はじまり
放課後の教室は、女子たちの溜まり場と化す。
その日の愚痴や恋の話で盛り上がり、下校時刻まで勉強をする演技をして居残りするのだ。
そのなかでも三年C組の蔵橋 椎奈、浮口 亜希、末松 千歳は、ひたすら人の悪口を言い続け、下校時刻を無視して見回りの教師に叱られたことが何度もある。
この三人に標的と見なされた生徒は、次の標的が現れるまでクラスメイトからの激しい虐めを受けることで有名だ。
実際に三人は、これまでに一人の女子を自殺にまで追い込んだことがある。
学校側は教育委員会の一員である蔵橋の父親からの援助を受けているため、この事件の要因をマスコミに公開することはなかった。
今日も彼女たちは教室の隅で机を向かい合わせに付け、それぞれが次の標的の悪口を吐いている。
「最近、あいつ調子に乗り過ぎ。マジで死ねば良いのに」
「確かに!次はあいつで決定だね」
「死ぬといえば……。今日で千景が死んで一年経つらしいね」
蔵橋と浮口の冷酷な言葉に、末松が気味の悪い笑顔を浮かべながら反応する。
千景とは本名を千景 有紗という、以前彼女たちの虐めを受けて自殺した例の少女のことだ。
まさか死ぬとは誰もが予想していなかった。
今日はその少女の命日だということをクラスの数人が話していたのを末松は耳にしていた。
「呪われるとか言ってた奴もいたけど……そんなこと、ある訳ないじゃん」
「あれは千景が勝手にやったことだもん。うちらには関係ないことだよ」
その後も一年前の出来事をすっかり拭ったように何処かへと消し去り、三人は陽が沈むまで教室内での雑談を堪能した。
「今日は来ないね、見回りの先公」
倉橋は席を離れ、教室の後ろ側の窓に近付いて校庭に目をやる。
いつもこの時間にはまだ練習をしている野球部も、今日は既に解散したようだ。校庭には誰の姿も見えない。
「多分忘れてるんだよ。見つからないうちに帰ろ」
末松が教科書の入っていない薄っぺらな鞄を机の上に置き、椅子に座ったまま大きく伸びをした。
勿論、勉強道具は全て学校に置いて帰っている。
「途中でマック寄って行こうよ」
「賛成」
財布の中身を確認し、浮口は机を元の位置に戻してからひと足早くドアの前で仁王立ちをした。
「いつもはもっと騒がしいのに……今日はどうしたんだろ」
独り言のように呟いてドアに手をかけるが、何故か扉はびくともしない。
「あれ……おかしいな」
何度も試してみるが、ドアは微動だにしない。
扉の前で何やら奇妙な行動をとっている友人に、二人は首を傾げながら近寄った。
「どうしたの?」
「開かないの!」
「嘘……鍵でも掛けられた?」
「鍵なんて元々付いてないよ」
何かの間違いではないかと倉橋と末松も試してみるが、ドアは不動のままだ。
もう一つは開くのではないかと微かな希望を持ったが、教室にある扉は二つとも本来の役割を果たさなくなっていた。
「……マジかよ」
倉橋が床に座り込む。
どうしたら良いか分からなくなってしまったのだ。
窓から飛び降りようにも、彼女たちのいる教室は学校の最上階。地面に着いた時点で即死は間違いない。
「そうだ、ケータイで誰か呼ぼうよ」
浮口がストラップだらけの携帯電話を短いスカートのポケットから取り出した。
しかし待ち受け画面の左上には圏外の二文字。それは他の二人も同じであった。
「地下じゃないのに……繋がらないってどういうこと!?」
最後の望みは実に呆気なく消え去ってしまった。
三人に残された方法は一つしかない。
「誰か助けてぇええ!」
「オイ先公、誰かいるんだろ!?」
「悪戯だったら殺すよ?……早く開けろよ!!」
蛍光灯が煌々とついた教室内に、三人の叫び声が虚しく響く。
彼女たちが自身の行動が全くの無駄であることを知るのは何時間後であろうか。
何故なら、この教室以外に校内には誰一人として残っていないのだから……。
陽が完全に沈み、
夜の闇が姿を現す。
助けを求める声は、彼女たちの悲劇の幕開け……。
こんなヘボ小説を公開するなんて、どきどきします……。