第27話 嵐の前の騒がしさ
マサトとフィットニアは、弟が見つかったことに安心し帰る途中野良モンスターを追いかけたり、道に迷ったりしたため船に戻る頃にはもう夕暮れ時になっていた。フィットニアは、歩き疲れマサトの背中で寝てしまった。
「お姉ちゃん!!」
「‥‥イバラ!!」
フィットニアは、イバラを目にした瞬間、へてへとに疲れていたことが嘘だったかのように走り出しイバラに抱きついた。
「もう馬鹿!!離れちゃダメってあんなに言ったのに‥‥。」
「ごめんなさい‥‥。」
感動的な再会に福神は見守りユーリンが涙ぐんでる中、疲労困憊でゾンビのようになっているマサトが、地を這いつくばいながら部屋に入室した。
「何で採掘作業してないマサトさんが一番疲れてるんですか?」
「ハァ‥ハァ‥そんなのこっちが聞きたわ‥‥。サボるために引き受けたのにこんなに疲れるなんて聞いてない‥‥。もう、ペット探しと迷子探しは二度とやらねー‥‥。本当にろくな目に合わない‥‥ハァ‥。」
マサトは、倒れ込むようにしてベッドに横になった。そんなマサトを無視してユーリンは、今日あったことを話し合っているフィットニアとイバラに提案をした。
「今日はもう遅いですし、暗い中2人でいるのも危ないですからうちに泊まっていきませんか?」
ユーリンの提案に驚きつつも2人嬉しそう縦に首を振った。
「我と弟を結びつけるだけでなく、城への宿泊を許可してくれるとは‥‥感謝してもしきれぬ。」
「ありがとうございます!!」
喜ぶ二人を横目に福神は、こっそりとユーリンに耳打ちした。
「勝手に泊めていいのか?こいつらの両親が心配するだろ。」
「先程、イバラさんから孤児だということを聞きました。一応孤児院で暮らしているみたいですが、環境はあまり良くなく夜遅くまで戻らなくても何も言われないみたいです。だから、そのような場所よりここに泊めたほうがいいかと‥‥。勝手に決めてしまってすいません。」
「なるほどな。そういうことならワイは止めんよ。」
福神は、事情を知り納得するとベッドでいびきをかいているマサトを蹴り飛ばしベッドから落とした。
「痛っ!!何するんだよ!!せっかく俺の妻と新婚旅行の計画建てようとしてたところなのに‥‥。」
眠りを妨げられたことにキレるマサトに福神は、敷布団を投げつけた。
「今日フィットニア達がここに泊まるんだ。だからお前は、地べたで寝ろ。」
「‥‥いやベッドでかいんだから3匹で川の字になって寝ればいいだろ。」
「だめです。あなたは、カッコつけて受けた依頼をほっぽりだしました。そのバツです。もしかして、目的はベッドじゃなくて私の体ですか?」
ユーリンは、聖人から体を隠すように羽で体を覆った。
「ヒヨコなんかに発情するわけないし、そもそも襲うための息子がねーんだよ!!あったら冒険者やらずに俺だけのハーレム作ってスローライフ満喫してるわ!!ていうか、福神もサボったのは変わりないだろ!!」
マサトは、一緒に採掘作業をせずに行動していた福神を指さしたがユーリンは、福神を庇った。
「福神さんは、あなたと違ってサボろうとはしていないし、あなたよりもイバラさん探しに積極的だったみたいじゃないですか。それに福神さんは、帰ってきたらすぐ私に謝罪してくれましたよ。」
「くっそ!事実すぎて何も言い返せない。」
「とにかく今日仕事をサボったバツとして、お前は地べたで寝ろ。そうしないと反省しないだろ?」
マサトは、もう何言っても無駄だと察し、投げつけられたシーツにくるまった。
「う、うぅ‥‥もうアタイ知らない!!こんなドメスティック・ヴァイオレンス野郎どもなんて!!心理的虐待だ!!189で訴えてやる!!うぅうぅ‥‥。」
ベッドを取られたことに納得できずうだうだ文句を言っていたが、ほんの30秒ほどで再びいびきをかき始めた。
「あ、あの‥‥?」
「大丈夫。明日にはリセットされてるから。」
暫くの間、各々好きなに時間を過ごしたあと電気を消し就寝した。
次の日
空はどんよりと厚い雲の覆われ少しあたりが暗くどこか不気味な日だった。マサトが、朝起きて辺りを見渡すとフィットニアとイバラがおらず机に置き手紙があった。
「えーっと『朝の日課の散歩に行ってくるね〜。もし朝いなくても心配しなくていいよ〜。byフィットニア』朝早くから元気だな。」
手紙を読んでいると福神が遅れて目を覚ました。
「おはよ〜。あれ?あいつらは?」
「散歩だってさ。丁寧に手紙まで残してある。そういえばお前爺さんと何話してたんだ?」
なんの接点もない爺さんと急に二人っきりで話してたのを疑問に思ったマサトの質問に福神は、毛づくろいをしながら答えた。
「あの爺さん魔眼を持っていたんだ。でその能力は、もう自分は使わないからって言ってくれたの。」
「え、能力をもらうってお前まさか爺さんの目えぐり取ったの?」
「そんなわけねーだろ!!」
犯罪を犯したんじゃないかと疑うマサトに福神は、右目を見せつけた。魔眼を発動させた福神の右目は、千里眼を使ったときとはまた別の柄に変わっていた。
「どうやらこの目は、ワイの特殊な窃盗魔法と組み合わせることで他の魔眼の力を奪いストックすることができるらしい。ちなみにこの魔眼の名前は、【鑑定眼】。年代物の土器から有名人のサインまで説明しながら価値を教えてくれる商人からしたら喉から手が出てくるほど欲しいと言われる優れものだ。」
「よーし!!それじゃあ今からリサイクルショップとかで価値のあるもの買いまくって高値で売り飛ばそうぜ!!」
お金にしか目がないマサトに福神は、怒った。
「労働の大変さも知らないくせに楽をして稼ごうとするな!ワイにばっか頼ってないで、自分の力で稼げるようにならないといつか公開するぞ!!」
「楽に稼いで何が悪い?ていうか、今も十分大変だちゅーの!!」
マサトと福神は、いつもの取っ組み合いの喧嘩を始めた。しかし、福神が机においてあるものを見た瞬間、表情が一変しメモ帳を急いで確認した。
「ど、どうした?‥‥あ、あー流石に俺も言い過ぎたよごめん。でもやっぱこういう能力あるなら使っといたほうが得だしそれに――
「やっぱり‥‥マサ!!急いであの2人探しに行くぞ!!」
急に慌てだし外に出る支度をする福神にマサトついていけずただ呆然と立っていることしかできなかった。
「マジでどうしたんだよ?」
「あの字‥‥フィットニアのじゃない。」
「‥‥はぁ?」
マサトは、唐突な福神の発言に理解することができなかった。
サイン!コサイン!タンジェント!!




