第39話 オープニング
宿屋に着いたマサトは、ヘトヘトの体を無理やり動かして勢いよくベッドにダイブした。最高級の部屋を選んだだけありベッドは、ふかふかで何日間も地面で眠らされたマサトにとって天国のような気分だった。
「はぁ〜地べたじゃないって最高〜!でも、オートロックらしいから俺寝ちゃダメなんだよな。鍵渡すの忘れてたし。しゃーねー本でも読むか。」
マサトは、時間を潰すために福神から渡された勇者英雄譚をパラパラと読み始めた。
『これは、恐ろしい力で世界を牛耳っていた魔王を倒した英雄の物語――』
荒れ果てた大地に、一筋の光が差し込んでいた。吹き荒ぶ風が砂を巻き上げ、どこまでも続く焦土の中を、四つの影が静かに歩みを進めていく。その背にあるのは、無数の戦いの記憶。焦げた衣、欠けた武具、癒えきらぬ傷――それらすべてが、旅路の過酷さを物語っていた。
勇者は、錆びた石畳の道を真っ直ぐに見据えていた。握り締めた剣には幾度も戦った痕が刻まれ、それでもなお、光を放っていた。隣を歩く戦士は、大盾を背に負い、周囲を鋭く見渡す。常に仲間の一歩先に立ち、どんな脅威にも立ち向かうその姿は、まさに鋼の守り手だった。
魔法使いのローブが風に揺れ、杖の先には淡い光の粒が灯る。消えかけた魔力を宿しながらも、その眼差しには決して揺るがぬ意思が宿っていた。そして最後尾を歩く賢者は、静かに両手を胸元で組み、祈るように歩みを進めていた。声なき祈りは、仲間への信頼と、世界への願いを込めたものだった。
彼らは幾千の困難を越えてきた。険しい山脈、深い魔の森、凍てつく氷の谷、そして灼熱の火山――あらゆる自然の猛威と、道中で現れる魔物たちの襲撃。それらすべてを、四人は互いを信じて乗り越えてきた。
咆哮と共に現れる獣を、戦士が盾で受け止め、魔法使いが雷を落とし、勇者が剣で切り裂き、賢者が癒しの光で支える。言葉はなくとも、彼らの間には確かな絆があった。一度たりとも崩れぬ連携、それこそが彼らの最大の武器だった。
ある日、地平線の彼方に、黒き影が浮かび上がった。空を覆う漆黒の雲、雷鳴の轟き――その中心に聳えるのは、魔王の城。忌まわしき存在が待つ、旅の終着点である。
城門をくぐると、冷たい風が吹きすさび、無数の魔物たちが最後の壁として現れた。しかし、四人の心にはもはや迷いはなかった。戦いに次ぐ戦いを超えた今、彼らの意志は一つだった。
そして、玉座の間。暗闇の中に浮かぶ赤い瞳。そこにいたのは、圧倒的な魔力をまとった魔王。その存在だけで空間が歪み、意識すらも削られるような恐怖。しかし、四人は静かに構えを取った。
凄絶な戦いが始まる。火と雷が飛び交い、剣と斧が火花を散らし、空間そのものが軋む。戦士が盾を砕かれ、魔法使いが膝をつく。それでも、賢者の光が仲間を癒し、勇者は渾身の力で剣を振るう。
そして、賢者が最後の祈りを込め、勇者の剣に希望の光を託した。眩い光が放たれ、勇者は一閃。その太刀筋が、闇を貫いた。
魔王の咆哮が響き、やがてすべてが静寂に包まれた。長きにわたる闇の支配は、ついに終わりを告げた。
黒雲が裂け、空から陽光が差し込む。光が世界を包み、荒れ果てた大地にも、再生の兆しが見え始める。
四人は言葉を交わさず、ただ静かに空を見上げた。戦いは終わった。だがその背後には、歩んできた数えきれぬ足跡と、これから守っていくべき世界が確かに残っていた――
「‥‥zzz‥‥ZZZ。」
読んでいる途中疲労と睡魔に耐えられずマサトは、そのままぐっすりと眠ってしまった。
「マサトくん‥‥。マサトくん起きてください‥‥。」
「うぅ‥‥。何だ‥‥え?」
呼びかける声で目を開けるとそこには何も無い白い空間が広がっておりマサトは、元の人間の姿に戻っていた。マサトが、唐突な出来事に困惑していると再び声がした。声がする方を見ると白髪で白の着物と赤色の帯を身につけた美少年が目の前に立っていた。
「おはよう。マサトくんようやく会えたね。」
「‥‥えーっと。どちら様ですか?」
「ハハッ、ゴメンね。ワタイが一方的に知ってるだけだったねワタイは‥‥そうだね。フクちゃんとでも呼んで!」
少年の声は、おっとりしていて初めて聞くはずなのにどこか聞き馴染みがありとても心地が良かった。
「お、おう。ところでフクちゃんここどこ?」
「ここはねぇ‥‥。う〜ん。精神世界、夢の中とでも思ってくれればいいよ。ワタイもよく分かってないからあんま気にしないで。」
「夢の中か。だからこの姿なのか。」
「そっ!!ま、本当の理由はワタイがこの姿のマサトくんを見たかったからだけだけどね。‥‥うん!やっぱり人間の姿の方はワタイは好きだ。あの子にそっくりだし!」
フクちゃんは、マサトのこと見てニコニコと微笑みかけた。マサトは、ジロジロと舐め回すように見られて少しフクちゃんのことを引いていた。
「そ、そういえば。俺を呼んだってことは、何か目的があるんでしょ?」
「目的か‥‥。正直マサトくんと会って少しお話してみたかっただけだからなぁ。詳しいこと言ったら怒られちゃうし‥‥。うん!もう特に無いや!!」
フクちゃんは、清々しいほどきっぱりと言った。
「え、こんな意味ありげな展開なのにこれだけ?例えば頑張ってる例えば俺への助言とか‥‥。」
なにか重要なことを知っていそうな人物が目の前にいるのに何も聞かないことは勿体ないと思ったマサトは、焦りながら質問した。
「助言かぁ‥‥。別に未来見えるわけじゃないしなぁ‥‥。あ、一つだけある。」
フクちゃんは、マサトの胸のあたりを指さしながら答えた。
「七花軍師を侮って振り回されないようにね。」
フクちゃんが質問に答えた瞬間、マサトは夢から覚めた。不思議な出来事もあるものだと思っていると寝てはいけないことを思い出し急いで時計を見た。幸いなことにまだ深夜で誰も帰ってきている様子はなくマサトは安心した。
「ふーっ、良かったまだ帰ってきてない。」
また暇つぶしのために本を読もうとするとどこからともなくクラッシク音楽が聞こえてきた。
「いい音楽だな〜‥‥‥‥。待てよ。こんな夜遅くにこんなに大きな音で音楽なんて流すか?それにこの近くに演奏できるような場所はない‥‥。」
マサトは、フェイバリルに着く前にユーリンと話したことを思い出し嫌な想像をしてしまった。するとドアをノックする音が聞こえた。
「‥‥いや。考えすぎか。待ってろ今すぐ開ける。」
ドアを開けようとドアノブに手を伸ばそうとした瞬間、ノックのスピードが段々と上がっていき今にもドアを破壊しそうな勢いになっていった。
「さ〜ぁって♪素晴らしいコンサートの始まりだよ♪」
後もう少しで俺の夏休みだ!!
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