巻き毛に絡まれる
下痢(弱)、復唱(大)、お黙り、帰宅、気絶(前後5分間の記憶消去)
どうしてこんなしょうもない魔法しか使えないのだろう・・・。
私はノイツ連邦共和国の名門音大に留学し無事卒業資格を得、
生計を立てるためにこの国の北東にある辺境の地のオーケストラに勤務していた。
「私のこと馬鹿にしてるのか!?!?!?」
「・・・?」
やばい奴に当たってしまった・・・。
今まで挨拶もしてこなかった同僚の女がいきなり喚く。
(え・・・?なに・・・?)
40代の巻き毛アニメ声の同僚に突然怒鳴られて困惑する。
休憩中なので人も疎らな練習用ホールに怒声が響き渡った。
(いや、なんで?)
今まで話しもしなかった巻き毛のアニメ声が
愚痴りだしたので、
「練習すればいいんだよ。」と言ったら激高だ。
私は音大で師事した教授に
「何か不安や心配事があったら練習すればいいんだよ、そうすれば全て忘れられる。」
といつも言われていて、その通りだな、と思っていたので
40代アニメ声の同僚にもそうすることを勧めたのだが・・・。
物事を悪い方悪い方へ捉える人はいる。
彼女にもいろいろ過去の事情があっての事だろう。
しかしそれはこちらも同じなのだが?
同僚の虫の居所が悪いのをなぜ私が配慮しなければならないのだ。
そもそも無礼な態度を見せられていたのに。
知らんがな。
大声を出して罪悪感と羞恥を覚えたのか、
巻き毛の同僚は足早に去っていった。
今後こいつとは関わらないようにしよう。
こいつを見かけるたびに沈黙の魔法をかけると決める。
毎度金切り声で喚かれたらかなわない。
魔法が発動するとアニメ声の口元が紫色の靄で包まれるだろう。
お黙り(沈黙)の魔法をかけると5分間声が出せなくなる。
だがたった5分だ。ほとんど意味はない。
効果が切れたらあることないことあちこちに話すだろう。
めんどくさいなあ・・・。
気絶魔法をかけて奴の記憶消去をしたいところだが、
気絶魔法をかけると30分ほど半目で口から涎を垂らしたまま
フリーズしてしまうのだ。業務に影響が出るのは避けたい。
私はまじめに仕事を遂行したいのだ。
どんよりした気持ちでホールの窓から曇天を眺めた。