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へっぽこモンスターな俺たちの異世界攻略法  作者: 小嵐普太
第4章 シャクヤクと捨て身アイドルのコンサート編
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第42話 無自覚系雑音遮断有能アイテム

「出来ましたけど、こんな物何に使うんですか?」


ものの数秒で巨大なマジックハンドを完成させたコウは、マサトに手渡した。


「マジックハンドの使い方なんて一つしか無いだろ。」


マサトは、マジックハンドを使い牢屋の正面にある扉を開けるとそのまま部屋の中を物色し始めた。


「ちょ、大丈夫なんですか!?こんなに音立てて!看守の人きちゃいますよ!」

「大丈夫だろ。十中八九居ないだろうし、仮に居たとしても看守として機能してないと思うから心配する必要はナッシング!」


マサトがまるで全てを悟ったかのように不思議な自信を見せるたびに、コウにはその根拠がまるで理解できなかった。


「フッやっぱり便利…僕の魔力探知♡♡」


マジックハンドを思いっきり引っ張るとガッチリとキャッチされた輪廻がマサトめがけて飛んできた。


「おし来――ヒデブッ!!」

「刀!!刀だ!!」

「ありがとな輪廻。俺の決まりをしっかり守ってくれたんだろ?」


マサトの感謝の言葉に応えるように、輪廻は月明かりに照らされてひときわ輝きまるで、言葉の代わりに静かに返事をしているようだった。


「じゃあ頼んだぜ輪廻!!いつもみたいにぶった斬るぞ!!」


刀を勢いよく抜き放つとそのまま斜めに振り下ろし、檻を一刀両断にした。


「おし、脱獄成功だ!!」

「フーッ、一時はどうなるかと思いましたが、何とかなって良かったです。」


無事に脱獄できたことにホッと胸を撫で下ろしていたコウの頭上に、消えてなくなったはずの十円玉が突然現れた。


「それさっきの十円玉か?返ってくるなら能力使い放題じゃん。」

「あ、いえ。これ、目標が達成されたときにだけ返ってくる仕組みなんです。ギャンブルって、お互いにチップを賭けますよね? 勝てば総取り、負ければ大損。そのチップがぼくにとっての大切なものに変わっただけです。達成できれば結果と賭け金が返ってくる。でも、失敗すれば全部パー。……なんでこんな博打スキルを引いちゃったんですかね、僕は!!」

「お、おう。そうか‥‥。」


ハズレスキルに嘆く哀れなコウの姿を見てマサトは、嫌いだったはずの自分の特別な魔法(ユニークスキル)より、彼の方がよほど不憫に思えてきた。


奪われていた装備を回収し、監獄の外へ出ると、街には相変わらずクラシック音楽が流れていた。その旋律は、不気味な空気となって街全体を包み込んでいた。


「うぅ‥‥。なんだかこの音楽聞いてると頭が‥‥。」

「十中八九シャクヤクの能力だろ。多分洗脳系の能力で猶予が与えられてる俺以外が対象だと思うから耳塞いどけ。あいつらも洗脳されてるだろうから急がな――

「あ、リーダーだ。何してるの?」


珍しく仲間を助けに行くカッコいい主人公ムーブが出来ることに内心ウキウキなマサトに、何も状況を理解していないチャムが、のんきに話しかけてきた。


「………何でお前効いてないの!?ねえ、何で効いてないの!?とっとと洗脳されちまえよ!!この空気読めない平均歩数3歩未満のクソスライムが!!」

「な、何でオイラ怒られてるの!?」


マサトが理不尽にチャムにブチギレていると眼帯を外したイバラがマサトの方へ走ってきた。


「マサトお兄さん!!」

「イバラお前も効いてないのかよ?」

「あ、僕はまたあの音楽が聞こえてきたから、魔眼の近くにいる生物を自死させる能力で相殺しているだけだよ。」

「なるほど魔眼か‥‥待って今何つった?」


さらっとイバラがエグイことを言った気がするが、とりあえず解決の糸口を知っていそうな福神達がいるライブ会場へと向かうことにした。


ライブ会場には大勢の人が集まっていたが、皆一様に放心したように立ち尽くしていて、まるで無数の人形が静かに並べられているかのようだった。


「アイリスちゃあああん!!!待っててね!!!!」


コウは、ステージで立っているアイリスを見つけるや否や大声で叫びながら爆走し始めた。


「不審者の人うるさい!!」

「あいつは、もうほっとけ。」

「マサトお兄さん。沢山の人がいるけどどうやってお姉ちゃん達を探すの?」

「ああ、それに関しては大丈夫。チャム福神のチャムホから大声出せ。」

「?分かった。」


チャムが大きく息を吸い込み、勢いよく吐き出すと、少し離れた場所からチャムの声が響き渡った。


「あっちだな。」


人ごみをかき分けて進んでいくと、ライブを見に来ていた三人が、他の観客と同じように気を失ったまま立ち尽くしていた。


「‥‥そういえばこれどうやったら洗脳解除されるの?」

「そこ考えてなかったんだ‥‥。」

「耳塞いだら?」

「いくら発動条件が『音を聴かせる』だとしても、さすがにそんな単純な話じゃないだろ?」


半信半疑ながらも、とりあえず福神の耳を塞ぎ、音が聞こえないようにした。するとまるで悪夢から目覚めるかのように、福神の洗脳はすっと解けていった。


「はっ!!ワイは今まで何を?」

「マジかよ、めっちゃ解除方法楽勝じゃん。」

「おい、マサ!今どういう状況だ?」

「あ、今実は――


状況を説明しようと耳栓を外すと再び福神は、洗脳され気を失った。


「は!?もしかして聞いた瞬間、アウトな感じ!?じゃあ何であのオタク耐えれてんだよ!?」


コウのメンタルとアイリス愛に改めてドン引きした後、再び耳栓をして今度は字で説明した。


「なるほどな。取り合えずお前が魔王軍に勧誘されてるのが気に食わねー。こんな奴が使えるとはワイにはとても思えない。」

『そこはいいんだよ!とにかく何かない?」

「そんな急に言われても‥‥。」


しばらく考え込んだ福神は、何かを思い出したように顔を上げ、チャムに問いかけた。


「おいチャム。お前のみんな友達(オールフレンズ)ってどういう仕組みなんだ?」

「えーっとね‥‥。」

『まず、オイラが音を聞くでしょ? するとみんな友達オールフレンズが、それをオイラにもわかるように翻訳して教えてくれるんだ。で、オイラが言いたいことは、そのさっきのを逆にしたものになるんだよ。』

「やっぱりな。チャムお前の一部を俺の耳に突っ込め。」

「え?あ、うん分かった。」


チャムは、自分の体を少しちぎると福神の耳に突っ込んだ。


「よしなんか言ってみろ。」

「やーいお前んちおっばけやーしきー!!」

「‥‥黙れ。」

「普通にキレんなって。え、てか何で聞こえんのに洗脳されないの?」


洗脳もされず、普通に意思疎通ができていることに驚くマサトに対し、福神は得意げな表情で説明を始めた。


「翻訳されているってことは、あくまで()()()()()()()()()を聞いたことになっているだけで、実際に直接その音を聞いているわけじゃない。だから能力は発動せず、音そのものは聞こえているってことになるってわけ。」

「え‥‥。チャムホ滅茶くそ万能やん。」

「それはそう。」


チャムホはすべてを解決する!!

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