第13話 とりあえずの目標
「まあ、対策はしっかり考えてきたんだけどね」
「じゃあ何で叫んだんですか?」
魔力探知を使い周辺の状況を確認する。霧には侵入者を惑わす特殊な術がかかっており、何の対策もしていない冒険者ならすぐに方向感覚を失ってしまう。しかしマサトの魔力探知は優れており細かな違いを察知することができる。さらに他の冒険者が探知できる距離が十数メートルに対して、五十メートル近く探知できるほど優秀なのだ。
「どうですか?」
「う~ん‥‥分からん!」
「いったいどこが優れてるんでしょうね?」
「うるっせえ!へなちょこクソエイムヒヨコそんなに言うならテメーが――ん?」
マサトは、キレていると魔力探知に不可解なものを探知した。
「何かありました?」
「‥‥何もない。」
「はい?」
「だから、何もないんだよ。魔力が一切感じられない空間が‥‥」
マサトとユーリンは、しばらく顔を見合わせた後何もない空間へと向かった。その空間は、半径三十メートルほどで霧は晴れており生物の気配は感じ取れない静かな空間で、綺麗な花の群生が並んでいた。
「何だこの空間?それにこれ【マリーゴールド】か?」
「マサトさんあれ‥‥」
ユーリンの指さす方向には、小さな墓石があり、文字が書かれていた。
「これなんて読むんですかね?」
「『 グロキシニア・マーラム ここに眠る 』」
「読めるんですか!?」
文字はこの世界の言語ではなく日本語で書かれていた。まるで限られた人にしか意味が分からないようにするために‥‥
「‥‥」
マサトは、何かに引き寄せられるように墓石に手触れた。その瞬間閉じ込められていた魔力が飛び出し二匹を包んだ。
『うぅ‥‥あれ?どこだここ?』
気付くと2匹は、のどかな草原に立っていた。
「俺はいつか魔王を倒して勇者になるんだ!」
『?』
少年は、丘に寝そべりながら木陰で読書をしている少女に話しかけた。
「急にどうしたの?」
少女は、不愛想に答える。
「昨日の夜かーちゃんにお話を聞かせてもらったんだ。その中に魔王って言う奴がいて色んな悪さをする奴がいるんだけど、【アマリリス】って言う勇者が仲間と一緒に魔王をやっつけるんだ!かっこいいだろ?」
「別に。それよりまだおばさんと一緒に寝てるの?10歳なのに恥ずかしい~w。」
「うるさい!お前だって一緒に寝てるだろ!」
「私は女の子だからいいの。」
「ぐぬぬ‥‥くっそー!ぜってー見返してやる!」
少年が叫ぶと木も風も人もマサト以外のすべてが、映像の様に止まってしまった。
『これは‥‥誰かの記憶?何もかもが唐突すぎて全然ついていけない‥‥』
急な出来事に混乱しつつ状況を整理しようとすると村に場面が切り替わった。魔王軍の襲撃により火が放たれたことによって、村は炎に包まれておりあちこちから悲鳴が聞こえる。
「‥‥か‥‥かーちゃん?」
少年は目の前の光景に呆然と立ってることしかできなかった。
「行くよ。おばさんや村のみんな私とあんたのために襲撃した奴から庇ってくれた。私たちが生き残らないと皆が報われない!」
少女は少年の手を強く引き走り出した。場面が切り替わり焼け焦げた村が映し出された。少年と少女は、死体を埋め石を置きお墓を作った。
「俺さぁ‥‥勇者になれると思う?」
少年は弱々しく少女に問いかける。少女は、何も答えず沈黙した。
「‥‥」
「‥‥俺強くなるよ。この先どんな奴が現れたとしても、大切な物が奪われないようにするために‥‥」
少年は旅に出ることを決心した。それは夢でも憧れでもなくただこの世界で大事な人と一緒に生きるという願いを叶えるため魔王討伐を目指すのであった。
気が付きとマサトは、墓の前で倒れていた。
「‥‥もしかしてここにあった墓ってあの村の人たちの物?ということはこれはこの記憶は‥‥」
「うぅ‥‥」
同じく倒れていたユーリンが目を覚ました。
「大丈夫か?」
「はい‥‥大丈夫です。」
「そうか‥‥行くか。」
「はい‥‥‥‥マサトさん」
ユーリンは、その場を離れようとするマサトを呼び止めた。
「どうした?」
「前にも言ったように私には、ここ最近の記憶しかありません。だから自分が何を目的として魔法使いをやって冒険をしているのか、皆さんと違って良く分かっていませんでした。でも、今回この記憶を見て彼らに気持ちにとても共感できた気がするんです。その理由もまだ明白ではないんですが‥‥とにかく私自身を知るためのとりあえずの目標が出来ました。そしてあなたへお願いがあります。」
「何だ?」
ユーリンは、真剣なまなざしでマサトを見つめる。
「私と一緒に強くなって誰もが平和に慣れる世界を作ってください。」
少しの沈黙の後マサトは、笑い出した。
「な、何で笑うんですか!?」
「いやあぁw。とりあえずの目標にしちゃぁずいぶん壮大だなとw」
「い、いいじゃないですか‥‥」
ユーリンの顔は帽子で隠れているが照れていることが良く分かった。
「ああ、いいと思うぜ。確かに俺の願いを叶えるためには必須条件だな!よしそのお願い受けてあげようじゃないか!!!じゃユーリンうちのへっぽこ魔法使いとしてこれからもよろしくな!」
「‥‥はい!!」
こうしてユーリンは、コカトリスになって初めてのやるべきことが決まったのであった。
3月10日はマサトの誕生日
ということで、マサトのちょっとした豆知識を紹介しようと思います。
家族構成は、雅人・一卵性の妹・父・母の四人のでした。
しかし雅人の親は、幼い頃に交通事故で他界。
その後祖父母が雅人と妹を引き取りましたが、
妹も4年前から行方不明。
本人は気付いていませんが、立て続けに身内が不幸になっていることも
中学時代雅人が孤立してしまった理由の一つです。