悪役令嬢は遊びたい、悪役令嬢を遊ばせたくない
悪役令嬢は遊びたい。
やがて悪役になる定めだが、今はただの少女。
十にも満たない年。
遊び盛りのただの子供だった。
だから、悪役令嬢は遊びたかった。
しかし遊ぶことはできない。
遊ぶことは悪いことだと、周りの大人たちが言い聞かせていたからだ。
悪役令嬢の家は、名前のある家だ。
だから、その家の名前にふさわしくあらねばならなかった。
だから遊ぶことよりも、学ぶことの方が重視された。
遊ぶことは怒られることで、学ぶことは褒められること。
悪役令嬢は、そう学習していた。
だから、その状況は、彼女が破滅するまでずっと変わらない。
そんな悪役令嬢をかわいそうに思ったのが、とある神様。
やがて出会う恋をかなえられず、醜い心に支配され、味方なく一人で人生を終える。
そんな少女をかわいそうに思った。
だから、神様はその悪役令嬢を助けてあげたいと思った。
それはただの気まぐれで、崇高な目的や、大いなる意志などなかった。
神の気まぐれは、やがてとある世界へ伝わり。
一人の少年の心を揺り動かす。
遊ぶことを知らずに育ち、人生を破滅させる少女の存在を知った少年は、異世界にわたったのち、悪役令嬢に手を差し伸べる。
だから悪役令嬢はかなわぬ恋を知って狂うことはない。だからヒロインも、恋をかなえるために多くの障害を経験することはない。
悪役令嬢を遊ばせない大人たちは変わっていき、多くの者たちが幸せな結末を迎えた。
悪役令嬢は新たな恋を知って、新しい世界をひらいていく。
そこには、本来あった苦痛や悲しみや、むなしさなどはなかった。
悪役令嬢は、遊びたい。
そう思ったとき、遊ばせたくない者たちはいないから。
遊びたいと思った時には、いつでも遊ぶことができる。