きょうがく。
死と隣り合わせの状況と
迫り来る恐怖に
貴方はいつまで
耐えることができる?
その少女は華奢で色白く、三人と同じ女生徒用の制服を身に纏っていた。
しかし、辺りの明かりが足りないために顔の上半分を確認することはできない。
僅かな月光が少女の口元を怪しく照らしていた。
“たすけてほしい?”
まるで口の筋肉だけを動かすかのように、少女は声を出さずに蔵橋に向けて笑みを浮かべる。
蔵橋の背筋に嫌な汗が伝わった。咄嗟に首を縦に何度も振り、助けを求める。
「早く開けろよ!!」
末松が震える浮口の元から離れ、蔵橋に近寄って思い切りドアに蹴りを入れた。
「いいのかな、そんな口のきき方しちゃって」
今度は声高らかに、少女は教室という檻のなかにいる三人を嘲り笑う。
それは、三人が何処かで聞いた覚えのある声だった。
「……ち、ちか、千景さん?」
浮口が立ち上がり、虚ろな瞳で扉の向こう側を見詰める。
口にした名前は三人が死に追いやったはずの千景 有紗。
冷静に考えれば、此処にいるはずのない存在だ。
「バカ言わないで!千景はもう死んだんだよ!?」
焦る蔵橋に、少女は再び狂気を含んだ笑い声を上げた。
「ありがとう浮口さん。覚えていてくれたんだぁ」
「千景!?そんなワケ……」
「ない?でも事実なの。貴方たちへの怨念がカタチとなって、魂だけが蘇ったのよ」
刹那、電気が流れるかのような音を立て、空間が歪み始めた。
あまりにも非現実的な出来事に、三人は周囲を見回して怯えることしかできない。
まさに恐怖が脳内をジャックしている状態。
これから自分の身に何が起きるのかという不安が、猛スピードで思考回路を駆け巡る。
そして数秒後に三人の視界にあるものは、元いた教室などではなく、殺風景な学校の屋上だった。
普段は立入禁止だが、昼食をとるスペースとして使用しているために、三人にとって屋上は見慣れた場所である。
生暖かい夜の風が四人の髪を揺らし、踵を踏み潰した上履きから伝わるコンクリートの固さが、これが現実だということを実感させる。
「私は此処で貴方たちに殺された……」
三人の前に立ち、冷たく言い放つ千景は刃の長い包丁を手にしていた。
表情には出ていないが相当な力を込めているらしく、柄を握る青白い手が小刻みに震えている。
「ちっ、千景、アンタそれで何すんのよ。もしかしてウチらを殺す気?」
「そうだと言ったら?」
「あれは事故だった!ウチらは悪くない!!」
持ち前の気の強さで、脚は震えているものの必死で自分たちの無実を訴える蔵橋。
しかし千景にそれが通じることはなかった。生前受けた屈辱を思い出し、言い逃れをしようとしている彼女に鋭い視線を向ける。
「命乞いとは愚かね。……確かあれは、今からちょうど一年前の今日のことだったかな……」
千景は何処か虚空を見つめ、やがて静かに語り始めた。