなかったはずだ。というか、どうせ後で話すなら、見せなかったところで意味はない。……〈管理人こいつ〉、一体何が目的なんだ?』


記憶を見た後も、管理人は頑なに福神たちに記憶を見せようとせず、その意図が掴めないマサトは不信感を覚え始めた。

何がクリスマスだ!!

ただの平日だろ!!

………。(T^T)

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