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僕の転生じゃ、ない  作者: のっぴきララバイ
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プロローグ

最初のきっかけはなんだっただろうか。

毎夜夢に見る景色がきれいで、不思議で、懐かしくて。眠ることが一番の楽しみだったのを覚えている。

あの夢の話をすると、いつもは疲れてイライラしていることが多い母さんも、じっと僕の目を見て話に聞き入ってくれた。

僕はそれが嬉しくて、あの光景を母さんとも共有したくて、拙い言葉で語り続けた。

顔色を窺って、母さんが喜ぶ話は大袈裟に、逆に興味を抱かれなかった話は省略して話すようになっていき、少しずつ、少しずつ、記憶は歪んでいった。

「違うでしょ?」「そこはこうだったでしょ?」「本当はああだったんじゃない?」

母さんに訂正され、誘導されて繰り返し話すうち、何が自分の記憶で、どこからが作り話なのか、自分でも分からなくなっていったんじゃないかと思う。


思う、なんて曖昧な表現なのは、かなりの長い間、僕自身もそれを信じ切っていたからだ。

いつの間にかすらすらと夢の記憶を語れるようになっていたし、そんな夢の世界の断片をネットの海に投稿し始めるまで、そう時間はかからなかった。

次第に話題になり、金銭的援助も増え、実生活も変化していった。

ファンというか、信者のような人たちが付くようになって、母さんは送られてくるコメントに一喜一憂するようになった。

握手会のようなものや、講演会らしき場で話をする機会も増えた。

生活保護を受けてもギリギリだった我が家は、いつしかおんぼろアパートから高級マンションに居を移していたし、母さんの恋人が家に同居するようになった。

母さんや母さんの恋人は前世で賢者だった僕の弟子だったそうだ。繰り返し「そうだったでしょう?」と言われれば、そうだった気がしてくるのだから、人間の脳というのは不思議だ。


派手な暮らしぶりの‟前世の記憶を持つ少年”やその家族が周囲からどんな目で見られるか、その後どんな人生の顛末を送るのか、まぁ大体想像はつくんじゃないかと思う。

いくつか浮かんだろうルートの中で一番お粗末なやつが、大体その後の僕の人生の内容だと思ってくれて構わない。


とにもかくにも、‟僕”は死んだ。


ああ神様。神様だか、他次元生命体だか、宇宙思念体だか。とにかくそういう何かよ。

もしも生まれ変わるなら……承認欲求が生んだ妄想以外で、本当に輪廻転生なんてものが存在するのなら。

どうか来世では、前世の記憶なんてものとは無縁の人生を送れますように………

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